第23話 敵軍蹂躙
半自立型殲滅機体ヴィント。基本的に私が遠隔、もしくは乗り込んで操作する機体。
一応は自動操縦機能もついている。ただし暴れろなどの簡単な指示しかできない。
そのヴィントに空に向かって威嚇砲撃を撃たせた。敵軍の真ん中を狙っていれば文字通り一発で勝負がついている。
最高射程範囲はおよそ千人だから全ての敵を砲撃範囲にできる。
だが今回威力を試したいのはこの砲撃ではないため威嚇にとどめた。
敵軍から大量の矢が飛んできてヴィントに当たる。当然だが装甲に弾かれて傷一つつかない。
「愚かだな。ミサイルの直撃でも無傷の特殊合金に矢とは……」
あまりにもムダすぎる。そもそも装甲は仮に傷ついても自動修復するのだ。
ヴィントに手傷を与えたいならば陽電子砲を複数持ってこい。
しばらくすると矢が飛んでこなくなった。ムダと悟ったか尽きたかは知らない。
「アダム、敵の声を消せ」
「わ、我々ジュプスは諸君らの魔法に敬意を表しこうふ」
声を遮る様にアダムが敵陣に一陣の光を放ち、それと共に敵の声は聞こえなくなった。
今の一撃で拡声器の役割を果たしていた石が壊されたのだろう。
アダムは私に親指を立てた。
「……今、敵が降伏しようとしてなかった?」
「気のせいだ。我々の魔法に敬意を表し、全力で相手をすると言おうとしたのだろう。いい将軍だ」
アリアがこちらを責める目で見ているが無視する。
大事なのは降伏宣言などされていないことだ。この事実が全てである。
コンソールを叩いてヴィントを操縦し、敵軍へと接近させる。
キャタピラが巨大な砂ぼこりを立てながら、ゆっくりと破滅の使者のように前進していく。
敵から悲鳴が多数聞こえて、兵士たちが我先にと逃げていくのが見える。
「戦う前から総崩れではないか。少しは気概を見せろ」
「あんな巨大な物と戦う人はいないと思う……ボクも同じ立場なら逃げるよ」
総崩れの敵を見てリタが気の毒そうにつぶやく。
別に逃げても立ち向かわれても、どうせやることは変わらないが。
「では実験を始めるとしよう。強制亜空間転送砲起動」
『声紋承認。亜空間転送砲を発射します』
ヴィントから電子音声が流れて、両腕に仕込んだ砲台にエネルギーが充填されていく。
照準を敵軍の中央から少し左にずらして、一部の兵は攻撃範囲外に設定。
『発射まで3、2、1……亜空間転送砲、発射』
電子音の合図とともにヴィントの両腕から七色の光が放たれる。
それは敵軍の大半を光で包み、飲み込まれた兵士たちの身体が消えていく。
光が過ぎ去ったところには、兵士も鎧も残っておらずただ巨大なクレーターだけが存在していた。
「な、なに今の……?」
「スグル、みんな殺したの?」
リタが唖然とヴィントの砲撃跡地を見て、アリアはこちらに詰め寄ってくる。
彼女らには少し刺激が強すぎたか? 血も出ていないので、大丈夫だと思ったのだが。
今度ホラー映画でも見せて耐性をはかってみるか。
「ここではない場所に転送しただけだ。生きているし取り出せる」
この亜空間転送砲は、我ながら恐ろしい武装だ。
砲撃に包まれた物は生物物質問わず、名前の通りに全て亜空間へと転送してしまう。
しかも無傷での転送だ。亜空間に転送されれば、現状は私以外に出すことはできない。
つまりは敵兵を全て人質にできるし、硬さに関係なく転送するので防御も不可。
戦争においてこれほど強力な武装はそうはない。
何故ならば敵国が人質になった兵士たちを見捨てれば、遺族や人権派の者に叩かれる。
かといって毎回金を払えばすぐに財政破綻だ。内部から敵を食い破る砲撃である。
「彼らをどうするつもり?」
「……特に考えてなかったな。試験は成功したのでどうでもいいが」
敵の残りも約二百体……いや二百人なので砲撃の範囲指定も想定通りだ。
亜空間転送砲の試験は完璧に成功した。
敵兵たちは同僚がいた跡地を見て茫然としている。
「アダム、残りの敵兵の血を集めろ」
「イエス、マスター」
アダムが巨大な注射器を両手で抱えて、敵軍へと突っ込んでいった。
次々と腕に針を刺して血を吸っていく。
「ひ、ひいっ!? た、助け……いてぇ!?」
