第20話 魔法使い
ジュラの町長の屋敷から出て、彼の荷物を回収するためルルの家へと向かうことになった。
街の中を私を除いた者が歩いている。私はホバーで一人浮いている。
「師匠! 私は炎の魔法は得意ですが水が苦手です。師匠はどうやってあの強烈な水魔法を撃てるようになったのですか?」
「知らん」
「自然と撃てるようになったなんて……天才です、流石師匠!」
「ボクは君の頭が天才だと思う」
ルルが私に当然のことを言ってくる。私が天才なのは事実であって褒め言葉ではない。
リタが彼女を見て呆れながら一歩遅れてついてくる。
しばらく移動すると一軒家の前に到着した。
「これが私の家です! どうぞどうぞ、何のおもてなしもできませんが……」
ルルが家の入り口の扉を開いて私に笑いかけてくる。言葉に従ってリタが家の中に入ろうとすると。
「おじゃましまーすって何するの!? 炎魔法を撃ってくるなんてボクを燃やす気!?」
「私が入っていいと言ったのは師匠だけよ。腰ぎんちゃく」
「……誰が腰ぎんちゃくだって? いきなり押しかけて来たくせに」
炎魔法を撃ったルルに対してリタが銃を構えて威嚇する。
二人はにらみ合いを始めた。今ので魔法のデータが取れたな、もう少し派手に喧嘩して欲しい。
「いいぞもっとやれ」
「スグル、煽らないで止めて」
互いに牽制しあってジリジリと動く二人。
ルルは家の入り口をふさぐように立ち、再び杖を掲げて炎の球を先端に生成する。
彼女の立ち位置はギリギリ家の中だ。つまりは先ほどのリプレイである。
ホバーブーツから霧状の水が噴射され、ルルはずぶぬれになってしまう。
「きゃっ!? つめたい……」
「やーい! またスグルにぶっかけられてるー!」
「師匠……これが愛の鞭なのですね……! その身で味わって受けて魔法を学べと!」
「……ポジティブすぎない!?」
まさか同じ失敗を繰り返すとは思わず、スプリンクラーを起動していたのがまずかった。
もう切っておこう。
風邪を引かれても困るので、ホバーから瞬間乾燥温風を出してルルに当てる。
「!? 服や髪が一瞬で渇くなんて……すごいです、師匠! 今のはどんな魔法ですか!?」
「魔法ではない」
「この凄まじい魔法も師匠にとっては、魔法ですらない児戯……すごすぎます!」
「すごいね君、冗談抜きで」
微妙に言葉が通じてないが問題ないな。
今のやり取りで毒気が抜かれたようでリタは銃をしまった。
先ほどと同じようなやり取りを、私のいないところでされて死なれたら困るな。
「ルル。この貧相な少女のリタは村の護衛だ。あまり喧嘩しないように」
「わかりました!」
「誰が貧相って!?」
「ボディサイズを見るに平均よりかなり小ぶりだろう。上から順に7……」
「ごめんなさい、許してください」
リタが死んだ目をして懇願してきたので言うのをやめる。
別に細身なだけなのだから気にしなくていいだろうに。
私の世界ではホルモン注射で馬鹿みたいに巨大な胸を持った奴もいる。そこまでするなら牛にでもなれ。
「では改めまして皆さまどうぞ中へ。少し散らかっていますが」
ルルについて家に入ると中は汚部屋だった。衣服や本、魔法の道具などがいたるところに散乱していて足の踏み場もない。
一部は山のように道具が積まれていたりで、人が住んでいる部屋ではない。
「えっ!? 家に入った瞬間、部屋の景色が変わったんだけど……めちゃくちゃ汚いし」
「ものすごく散らかってる。不要な物は捨てたほうがいい」
「いらない物はない。全部使う機会があるもの」
「それ典型的な物を捨てられないやつだ……外から見たら綺麗だったのに」
「魔法で誤魔化してるの。一応私にも体裁があるから」
この家全体をスキャンし解析すると、家を囲むように変な光の膜が存在している。
これが蜃気楼を起こして、視覚の電気信号を狂わせているのか。
一般人が外から家の中を覗けば綺麗な部屋が見えるようだ。
リタやアリアも外からはこの汚部屋はわからなかった。私は眼鏡がそういったジャミングを妨害するので、元から中が汚いのは知っていたが。
「師匠はくつろいでください。リタとアリア、持っていくために全部しまうから手伝って」
「……この半分ゴミ山を捨てるどころか持っていけと? 何日かかるかわからないし無理だよ!?」
「貴女にはわからないのでしょうけど。これらは貴重な道具なの! 魔法のね!」
「物には限度があるよ!」
リタとルルの口論を眺めながら、ペットボトルを手元に転送し中身の炭酸飲料を口に含む。
この二人は仲が悪いな。頻繁に喧嘩するし一緒の仕事は無理だ。
そんなことを考えているとアリアが私の元へやってくる。
「スグル、このままだと掃除に何日もかかる。何かいい方法考えて」
「……それは時間のロスだな。そもそも片付ける必要はない、全てそのまま持っていけば問題ないだろう」
部屋中に散乱しているよくわからない道具を見渡す。使う用途がわからないものが多いが、本人が大事だというならばしかたない。
全部燃やしたほうが早いがへそを曲げられても困る。
取っ組み合っているルルとリタに声をかけた。
「私が全部運んでやる」
「し、師匠のお手を煩わせるわけには……!」
「ボクたちの手はいいと!?」
「当然よ!」
「醜い喧嘩をするんじゃない。一度全員家から出ろ」
ルルは即座に私の指示に従った。取っ組み合いを一瞬でやめて杖を持って家を出て行った。
一人取り残されたリタはしばらくしてから我を取り戻した。
「……ボク、あの子苦手だ」
「見ればわかる。それよりもさっさと出ろ」
私に続いてリタとアリアも家の外へ。
「確認するが家にペットや同居人はいないな?」
「一人暮らしですから。ところで何をするおつもりなんですか?」
「家ごとワープさせる」
念のためにと家の中をスキャンすると屋根裏に人間の生体反応がある。
だがルルは一人暮らしで心当たりはない。つまりあれは考慮しなくていい。
ちょうどよかった。大質量の物質ワープに人間を巻き込んだ実験はまだだ。
空中に出した電子コンソールを叩いて、送り先を私の村の空いた土地に指定。
そしてワープ機能を発動させた。
ルルの家が七色に光り、轟音と共に一瞬で消え去った。
「わ、私の家が……し、師匠……」
ルルは顔を下に向けて震えている。
それを見たリタが私の元へと近づいてきた。
「ちょっとスグル! ルルの家に何をしたの!? あそこにはルルの大事な物もあったのに! ほら彼女もショック受けて震えて……」
「すごいです師匠! その魔法を教えてください!」
興奮しながら私の手を両手で握るルル。リタはそれを茫然と見てからため息をついた。
いいかげんこの少女の思考パターンは把握しろ、リタ。
派手なことをすればだいたい魔法と勘違いして興奮するのだから。
「ルル、お前の家は中身ごと私の村へ送った。それと謎の人体を模した家具などがあったら私に伝えてくれ、回収する」
「あの呪文って転移術だったんですか……わかりました!」
ルルは扱いやすそうなので楽でいい。
魔法という存在を解明するのに彼女は間違いなく役立つだろう。
私の世界にはなかった謎の力である魔法。タイムマシンが直るまでに必ず解明してやる。
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