第17話 店の改善案
チンピラを撃退した後、リタとアリアに店を見てもらうことにした。
私の予想ではもっと大流行しているので、なにか原因があるのだろう。
この世界の住人の視点で判断してもらう。
「どうだ? 出店として問題ないだろう?」
「このパン甘くておいしい」
アリアがスイートパン、ようはスイートポテトをほおばる。
サツマイモは簡単に培養できるので、売れてくれればうれしいのだが。
「このスパゲティ? もおいしいよ。ソースも味が濃いし、ちょっと食べづらいけど」
リタが立ちながらカルボナーラのスパゲティをフォークで食べる。
容器も食器も店で出すのと同じプラスチック製を使っている。
他にもおにぎりなどが食べられたが、どれも美味しいとの感想だ。知っている。
「味に問題がないのは知っているから何故売れないかを話せ。何皿もただ食いしておいて、建設的な意見を言わないなど許さん」
「店は問題ないと思うよ。外装はちょっと変わってるけど、ちょっと目立つってくらいだし。店員以外は」
「アリアはどう思う?」
「おかわりほしい、飲み物も」
アリアが空の袋を差し出して、リタの持つスパゲティを指さす。
あれをくれと言うことだろう。
「アリア……自分の願望じゃなくて店の改善点を聞かれてると思うよ……」
「なるほど。確かにそれは一理あるな」
「なにが!? え!? 本当に願望でよかったの!? ならスパゲティもう一つほしい!」
「誰が欲しい物を言えといった」
「何でボクだけ!?」
リタが何やらわめいている。いつも騒がしい奴だな。
放置しつつアリアにお茶のペットボトルを渡す。
「たしかに飲み物も売ったほうがいいな。私としたことが失念していた」
「あ、そういうことなの……ところで座って食べるところないの?」
「スペースを取るからない。あくまで持ち帰り専用だ」
店内飲食は回転率も悪くなりがちだ。買って持って帰ってくれた方がいい。
木偶の棒に商品を運ばせるのも不安だ。配送ミスの多発が目に見えている。
「店番だけ雇ったらいいんじゃないの?」
「木偶の棒で事足りている」
「……なら一度対応してもらいなよ、木偶の棒に」
リタの提案に従って木偶の棒をカウンターにつかせる。
試しに自分が客になったつもりでシミュレーションするとしよう。
木偶の棒に注文を開始する。
「注文だ、スイートパンを一つ」
『数を言え』
「一つだ」
木偶の棒は後ろに備え付けられた冷蔵庫から、スイートパンの入った袋を一つ持ってくる。
そしてカウンターに置いた後。
『銅貨二枚』
「ほれ」
銅貨二枚をカウンターに置くと、木偶の棒はそれを回収して足元の貯金箱にいれた。
そして私はスイートパンの袋を手に取った。
「どうだ。全く問題なく金銭のやり取りができただろう」
「問題ないけど愛想が足りなすぎる……」
「木偶の棒から愛想もらって嬉しいか?」
「……全く嬉しくないけどさ。でも原因は絶対これだって! こんな不親切な店じゃ商品がいくらよくたって売れないよ! これが店番じゃ!」
リタが木偶の棒を指さす。これ呼ばわりとは失礼な。これでも私が作ったんだぞ。
しまった、私もこれと呼んでしまった。
「いいだろう。ならばその身で示してもらおうか、原因が木偶の棒であると」
「え? その身で示せって……?」
「店番やれ」
百聞は一見に如かず。リタとアリアに店員をやらせてみて、その結果で判断するとしよう。
幸いにも見た目はいい二人だし。
私の言葉にアリアは無表情のまま頷く。
「わかった」
「えっ、いいのアリア? そういうの好きじゃなさそうなのに」
「売れたらボーナスもらう」
「……いいだろう。君たちの論が正しいと証明したならば払う」
「えっ!? 本当!? じゃあボクもやるよ!」
現金なものでやる気になるリタ。
しかし店番となればリタは今の服ではまずいな。一応は警備役なので皮鎧まで着ているし。
手元にメイド服を転移させてカウンターへ置く。
「リタもこれを着ろ。アリアと同じメイド服だ」
「わかった。売れたらボーナス忘れないでよね!」
「いいとも。だが今より売れなかったら、お前たちは木偶の棒以下のビジュアルと認定する」
「不名誉すぎる……」
店番が売れ行きの原因ならば、売り上げが落ちたらそうなる。
仮に成功したらアダムを店番にするかバイトを雇うか。
「あのー……ボクはどこで着替えれば……?」
「ふむ。そこの大型冷蔵庫の中なら見えないだろう」
リタは私が指さした大型冷蔵庫を開く。
ちょうど品物もなくなったところなので、スペースも余裕にある。
「さむっ!?」
「すぐ着替えれば大丈夫だろう」
「うう……ボクも村で着ておきたかった……」
ぶつぶつと文句を言いながら冷蔵庫の中に入って扉を閉めるリタ。
