第15話 街ビルド


 珍妙な生物を倒した後、自分たちの村へと帰った。

 隣村はすでに我々の植民地として使える。人口も増えたし以前から考えていた計画を実行に起こすことにする。

 アリアとリタを連れて村の中を見回り、今後にどのような建物を配置するかを考える。

 そしてこの村の立地計測結果を表示した空中ディスプレイに、作る建物の詳細のオブジェクトを置いて設計図を作っている。


「スグルは本当にこの村を街にするつもりなの!? 信じられない……」

「信じても信じなくてもかまわん。だがお前の仕事は増えてきつくなるぞ」

「……今でもかなりきついんだけど」


 この村の人口は二十一人で隣村は五十人ほど。

 これだけ人数がいるなら合併すればそれなりの規模になる。

 後は人が移住してくるように基盤を作ればいい。人間は単純だ、住むところと仕事があれば勝手に集まってくる。

 さらに設計図に追記していると、リタが覗いてくる。


「うわぁすごい……酒場にギルドハウス、神殿に風呂屋に売春宿……五十年後の目標図か」

「馬鹿か、そんな気の長いことをするか」

「……はい?」


 私が何のために詳細な設計図を作っていると思っているのだ。

 これは絵にかいた餅ではなく完成図だ。

 指を鳴らすと目の前に高層マンションのような形の巨大な機械が転移する。

 

「……な、なにこれ」

「立体実物作成機だ。設計図通りに物質を構成する」


 目の前の巨大な機械に設計図のデータを送信した。

 するとデータを受け付けたようで赤く光った後に、中から人ほどのサイズの機械たちが大量に現れる。

 キャタピラで動くそれらは、様々な方向へと散らばっていった。

 近くで作業を振られた機械たちは、目から光を出して様々な物質を出力する。

 建物の柱や家具などが作られて、設計書通りに各所に配置されていく。

 

「あれらが設計図通りに物を作る。材料はそこらの木材などを勝手に伐採するだろう」

「めちゃくちゃだ……全国の大工が商売あがったりだよ」

「だが規定品しか無理だ。オーダーメイドはかなり面倒で改良の余地はかなりある」


 リタはこちらを好意的な目で見てくる。

 だが酒場もギルドハウスも何もかも、事前に入れておいた中世の建物のデータから作らせるだけ。

 理想は自分で自由に設計したものを作らせられることだ。 


「あっ。もしかしてボクの銃もこれで作ってるの?」

「そうだ。まさか私が金づちで打っているとでも思っていたのか?」

「そうとは思えなかったけど……どうやって作ってるのかは気になってた」


 この立体実物作成機は私の発明品の中でもかなり便利な代物である。

 大抵の物は作れるし、私が手間をかけて操作するならば特注品も可能だ。

 無から有を発生させるわけではないので、鉄などは作れないが……今回の素材である木ならば周りにいくらでもあるからな。


「後は人を呼び寄せる方法だが、近くの村を焦土にする」

「それはダメ」

「スグルはもう少し常識を学ぶべきだと思うな!?」

 

 アリアとリタが私の完璧な計画に文句を言う。

 最も簡単に人が集まってくるというのに。


「安心しろ。元の村よりも住みやすいし、大きな街となり今後も発展するし仕事もある。一切の欠けがない完璧な計画だ」

「あるよ! 人道的な観点が著しく欠けてるよ!」

「人道など犬に食わせておけ」

「人の言葉とは思えない!?」


 なおも叫ぶリタの言葉には、効率という概念が足りない。

 チマチマと人を集めていくなどやっていられるか。


「あの珍妙な電気生物の存在も調査せねばならない。タイムマシンを直す段をさっさとつけたいのだ」

「タイムマシンが何かは知らないけど、スグルはもう少し手段を選ぼう!?」

「何を言うか。手段を選んだからこうなったのだ」

「いやいやいや」


 リタが手を振って私の言葉を否定してくる。

 彼女は私がどれだけ妥協をしているか理解していないようだ。


「アリアも何か言ってよ!」

「スグルは本人なりに妥協している。それは間違いない」

「……周りの村を焼くことのどこに妥協があるの!? 言ってみてよ!?」

「止めなかったら国ごと焼いて鉱山を強奪してた」


 リタは壊れたブリキのようにゆっくりと私に顔を向けた。

 その目が恐ろしい者を見たと語っている。


「……ボクさ、昨日の悪魔がすごく恐ろしかったんだ。でも本当に恐ろしい存在は身近にいたんだ!」

「人を珍妙な生物みたいに言うな」


 こいつは私のことを何だと思っているのか。

 まぁ人から化け物扱いされるのには慣れているが。

 

