第16話 チンピラ


 魔道具店の品物を手に取り、その使用用途をリタに確認する。


「このカエルの石像はなんだ? 置物ではないのか?」

「魔法使いが魔力を注げば動かして使い魔にできるんだ。魔力がないなら置物だけど」

「この魔法瓶に入ったムダにカラフルな薬品たちは?」

「ポーション。身体の傷を癒したり毒を消したり……すごい物なら千切れた腕や足も治るって聞くよ」


 紫色の液体の入った瓶を観察する。見たところナノマシンとは思えないが……。

 試飲などはやっていなさそうだ。

 他にもいくつか気になる物の説明を聞くが、魔法使いならば使える道具が多すぎる。

 魔法の存在について気になっていたが、使用可能者が限定される点がダメだな。


「特に面白みはなさそうだ。ポーションとやらをいくつか買って帰るか」

「ボク、爆破ポーション欲しい!」

「ただの爆弾と変わらん。却下」

「そんなぁ!?」


 リタが黒い液体の入った瓶を持ちながら、がっくりと肩を落とす。

 ポーション自体は買って帰るが爆発するだけの物などいらん。

 身体の傷を癒すと魔力を回復するポーションを購入し店から出る。

 そして本来の目的地である出店へと向かう。


「リタ、ちょっと右腕を切り落としてこのポーション飲んでくれ」

「何言ってるの!? やるわけないでしょ!? そもそもそのポーションじゃ身体の欠損は治らないよ!?」

「ケチケチするな、右手の一本くらい。ポーションがダメでも生やしてやる」

「自分でやればいいじゃない!」


 自分でやってもいいがデータがとりづらいのだ。

 私の身体自体が改造されていて正常とはいいがたいし。

 だがリタの怒る様子を見た感じ、これ以上の交渉はムダそうなので話を変える。

 

「ところでこの街で私は注目を集めているのだが、心当たりはないか?」

「「その白衣が原因」」


 リタとアリアが私の白衣を指さす。

 どうやら服装に問題があったようだ。注目を集めること自体はどうでもいいが、原因は知っておきたい。

 

「後はその空中に浮く靴もだね」

「歩くのが面倒だ。前は自重したがもうかまわないだろう」


 以前はホバーブーツはまずいと思っていたが、空を飛ぶ手段はこの世界にもあるとわかった。

 なら私が少しくらい飛んでも問題ない。 


「そのうち悪い奴に狙われかねないよそれ」

「それを期待しているのもある。突っかかってくれば反撃できるからな」

「ええ……」

「ほら。あれが出店だ」


 雑談をしている間に目的地である出店に着く。

 大きなテントで作った簡易店舗だが、そこでは妙な人だかりができていた。何やら木偶の棒に対して男たちが喚いている。

 様子が気になるので人だかりをかき分けて近づく。


「おうおう! ここは俺達、ダーニーズのなわばりだ! 勝手に店出してどういうつもりだぁ!?」

『いらっしゃい。ご注文は?』

「てめぇ、ふざけてんのか!?」

『てめぇ、ふざけてんのかという商品はない。スイートパン、食パン、スパゲッティが商品。商品名と数量を言え』

「注文じゃなくて金を出すか失せろって言ってんだ!」

『お釣りはゼロ』


 一人のガラの悪い男が店番の木偶の棒と会話していた。馬鹿だ。

 あいつはすさまじく人生が暇なのだろう、うらやましい。

 男は屋台の台座を手で強く叩きつけてさらに怒鳴る。


「兄貴! こいつやっちまいましょうぜ!」

「いいだろう。みかじめ料を払わないなら追い出すまでだ」


 男たちはどうやら出店の邪魔をするようだ。

 ほう、これは正当防衛の元に殴り返していいと見た。


「ねぇ。止めなくていいの? あいつら、王都でも有名なチンピラだよ」


 馬鹿な漫才を見ていた私にリタが小声で話しかけてくる。

 王都のくせにチンピラがでかい顔しているのか。この国は終わってるな。


「相手が殴り掛かってきてくれば、いくらでも殴り返せるだろう」

「その理屈はおかしいと思うな!?」

「スグル、あいつらなら許す」

「アリア!?」


 アリアから許しも出たので徹底的にやるか。

 チンピラの一人で拳を振り上げて木偶の棒に殴りかかる。

 あれが直撃した瞬間にこちらのターンだ。改良した木偶の棒を出して、袋叩きにしてやるとしよう。

 だが――。

 