こっそり冷凍庫モードにしたらどうなるだろうか。
しばらく待っているとメイド服に着替えた彼女が出てきた。
私の目の前でひらりと回転して、スカートの裾を持ち上げてお辞儀する。
「どう? ボクも意外といけるでしょ?」
「ああ。そこのおっさん相手に春を売れそうなくらいには」
「褒めてるのかけなしてるのかどっち?」
「褒めているに決まっているだろう。そんなことよりさっさと店番をしろ」
冷蔵庫に大量の食品を転送しつつ、リタたちが店番をするのと観察する。
彼女らは店のカウンターに立つと近くを歩いている人に声をかける。
「いらっしゃい! おいしいパンや珍しい食べ物がいっぱいあるよ! どれも味は天下一品! さあさあ食べてみてよ」
「いらっしゃい」
リタが大きく明るい声を出す中、いつもと同じ声量のアリア。
こういった盛り上げや客引きはリタのほうがよさそうだな。
彼女らというかリタの声に反応して、何人かの客がやってきた。
そのまま商品をいくつか買って帰る。
「なるほど。参考になるな」
「へへーん。ボクこういうの得意なんだ」
「周囲の人間を引き寄せる音波を流せばよさそうだ。軽い催眠程度で効果がある」
「ボクの声はそんな酷いものじゃないよ!?」
私と会話しながらもテキパキと客引きするリタ。
アリアは注文された商品を用意する係になっている。今のところは普段よりも売れ行きがいいな。
この店は一人の客が多めに買うが、あまり数が来ないことがネックだった。
そんなことを考えていると、剣などを構えた男どもが十数人が店の前に集まってきた。
「すごいな。今日は大盛況だ、団体様だぞ」
「いやこれ絶対お客じゃないよ!」
そこらの奴よりもガタイがいい男が前に出てくる。
そいつはカウンターにナイフを突き刺した。
「……俺の弟分をこけにしたと聞いたぜ。どこにやった?」
「そういえば……スグル、彼らはどうしたの?」
「わからん。さっき投薬した結果次第だ」
オーガの肉体を人に与えられないかを試したのだが、まだ投薬して時間が立っていない。
もう少しすれば何か起きるだろうと踏んでいる。
「今すぐ返せば半殺しで済ませてやるぜ?」
「実験結果が出るまでは断る」
「そうかい。じゃあ死ねや」
男が俺に剣を振るってくるが、それは当然のごとく電磁バリアがはじく。
奴は剣がはじかれたことに警戒してか、私から距離をとった。
この世界に来て初めて見た動きだ。だいたいは同じように攻撃し続けてきた。
「弱ったな。今は試したい物がないのだが……二日後くらいに来てくれないか?」
「舐めてんのかてめぇ! 喰らいやがれ!」
男は四角の固形物をこちらに投げる。
それは電磁バリアに当たった瞬間、轟音とともに爆発した。
煙と土埃が辺りに舞い散る中、私は
「なっ!? 爆破ポーション!? ボクが欲しかったやつ!」
「俺に逆らうからだよ……ってなんで生きてんだてめぇ!?」
「死んでいないからに決まっているだろう。お前は面白い物を持っているな、私がもらい受けよう」
隙だらけの男に出力を下げた右手のビーム砲を放つ。
光線に直撃した男は気絶し地面に倒れた。先ほどスキャンしてみたが、こいつは先の店で見た魔道具をいくつか持っている。
実に僥倖だ。日頃の行いがいい私へのプレゼントに等しい。
倒れた男の傍へ行き、右手で胸倉をつかんで身体を宙に浮かせた。
そして左手で魔道具と思しきものを回収していく。
「「「あ、兄貴がやられた!?」」」
「後はいらん。返すぞ」
「「「あ、兄貴が素っ裸に剥かれた!?」」」
何やら衣服の生地にも変な反応があったので、根こそぎ奪って男を仲間のそばに投げた。
残念なことに実験体は今のところ揃っている。
飼うとすぐに運動不足になってしまうから、必要な時に捕獲したいのだ。
「ボクら完全に追いはぎじゃないのこれ」
「向こうが先に仕掛けてきた」
「アリアの言うとおりだ。我々は被害者だ、いくら反撃しても許される」
「「「ひ、ひいっ!? お助けぇ!?」」」」
「逃げるのか。見逃してやるから二日後に来い」
残りの有象無象は気絶した裸の男を運んで逃げて行った。
二日後くらいなら実験ができそうなので、また来て欲しいものだ。
カウンターが穴を開けられて壊されてしまったが許そう。
そして店の営業を続けるが全然人が来なくなってしまった。
「うう……さっきの騒動でみんな近づいてくれない……」
「ふむ。リタとアリアは木偶の棒以下か」
「これは酷いでしょ!? なしだって!」
リタの悲鳴を聞きつつ、店の改善方法を考えるのであった。
軽い洗脳音波は大いにありだ。飲み物も用意しておこう。
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