第13話 オーガ狩り


 隣村から戻って翌日の夕方。いつものように自宅にリタとアリアを呼び出した。

 オーガを捕らえるための話し合いというわけだ。

 彼女らは椅子に座らせて話を始める。


「よく来たな。オーガの捕獲作戦を説明する」

「怪物ローダを倒せたなら、オーガもやれるもんね」


 あの熊男がオーガより強いのか。なら強さは期待できないな。

 木偶の棒ズやリタをもう少し強い魔物や敵と戦わせたいのだが。


「そういえばローダたちはどうなったの?」

「後腐れないように隣村に正規の報酬を払わせて帰らせた」

「優しい!? どうしたの頭打った!?」

「失礼な。隣村を許すと言った以上、雇われの彼らも解放するのが筋だ」


 派遣元の冒険者ギルドとトラブルがあると面倒だと、アリアに助言されたのもある。

 多少のもったいなさはあるがそこまで欲しい者でもない。

 今後のことを考えて解放した。


「ボクも強化してもらった銃を試したいし」


 機嫌よく改良した銃を抱いているリタ。

 先日の隣村の戦いで約束を果たしたので銃の性能を上げてやった。

 早く実戦で試したいようだ。


「念のため言っておくが、元の性能に戻しただけでお前に渡した時は改悪していたんだぞ」

「わかってるよ。今度はさらに性能強化してほしいんだけど」

「お前が成果をあげればな。しかし本当に銃を気に入ってるな」

「そりゃそうだよ。ボクは今まで攻撃力が足りなかったんだ。これがあれば……」


 リタが銃を丁寧に布で拭いているが、その目は少しばかり影が差しこんでいた。

 きっと強くなって何か目的があるのだろう。結果を残してくれればどうでもいいが。


「だが今回は他の銃も使ってもらう」

「えっ!?」

「この麻酔銃を使え」


 普段の拳銃タイプではなく狙撃用の銃を、机の上から手渡す。

 リタは受け取って色々と観察した後。


「大きいねこれ……」

「遠距離を狙うための銃だ」


 リタにスナイパーライフルを使わせることも考えた。

 木偶の棒ズの後ろで狙い撃つならば、拳銃よりもこちらのほうが適している。

 だが現状は拳銃でも事足りているのと、何となく断られる気がして言っていない。


「ふぅん……わかった。今回はこれも使うよ」

「弾丸の装填方法などは後でアダムに教われ」


 リタはうなずいて更に渡した銃を色々と触っている。

 そのうちバズーカ砲でも渡したらどんな顔するだろうか。

 