吸われた兵士たちはフラフラして倒れていき、注射器に血が溜まっていく。
「な、なにさせてるの……?」
「魔物図鑑の吸血鬼という存在に興味が出た。血が好みというので採っておこうかと」
「今宵の注射器は血に飢えているぞ」
アダムは蚊のように敵兵の血を採っていく。
注射器の血の量を見る限り目標量には到達しそうだ。
そんなことを考えていた私の前に、フラフラと上等な鎧を着た兵士が歩いてくる。
「じゅ、ジュプス軍は完全降伏する……! どうか許して欲しい……!」
兵士は草原の上で土下座をしてくる。
右腕を見ると鎧に小さな穴が開いていた。アダムの注射器で差されたのだろう。
血を抜かれて貧血になっても歩けるとは。
「スグル、もう許してあげて」
「待て。まだアダムが血を採り終えてない」
「ど、どうか……! 私の首で勘弁してほしい……!」
「ふむ。そうだな、貴様の血で後は足りるか」
こいつの血を全て抜き取れば目標量には達せそうだ。
自ら死んで献血とは見上げた根性。別に私は血にこだわりはないので、必要量が手に入ればいい。
「アダム、もういいぞ。残りの血はこいつがくれるらしい」
「イエス、マイマスター」
アダムは献血活動をやめてこちらに歩いてくる。
注射器の中には大量の血が入っていた。ほぼ満タンである。
「待ってスグル。彼を使って東の町に敗北したと伝えさせたい。そちらのほうが話が早くなる」
「ならこいつの献血はやめだ。アダム、もうしばらく行ってこい」
「も、もうやめてくれ……!? 私の部下たちが……!」
軍の隊長の叫びを受けながら、アダムが献血活動を再開。
しばらく戦場に悲鳴がこだましたのだった。
無事に血を集め終わった後は、部隊長を連れて東の町へ殴り込むことになった。
せっかく出したのでたまには動かそうと、ヴィントの操縦席に乗り込んで移動する。
部隊長は狭かったのでヴィントの手に乗ってもらった。
そこまで遠くもなかったのですぐに東の町へとたどり着いた。
すぐそばに機体を寄せて操縦席の全天モニターから町を見下ろす。
「さて。このまま町を蒸発させればいいか?」
「それはダメ。部隊長を降ろして、ここの町長に敗北を伝えさせる」
アリアの指示に従ってヴィントの手を地面につける。
部隊長は逃げるように町へと走っていった。
町長に敗北したと伝えに向かったのだ。どう言うのかは知らないが。
暇なのでモニターごしに町の中の風景を観察する。
「ふむ。ジュラの町より大きいが、貧困層が多いように見えるな」
「ジュラは魔結晶で儲けてるから」
人口をもてあましている感じの町だ。
スラムとおぼしき場所もあって治安は間違いなく悪い。
ジュラの町を攻めてきた理由も金欠だからか。よくある話だ。
さらにしばらく観察していると、町の門から何人か飛び出してくる。
小金持ちが着ていそうな服装の男やさきほどの部隊長の姿もあった。
どうやら町長とやらを呼んできたらしい。
話をするために操縦席から外へ転移して、部隊長たちのところへ向かう。
「手紙の約束通り、この町の権利を受け取りに来た」
「……はて? 私は手紙の存在など知りませんね。この部隊長が勝手に約束しただけです」
「なっ!? 町長!? 私に指揮権をくださったはず……それにこの男には逆らってはまずいと!?」
……面倒だな。こいつらを消して奪うか?
私が外部装甲を纏おうとすると、アリアが私の前に出た。
「貴方が手紙を無効と言うのは勝手です。ですが事実として貴方の軍は、この大魔法使いスグルに敗北しました」
「ほう、魔法使い様でしたか。ですがこの町は王とも関わっていて……」
「一度だけ言う。今の貴方が好ましくない回答をすれば、この巨大なゴーレムが全て潰す。次の一言が、敗北宣告でなければ」
アリアが冷たく言い放つ。その空気は無能にも伝わったようで、しばらく口をつむんだ後。
「……ジュプスの町は降伏します。どうか私は助けて欲しい」
私が潰そうとした直前、ジュペタの町長は絞り出すように声を出した。
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