第12話 隣村へ進軍(後編)


 熊みたいな人間に続くように、村から武装した人間たちが出てきた。

 合計で十人ほどだが全員冒険者のようだ。構えなどが様になっている。

 そいつらを観察していると、リタが近づいてきて耳元でささやく。


「まさかすでに冒険者の護衛を雇ってるなんて……スグル、どうするの?」

「木偶の棒ズを使って倒せ。アダムは使用禁止だ」

「えっ。相手は怪物ローダなんだけど……」

「勝てば銃の性能を強化してやる」


 私の言葉にリタは目を輝かせて、熊のようなガタイの人間に視線をうつした。

 そして周囲を確認した後に指示を出す。


「木偶の棒たち、前方の敵を倒して!」


 リタは前進していく木偶の棒ズの後ろをついていく。

 なるほど、私たちは後ろにいるから攻撃対象に入らないか。

 リタも少しは命令に慣れてきたようだ。これならば殉職した木偶の棒も浮かばれる。


「はっ! 木の人形に何ができる!」

「これでも血濡れの刃を倒したんだ!」

「こんなガラクタが? そんなわけねぇだろうが!」


 ……ガラクタなのは同意する。だがあのゴミすら倒せないと思われるのは心外だ。

 怒りのままに巨大な砲を目の前に転送し、私の作品を侮辱した男に照準を向ける。 


「マスター、さすがに荷電粒子砲使うのはまずい。ここらが更地になる」

「大丈夫だ。そんな程度は私の作品が侮辱されたことに比べれば」

「スグル、それはダメ」


 アリアが私に抱き着いて訴えてくる。

 ……ふむ、やはり物足りない身体つきだな。肉が足りない気がする。


「失礼なことを考えてる」

「事実を思ったまでだ。……撃たないから離れろ」


 仕方がないがまぁいい。あの熊男があれだけ舐めた木偶の棒に負けるほうが、意趣返しとしては気分がよくなる。

 

「リタ、木偶の棒ズを使って勝てなかったらわかっているな?」

「ひっ!? は、はい!」

「マスターは鬼畜」


 何が鬼畜と言うのか。負けたら荷電粒子砲を撃つから避けろという意味だろうが。

 木偶の棒ズと冒険者たちが接敵し戦いが始まった。

 

「なっ!? こいつら硬い!」

「動きもなんか気持ち悪ってぐおっ!?」


 木偶の棒ズのカタカタ動きから繰り出される拳や、木刀で叩かれて気絶していく冒険者たち。

 動きが予想されてにくいように、ホラー映画の人形の動きを参考にした。

 緩急もある動きなので翻弄されているようだ。


「はっ! ただの木の棒に負けるかよ!」


 冒険者たちが一方的に蹂躙される中、二体の木偶の棒を相手どる熊男。

 あれだけ偉そうなことを言って、集団で戦うことを想定している木偶の棒二体に善戦程度とは。

 口だけにもほどがある。

 それに相手する必要があるのは木偶の棒だけではない。


「なっ……!?」


 銃声と共に熊男が腹を手で押さえる。リタの銃に撃たれたのだろう、それは大きすぎる隙だった。

 木偶の棒が、もう一体の木偶の棒の足を手に取る。そして両手で持ち上げて武器のように、熊男の頭に向けてフルスイングする。


「はっ……? そんなのありか……よ……」


 それは脳天に直撃し男は地面に倒れ伏す。


「ぼ、ボクがローダを倒した……!?」

「リタ、当たり前だ。いちいち驚くんじゃない、他の奴らも倒せ」

「う、うそだろ……ローダさんがやられた……!?」


 放心気味のリタに注意するが、それは敵の冒険者たちも同じなようだ。

 ローダが倒れたのを見て茫然としている。そしてそれはおろかと言わざるを得ない。

 空気など読まぬとばかりに、木偶の棒ズが隙だらけの敵に攻撃する。

 完全に勝負はついた。もう少し手ごたえのある敵を雇って欲しかった。


「ね、ねぇスグル! ボクがローダを倒したんだ!」

「あんな土木作業専用マシーンみたいな力馬鹿だぞ。勝って当然だ」


 実際には木偶の棒ズが倒したのだが。リタ一人でもやれただろう。

 そもそも無理ならば最初から雇っていない。

 村の入り口に陣取る敵が全滅したのを確認し、村内部をスキャンし人間の存在を確認する。

 まだ五十人ほどはいるようだ。


「さて第一陣は倒したがまだ敵は村にいる。このまま進軍するぞ」

「待って、残りは普通の村人」

「待たない、村人は兵士だ。一般人も戦うゲリラ戦術という言葉もある」


 降伏宣言される前に全て捕らえる。そうすれば奴らは敵として処理できる。

 時間が惜しいのでアダムを出して捕獲するのもありだな。

 そんなことを考えながら木偶の棒ズをつれて村の中へと入った。


「ま、待ってくれ! 俺達が何をしたって言うんだ!」


 悲鳴とともにひげを生やした中年の男が家から飛び出してくる。  

 武器を持ってないが今更話し合いに来たとは、おめでたすぎる頭だな。

 