「ではオーガの話に戻る。今日の晩に隣村にやってくるので捕獲する、以上だ」

「今日の晩!? ずいぶん急じゃない!?」

「特に準備もいらないだろう?」

「そりゃそうだけど心の準備とかさ……」


 オーガが今晩来ること昨日の時点で知らされていた。

 だが特別な用意も不要なので伝えてなかっただけだ。仮に何か必要なら事前に言ったが。


「あの熊男が狩れるならば、片手間程度のレベルだ」

「ローダってBランクの一流冒険者だからね!?」


 木偶の棒二体とリタで勝てる程度の奴が一流とは。

 もう少し骨のある奴が出て来て欲しいものだ。


「隣村にはすでにポータルを設置したので転移で向かう。リタは強制で参加だが、アリアはどちらでもいいが?」

「えっ!? アリア、お願いだから来て!? ボクじゃ暴走科学者を止められないよ!?」


 アリアの両手をつかんでお願いするリタ。

 こいつは私のことをなんだと思っているのだ。 


「わかってる。私も行く」

「ありがとう!」


 リタは椅子から腰をあげてアリアに抱き着く。彼女はスキンシップがやや過剰だ。


「では転移ポータルを使用して隣村へ向かう。木偶の棒ズとアリアも連れていくぞ」

「わかった」


 自宅から出て木偶の棒五本とアダムを呼び出し、村の中心部に設置した転移ポータルへと移動する。

 そこの紫色の水晶玉を起動し、隣村へと転移した。


「すごいなぁ……転移なんてかなり大きな街でもそうそうできないのに」

「私としてはこの文明レベルで転移なんて存在するのが驚きだ」


 リタからたまに話を聞くが、この世界には本当に魔法が存在するようだ。

 実際に魔法使いはまだ見ていないが、以前の陣電話もそれを使った物らしい。

 私も調査したが原理が不明だったので信ぴょう性はある。

 できれば魔法使いを捕らえて色々と調査したいものだ。

 私たちが村に転移してきたことに気づいたようで、元副村長で現村長の中年男が慌ててやってきた。


「よ、ようこそいらっしゃいました! オーガはすでにやってきて酒を飲んでいます!」

「……何故酒を飲んでいる?」

「酔わせた方が捕まえやすいかと」

「余計なことを」

「ひ、ひっ!? 申し訳ございません!」


 私の言葉に反応して、中年男が必死に土下座してくる。

 ……これではオーガの正確な力が測れないではないか。

 だがまぁ今回は捕獲がメインだから、それがこなせればいいとするが。


「土下座はいらん。それよりオーガの元へ案内しろ」

「ははっ!」


 中年男は腰を折り曲げて、頭を下げたまま俺達を案内する。

 誰も頭が高いとか言った覚えないのだが……。

 しばらく歩くと地面の上であぐらをかき、葡萄酒を浴びるように飲んでいる巨大な人型が見えた。

 頭に二本の角を持ち、紫の色の体躯。全長は三メートルはあり、足元に巨大な金棒を置いている。

 顔が赤いので酔っぱらっているのが残念だが。

 

「ど、どうぞ。不意をついて殺してしまってくだせぇ」

「貴様がオーガだな? 私はスグルだ、貴様と取引に来た」

「あん? 男はいらん、帰れ」


 オーガからの返答に知性は感じられない。どうやら交渉は不要のようだ。

 人と同じ頭脳を持つならば、話し合うのも悪くないと思ったがムダだった。


「リタ、さっさと生け捕りにしろ」

「わ、わかった」

「おっ!? かわいい女子が三人もいるじゃねぇか! こいつらも俺の献上品ということだな! 犯してやるからさっさと来い!」


 オーガがリタたちを見つけて、バカでかい声で叫ぶ。

 品性の欠片もないなこいつ。やはり交渉など考えた私が愚かだったようだ。

 私を愚かにさせた罪は重い。


「木偶の棒たち! 前進して敵を倒して!」


 リタがいつもの命令を下すと、木偶の棒ズがオーガに襲い掛かる。

 オーガは金棒を手に取り千鳥足で立ち上がる。対する木偶の棒ズはカタカタと不気味な動きで対抗する。

 今ここに見た目だけ酔拳対決のような図式が出来上がった。

 実際は酔っ払いとホラー映画人形みたいなものだが。


「おらぁ!」


 オーガの酔っ払いスイングを木刀で受け止める木偶の棒。

 だが力が違いすぎたようで、そのまま弾き飛ばされ民家の壁に叩きつけられる。

 足が壊れてしまい、両手で地面をはいずるように動く。


「こんな玩具に負けるかよ!」

「ふむ。品性と知能を捨てた馬鹿力は、代償の分だけ強力だな」

「てめぇ、楽に死ねると思うなよ!」


 オーガが私に金棒を向けて叫ぶ。

 事実を述べただけなのに激怒とは愚かな。そう思うならば改善すればいいものを。

 そしてこちらにはまだまだ戦力はあるのに、戦闘に加わっていない私に意識を割くとは。

 リタが隙だらけのオーガに向けて銃の引き金を引いた。


「……なんだぁ?」

「嘘!? 銃が効かない!?」


 弾丸はオーガの腹部に直撃したが、肉を貫通せずに肌で止まってしまった。

 かなり弾力性のある肉体だ。かなり面白い研究対象になる。

 腹部を気にしていたオーガに、残りの木偶の棒ズが躍りかかる。


「ぐっ……木人形が鬱陶しいんだよ!」


 オーガは木刀で叩かれつつも、滅茶苦茶にこん棒を振り回し木偶の棒ズを牽制する。

 弾性は優れているが硬くはない。木刀のほうがダメージは入るようだ。

 そして弾丸が通らない肌だとしても、それは銃が効かないということではない。


「うっとうし……ぐ、ぐああああああ!?」

「やった!」


 オーガの右目をリタの弾丸が貫いた。生物というのは大抵は目が弱点だ。

 痛みで片目を押さえたオーガに、木偶の棒ズが木刀でビシバシと叩き続ける。

 さらにリタも角や口などの有効そうな箇所に銃を撃ち続けた。

 もはやただの袋叩きだ。イジメのように周囲からボコっている。

 奴はしばらくの間、手負いの獣のように暴れ続けた後。


「が、はっ……」


 大きな音を立てながらオーガは地面に崩れ落ちた。

 思ったより苦戦したが問題なく勝利した。そして木偶の棒の新たな弱点も判明した。

 ローダとオーガがほぼ同じ強さならば、同じように二体で相手どれるはずだ。

 だがオーガには一体が瞬殺され、四体でようやく抑え込んでいた。

 木偶の棒は一定以上の攻撃力に弱いということだ。

 改善の余地があるだろう。

 

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