第21話 戦力増強


 ルルの家を転移した後は村へと戻り、木偶の棒の量産を開始した。

 ジュラの町に戦力を卸すために急遽作る必要ができたからだ。

 そのため立体実物作成機に宿屋などの建物を作らせるのを停止し、木偶の棒の生産に専念させる。

 室内だと広さが足りないので、家のすぐ近くで作ることにした。


「次はパワータイプや特殊タイプも作るか」


 空中ディスプレイに表示された木偶の棒のデータを、電子コンソールを叩いて変更して設計していく。

 以前に木偶の棒はオーガのパワーで粉砕されてしまった。

 私は力馬鹿は好かない。だが木偶の棒はそもそも考える頭がないから、馬鹿で単純な力押しのほうが強いのだ。

 いずれ力に頼らずとも対処できるようにしたい。だが今は純粋にパワーを強化することにする。

 重量や太さを増加して、木偶の棒に相対した力馬鹿をパワーで打ち負かす。

 奴らの唯一の長所で勝つことで、ただの馬鹿にしてやろう。


「師匠! これってゴーレムですか!?」

「そのようなものだ」


 真っ赤なローブを着たルルが空中ディスプレイをのぞき込んでくる。

 実際はだいぶ違うが説明するのも面倒だ。


「ゴーレムも作れるなんて師匠は天才ですね!」

「当たり前のことを言わなくていい。何の用だ?」

「えーっと……こういうことです」


 ルルは少し顔を紅潮させながら、くるくるとその場で回転する。

 赤いローブがヒラヒラと空中を舞う。


「闘牛士でも目指すのか?」

「とーぎゅーし? それはわかりませんが……悩殺作戦は失敗か……」


 ルルは少し落ち込みながら魔法で杖を手元に転送し振るう。

 すると赤いローブが一瞬のうちに真っ黒に染まった。

 今のローブと先ほどの赤いローブを解析し比較してみる。

 すると生地の色が塗り替えられたわけではなく、物質自体が違う物になっていることがわかった。

 何のことはない、ただの早着替えだ。


「ルル、お前はジュラの町でどれくらいの戦力として計算されていた?」

「うーん……もし東の町と戦ったら五百人は倒してって言われてました」


 つまりジュラは兵士五百人が抜けたということだ。

 人口二千人の町だから兵士の人数など限られている、本来ならほぼ戦力ゼロになったに等しいな。

 流石に彼女以外に兵士もいるだろうが。


「魔法使いは戦におけるバランスブレイカーだな。弾薬などど違って休息すればまた魔法は撃てる」

「魔法使いがいる町というだけで、付近の町に大きい顔できますからね。国どうしの戦いでも魔法使いの人数と質で勝負が決まりますし」

「何とも歪だな。合理性の欠片もない」


 仮にルルが暗殺されていたら、その瞬間にジュラの町は超弱体化するのだ。

 事実として私に引き抜かれて困っている。

 一人の重要性が大きすぎる。仮に戦争当日に病気で寝込んだら終わりだ。

 私なら魔法使いの食事に腐った食材を紛れ込ませる。毒と比べて気づきづらいし下痢で戦えなくなる。


「ちなみに師匠は何人くらい倒せますか?」

「敵の数だけ」

「えっ」

「敵の数以上は無理だ。倒す相手がいない」


 自分で治してまた倒すのは流石にダメだろうからな。

 ミサイル、科学兵器によるウイルス、戦闘用ドローン……手段はいくらでもある。


「すごいです師匠! 私も魔法を強くしたいです!」

「してやろう」

「えっ……ええっ!? 本当ですか!?」


 ルルは少し呆けた後に興奮して叫ぶ。

 すでに魔法という事象の解析は進んでいる。この世界には私の知らない元素、名称をつけるならば魔力と呼ぶべきものを確認している。

 それは不思議な性質を持っていて他の元素へと変貌するのだ。

 魔法使いは空気中に散乱している魔力を集めて、火にしたり水にしたりとやっているわけだ。

 つまり強力な魔法使いとは、空気中の魔力を集める力が高い者である。


「ほれ。これで魔法を使ってみろ」


 ルルに私が作った機械製の杖を手渡す。

 彼女はそれを両手で受け取って掲げようとして、腕をプルプルさせている。