「何をしたって色々としただろう。私を暗殺しようとした罪、アリアに詐欺を押し付けた罪、俗物を村長にした罪」

「わ、私たちはそんなこと知らないんだ! 全てエクボが独断で!」

「最後は独断ではないだろ。それに貴様らが選んだ代表が行ったのだ。そして今、私の時間を奪った罪が加算された」

「そ、そんな!?」


 全く面白みのない話だ。自分たちは悪くないんですぅとか、私の貴重な時間を無駄にするな。

 さっさと全員捕獲してしまおう。

 リタに指示をしようとすると、遮る様にアリアが中年男の前に立つ。


「エクボはどこ?」

「わ、わからない。今日の夜に村総出でアリア村を撃退し、逆に取り込む作戦を練っていた。だが今日の朝から姿が……」

「なるほど、貴様らは全員囮だな」

「なっ!?」


 この村を囮にしているのは間違いないだろう。

 自分だけ逃げたのか、それとも私たちの村に襲撃の算段があるのかは知らないが。

 ああいった俗物は逃げ足だけは早い。


「た、たのむ! 降伏するから許してくれ!」

「今更だと? しかも貴様はこの村の代表者ではない。また都合次第で他の村人は言うのだろう? お前が勝手に言いましたと」

「ち、ちがっ!」


 くだらん、本当にくだらん。さっさと捕らえてゴブリンにしてしまおう。


「リタ、ここの村人を全員捕獲しろ」

「待って、スグル。たしかに彼らに非はある、でもこの村を残すことには大きなメリットがある」

「何があるというのだ?」

「ここの村はオーガと取引してるって噂がある。残しておけば来るかも」


 ……以前にオーガは簡単には見つからないと聞いた。図鑑で確認したがやつは人なみの知能を持つらしい。

 確かに人と取引していてもおかしくない。それが本当のことならば。

 中年の男に視線を移すと彼は狼狽しながらも。


「え、ええ! オーガに脅されて色々献上してます! さっきのローダさんも退治のために呼んだんです!」

「嘘ではないな。そうなるとこの村が滅んだらオーガに警戒されるな……いいだろう、オーガと我々を引き合わせるなら村は残してやる」

「あ、ありがとうございます!」


 中年の脳波を感知しても嘘ではない。

 ならばオーガが手に入るならばこの村はどうでもいい。目障りになれば焼き払えばいい話だ。

 だが盗れる物は取っておこうか。


「……今の村の代表は誰だ?」

「わ、私です! エクボがいないならば副村長である私が!」


 どうやら中年男が出てきたのは副村長という肩書があったためなようだ。

 念のためにと作っておいた書類を懐から取り出す。 


「ならばここにサインと血印を押せ」


 中年に「我々は無条件で降伏します」、という旨の書かれた契約書を渡す。

 まさか使うことになるとは思わなかった。

 中年は必死の形相で書類にサインと血印を押そうとするが。


「あ、あの。私は字が書けないのですが……」

「無能が」

「あ、ああばばばばば!?」


 中年の男の頭を右手でわしづかみ、強制洗脳装置を発動する。

 私の腕から男の頭に白い電流が流れた後。


「す、すごい! 文字がわかる!?」

「強制的に頭に叩き込んだのだから当然だ」


 ちなみに脳内のどこかにランダムで叩きこむので、一部の記憶が上書きされる可能性があるが些細な事だ。


「こ、これでどうでしょうか?」

「ふむ……書類に問題はないな」

「今後は貴方がエクボの代わりの村長」

「……エクボって誰ですか?」

「よかったな。人生において最も不要な記憶が消去されたようだ」


 私もあの男の記憶は不要なので抹消すべきだろうか。

 そんなことを考えているとアリアがそばに寄ってくる。

 

「ありがとう、スグル」

「結果的にアリアの希望になっただけだ。正確には君が私を思うように動かしたと言うべきか」


 私はメリットをもたらさない人間が嫌いだ。

 彼女は人権にうるさいが、それ以外のこういったところで私の望みを察する能力がある。

 こんな村の人間よりもオーガのほうが貴重だ。

 自分の願いだけ言うのではなく、相手のメリットも考慮しなければ交渉ではなくお願いである。

 見知らぬ者のお願いなど聞く価値はない。


「なんか綺麗に収まったようになっているけど。エクボはどうするの?」

「どうでもいい」

「この戦争を仕掛けた理由じゃなかったの!?」

「あんな俗物相手に仕掛ける意味があると思っていたのか!? リタ、お前正気か!?」

「ええ……」


 信じられんな、リタよ。あんな俗物は相手にする時間の無駄だ。

 本当に目障りならさっさとミサイルなり打ち込んでいる。


「リタはもう少しスグルのことを理解すべき」

「無理でしょ!? スグルよりもゴブリンとかオークのほうがまだ分かるよ!?」

「言葉が通じる人間に対してその言い草はなんだ」

「通じてるというより、一方通行だよねぶっちゃけ!」


 やれやれ。リタにはもう少し私の考えを叩きこまなければ。

 まぁ私の意図を理解して動く人間など、今までに二人しかいなかったが。

 

「では金目の物を奪って帰るぞ」

「……やっぱりこれ戦争じゃなくて、盗賊の殴り込みじゃないかな」


 リタは謎の呟きをしながら木偶の棒ズに命令し、金目の物を村に持って帰らせる。

 だがまぁ行きと帰りでは坂なども逆なわけで。


「ああ!? 木偶の棒が高台の岩にぶつかって高価な衣装が汚れた!? あっ、金を持った木偶の棒が池に落ちた!?」

「学習しろお前」


 リタは大勢指揮するのは苦手なようだ。

 やはり二十体ほどが彼女の命令限界数とすべきか。後は木偶の棒に高価な物は運搬させてはならない。

 色々といいデータも取れてもうかった。今回の訓練は成功と言えるだろう。 

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