「くたばれやぁ! ……ってあん?」

「いかんでござるなぁ。軽々しく暴力を振るっては」


 着物姿のちょんまげ男が、チンピラの振り上げた腕を片手で捕まえていた。

 腰には通常の剣をつけているが、服はどう見ても着物にしか見えない。

 見た目も完全に日本の武士だ。何故この世界に武士がいるのだ。

 

「なんだてめぇ! お前からぶちのめしてやる……って腕がうごかねぇ!」

「落ち着くでござる。拙者はここの店のふぁんでな、なくなると困るのだ。あ、店員どの。スイートパンを一つ所望するでござる」


 注文を受けた木偶の棒はこれまでの暴動など知らぬとばかりに、カタカタと音を鳴らしながら出店の奥へ歩く。

 冷蔵庫から袋を一つ取り出してカウンターの上に置いた。


『銅貨二枚』


 木偶の棒が値段を言う。

 武士男は片手でチンピラの腕を押さえながら、懐から銅貨を取り出してカウンターに置く。

 木偶の棒はそれを回収して、出店の奥の貯金箱へといれた。


「本当に木偶の棒が店番やってる……」

「当たり前だ、できないことなどやらせない。だが思ったより売れてないのが気になっている」


 味は間違いなくいいのだ。味付けも濃いし、試しに村人に食べさせても絶賛された。

 もっと売れていいはずなのだが、それなりの売り上げなのだ。


「店番が棒だから」

「問題ないだろう。鳥が売るとかならば衛生面がまずいが」

「カタカタ不気味に動く店番が問題ないもんか!」


 別に問題ないと思うのだがなぁ。ホラー映画の動きを参考にしたとはいえ。

 しかしあの武士のせいで迎撃チャンスを失ってしまった。

 さてどうやって向こうを悪者にして殴り掛かるか。


「おい! おっさん、俺達をダーニーズと知っての行動か!」


 チンピラの一人が腰に装備したナイフを手に持った。

 刃物が出されたことにより野次馬から悲鳴があがる。さあ盛り上がってきた。


「おぬしらのことなど知らん。だが狼藉を振るうならば相手になるでござる」


 武士も対抗するように腰の剣を鞘から引き抜く。

 見た目は完全に武士だが、武器は刀ではなく普通のロングソードだ。

 どうせならばそこも合わせればいい物を。

 だが武器が抜かれたならちょうどいい。無理やり乱入するか。

 武器を持った二人の間へと割り込み、後にリタとアリアが続いた。


「なんだてめぇは!」

「この店の主人だ。大事なお客様を守るため、私は仕方なく正当防衛を振るうとしよう」

「いかにも周りに対する言い訳じみてるね……」

「はっ! 上等だ! てめぇからぐえぇ!? あ、頭がいてぇ!?」


 チンピラたちは私の時計から流れる音波によって、頭を抱えて苦しみもがく。

 これは直接相手の脳を破壊することを狙う兵器だ。

 以前の珍妙な生物と同種にまた出会った時、生け捕りにするための策として開発した。

 だが出力がだいぶ弱いな。最大出力でも人間の脳すら壊せないとは。

 これ以上は無意味なようなので音波を止める。

 チンピラたちは頭痛がまだ残っているようで、頭を手で押さえたまま恨めしそうな目でこちらを見ている。


「ふむ。こいつらのような明らかに脳容量の小さい奴すら無理とは。これは失敗作と認めざるをえまい」

「て、てめぇ……!」

「リタ、こいつらを気絶させて捕らえておけ」


 リタがチンピラたちに手刀をいれて気絶させる。

 元からぎりぎりで意識を保っていたようで、彼らはパタリと地面に倒れた。

 

「見事な魔法でござるなぁ。助けられたでござる」

「……あなたがこのチンピラに負けるようには見えないけどね」

 

 リタがぼそりと呟く。彼女がそう言うならばこの男は強いのだろう。

 私に武術の心得はないのであまりわからないが。

 どうやらうちの店のお得意様のようだし、別に恩着せがましくする必要もないな。


「すまないね。これからもうちの店をよろしく頼む」

「無論でござる。しからば拙者はこれにてご免」


 剣を鞘にしまって武士は去っていった。

 時代劇で敵を成敗した風だな。特に何もしなかったが。

 男を見送りつつチンピラたちをどう扱うか考えるのであった。

 

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