「後は金儲けだがな。リタをスカウトした街に自動販売店を置いておいた」

「自動販売店?」

「簡易屋台で出店を出した。しゃべる木偶の棒に店番をさせている」

「すごく行きたくないんだけど……」


 リタが何を想像したのかうんざりした顔をしている。

 どうでもいいので飲料ペットボトルを手の中に転送、蓋を外して水分を補給する。

 いささかしゃべりすぎて喉が渇いてしまった。

 それを彼女らがうらやましそうに見つめてくる。


「スグル、私も欲しい」

「ボクも」

「アリアにはやろう。私を珍妙生物扱いしたリタにはない」

「ちょっ!? スグルは格好いいよ! ほら、敵を一切人間扱いしない残虐なところとか!」


 リタは褒めてるつもりなのか、喧嘩を売っているのだろうか。

 脳波を読むと驚くことに前者なようだ。給料下げておこう。

 うるさいのでリタにもペットボトルを渡す。


「本来なら簡易屋台というより自動販売機にしたかったが。この世界ではそういった習慣がなさそうなのでな」

「自動販売機?」

「金銭を渡したら勝手にこのペットボトルのような物が出る仕組みだ」

「スグルみたいなものか」

「私は自動でも販売機でもない」


 だが言われてみれば自販機扱いされている気がする。

 今度から金銭くらいは取るべきか……そうすると完全にそうなってしまうか。


「木偶の棒たちのお店。興味ある」

「ならば見に行くか? そろそろ材料も補充しておきたい」


 アリアは軽くうなずいたので、王都へ転移で向かうことにする。

 

「なんでボクも!? ボクは別にいいってば!?」

「お前は王都暮らしだった。何かの役に立つかもしれないし来い」


 逃げようとするリタに電撃を流して麻痺させ、三人で王都の近くに設置したポータルへ転移する。

 直接王都内部に入りたかったが、ポータルを置ける場所がなかった。

 いつものようにザル警備兵の身体チェックを受けた後、許可をもらって正門を普通にくぐる。


「……スグルみたいな危険人物が、簡単に王都入れちゃうんだね」

「私以外も危ない人物が簡単に潜り込んでいると思うぞ」


 私が科学技術で武装などを隠蔽していることを考えても、チェックの仕方が全体的に雑である。

 そもそも剣や槍なども携帯を許可されているので、何を持っていたら街に入れないのか知らないが。


「禁止されているのは大魔法以上を発生させられる魔道具」

「前から思っていたが魔道具とはなんだ?」

「魔法を使うための道具だよ。王都に専門店あるけど行ってみる?」

「頼む」


 時間もあるしそれでいいか。さっきの珍妙な生物もだが、明らかに私の世界とは違う物理法則で動いているものがある。

 きっとその根底にあるのが彼女らが話す魔法とやらだろう。

 徹底的に調査してみるとしよう。

 リタは街でも特に大きい建物の前へと案内した。

 巨大な門には魔道具店リファレスと書いた木の看板が貼ってある。

 

「王都で魔道具と言えばここだね。この国でなら一番大きな店だよ」

「そうか。ならば色々と調査してみるか」


 門をくぐって建物の中へと入る。

 店の中には魔法瓶の中に入った色とりどりの液体や、上等な作りのローブや様々な形の杖。

 他にも蛇の干物や洗濯ばさみみたいなもの。

 説明書きに風を起こす魔道具と書いてある物やカエルの置物。

 黒い球体や赤く光る石など、統一性のないものが陳列されて売ってある。


「どう? これ全部魔道具なんだよ」

「……特に統一性もなく、用途のわからない色々な物を置いた店。ここは百均ショップか?」

「百均ショップ?」


 私の世界の過去に存在していた店だ。安いを目玉に流行していたらしい。

 とりあえず魔道具とやらが分かればいいので、手近にある物を手に取って観察することにした。

 

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