「し、師匠……これ重いですね」

「後々軽量化を考えてやる。とりあえず魔法を撃ってみろ」

「は、はい! 燃えろ、燃えろ。その全てが灰になる……ってなにこれ!?」


 魔法によって杖の先端に出た炎の球体。

 だがそれは以前とは比べ物にならないほど巨大であった。

 人の頭程度の大きさだった物が今は全長三メートルはある。


「し、師匠!? これどうすればいいんですか!? こんなの辺り一面焦土ですよ!? さらにどんどん大きくなっていくんですけど!?」

「制御に難ありか、もう少しデータを採りたかったがしかたない」


 ホバーブーツのスプリンクラーを発動し、ルルごと炎の球体に水をぶっかけて消火する。

 びしょ濡れになったルルは地面にへたりこんだ。


「ま、魔力が全部抜けちゃいました……」

「どうやらリミッターが必要なようだな」


 次は調整用のひねりでもつけておこう。ちょうどシャワーの部品が残っていたはずだ。

 しかしさっきの炎の球はかなりのエネルギーを内包していた。

 計測してみたが破裂させたら半径三キロは灰塵と化しただろう。

 魔力という存在、きちんと研究すれば核のようなエネルギーになりそうだ。


「本当にこの世界は面白い」

「師匠……動けないんですけど助けてください」

「知らん。自力で何とかしろ」


 木偶の棒の設計を完了し、立体実物作成機にデータを送って量産を開始させた。

 どんどん生成されていく木の人形たち。

 おそらく一時間後には百体は作られているだろう。そいつらを進軍させて、ジュラの町に連れて行く。

 無論、無料では渡さないので儲かる。しかも実践的なデータが取れるので一石二鳥だ。

 この金があれば王都に行って教会に寄付をし、世界地図も見れるだろう。

 

「後はあの珍妙な生物が出て来てくれればな。次はサンプルを捕獲したい」

「珍妙な生物?」

「電気ウナギの亜種だ」


 悪魔とか呼ばれていたあの生物。

 異常な頑丈性に帯電性。遺伝子をいじっても簡単には作れない生命体だ。

 前はろくな準備もしていなかったので諦めたが、今後は捕獲するために色々準備している。

 どうせならダース単位で出て来て欲しいものだ。


「スグル、ジュラの町から手紙」


 考え事をしていたらアリアとリタが駆け寄ってきた。

 少し息を切らせているので、私を探して走り回ったのだろう。


「すぐに援軍を送るかルルを返して欲しいって、東の町に攻められそうらしい」

「ほう。なかなか優秀だな、ルルがいなくなったのが知られたか」


 東の町の情報収集能力が優秀か、もしくはジュラの町の諜報への対策がダメ過ぎるか。

 予想は後者だ。あの町長は最大限世辞を言っても俗物だ。


「私は師匠のもとを離れませんよ!」

「今までお世話になった町に愛着とかないの?」

「お世話になったんじゃなくて、私がお世話してあげてたんですよ」

「えぇ……」


 ルルの言動に呆れるリタ。だが彼女の言うことは事実だ。

 魔法使いがいなくなればすぐに東の町とやらが動いた。ルルが抑止力となっていたのは間違いない。

 

「ちょうどいい、新しい木偶の棒を試す機会だ。ジュラの町へ向かうぞ」

「わかりました、師匠!」

「お前は留守番だ」

「そんな!?」


 未だに立てずにへたりこんでショックを受けるルル。

 彼女がジュラに戻ったら敵が撤収しかねん。それは避けねばならない。

 

「戻ったらさっきの杖を改良してやる。その杖が私だと思え」

「わかりました! この杖が師匠と思って待っています」

「戦いに行く恋人同士の会話みたいなんだけど」


 そんな関係ではない。ただの実験体と研究者である。

 さらに言うなら偽りの弟子と師匠だ。


「出陣の準備をしろ。一時間後にジュラの町へ転移するぞ」

 

 木偶の棒たちの完成を待って、ジュラの町へと転移で向かうのであった。

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