第11話 隣町へ進軍(前編)


 明朝、村の入り口にいつものメンバーと木偶の棒ズが揃った。

 彼女らを集めた理由は先日の話のとおり、隣村に攻撃を仕掛けるためだ。


「ではこれより出陣の訓練を開始する。目標地点は隣村、捕縛対象は俗物だ」

「訓練じゃなくて本番だよね!? そもそも対象の名前は!?」

「アダムが答える。ケチャップの刃を雇っていた奴」

「ケチャップの刃って何!?」


 リタが叫んでいるが俗物の名前なぞ覚えていない。

 

「あの村で最も愚かな俗物っぽいのを捕まえろ。それが対象だ」

「ひどっ!?」


 名前は憶えていないがあの生き醜さはそうそう出せるものではない。

 ある意味才能と言える。


「わからなかったら全員捕縛しろ。背骨の一本くらいまでは許す」

「何でも許すと変わらないんじゃないかな!?」

「それはダメ」


 彼女らの言葉を聞き流しながら戦力を確認する。

 今回も木偶の棒ズの試験がメイン。私の兵器も試してみたいが敵の兵力次第だ。

 総勢四十体の彼らがどれくらい暴れられるか。そしてリタがどれほど使いこなせるか。

 

「リタ、今回の成果次第ではボーナスを出す。なるべく敵を増やせ」

「敵を増やせって何!?」


 皆まで言わせるな。なるべく隣村が抵抗するようにしろ。さっさと降伏されては困る。

 アリアが面倒なので口には出さないが。

 昨日の仕掛けがうまく作動してくれればいいのだが。


「雑談はこの程度でいいだろう。さっさと木偶の棒ズを出陣させろ」

「わかったよ……木偶の棒たち、隣村に出陣!」


 木の人形たちはリタの指示に一切従わないで棒立ちしている。

 

「隣村なんて対象が分かるわけないだろ」

「ああもう! 南に向けて前進!」


 ようやく命令を受け付けた木偶の棒たちは、南に向けて歩き始める。


「よし、このままいくよ! って進路の大木に何体か引っかかってる!?」

「前進命令だからな。障害物に関わらず前進するに決まっている」

「そこの二体は右に十歩歩いて再度前進! ってああ!? 高台から何体か落ちた!?」

「数体に気を取られ過ぎだ」


 その後も池に落ちたりして、木偶の棒が何体も壊れていく。

 今後の慣れを考慮しても進軍の時は命令者一人では、あまり大勢の木偶の棒は操れないな。

 被害を出しながらもしばらく進んだ後に草原で小休止することになった。

 

「うう……ごめんなさい。許して……せめて安らかに殺して……血塗りの刃みたいなことはしないで……」


 そこでリタが土下座をしながら私に謝ってくる。

 なんだ安らかに殺してって。


「アリア、私はどんな目で見られているんだ」

「死ぬよりつらいことを教える拷問者」

「命より大事な物はあまりないぞ。数十年のリソースをかけているのだ、簡単に失ってはもったいないだろう」


 アリアはため息をついた後、土下座したままのリタの頭をなでる。


「よしよし」

「うう……」


 リタは涙目になりながらアリアに慰められている。

 やれやれ。まるで私が鬼や悪魔ではないか。


「安心しろ。殺すつもりはない」

「ひっ……!?」


 私の言葉にリタの顔が蒼白になった。

 おかしい、安心しろと言ったのに何故怖がる。


「も、もう自決するしか……!」

「何もするつもりはないと言っている。お前は研究母体としてではなく、戦力兼雑用係として雇ったのだ」


 ここで実験体にしてしまっては、これまでの木偶の棒たちは無駄死にである。

 すでにリタには育成リソースを注いでいるのだから。


「ほ、ほんと!? ……って母体? ボク、女って言ったっけ……?」

「雇用時に全身スキャンしておいた」


 リタは今度は顔を赤くしながら身体を腕で隠す。

 蒼白になったり赤くなったり忙しい奴だ、信号機かお前は。


「す、スキャンってアレだよね!? 服とか全部透けて見えるって言ってたやつだよね!?」

「間違ってはいない」


 実際には服だけでなく肌も透かすことができるのだが。

 リタはそそくさと私から距離を取る。


「やはり木偶の棒を潰した責務を負わせるべきか?」

「ま、待って! それだけは勘弁して!?」

「ええい! まとわりつくな!」

「痛っ!? バリア出さないでよ!」


 今度はまとわりついてきたリタを電磁バリアで弾き飛ばす。

 それを見ていたアリアがほのかに笑った。


「やれやれ……そろそろ進軍を再開しろ。もはや子供の遠足みたいになっているが」


 今で七体ほどの木偶の棒が壊れた。

 暗殺者相手ならば一体もやられなかったのに。やはりあいつらはゴミなようだ。

 そこらの池のほうが厄介とは。

 リタが改めて指示をして森の中を入って進み続けると、ようやく目的地の隣村が見えてきた。

 

「……村を守ってる奴ら、素人じゃないよ」


 リタが村の入り口に陣取る二人を見て呟く。

 たしかに装備なども使い古されているが、急場しのぎの物ではなさそうだ。

 木々の中に隠れているとはいえ、こちらに気づいていないので大したことはないだろうが。


「武器が剣であることを見ると冒険者だと思う。防衛役ならば槍のほうがいいけど、剣を装備してるのは慣れてるから」 

「ふむ、我々の動きを感知して防衛役を雇ったか。いいぞ」


 当然だが奴らは敵だ。つまり何してもいい存在ということ。

 しかし二人だけか? せっかく焚きつけたのだから、もっと雇っていてほしいのだが。

 

「リタ、こちらに気づかせろ」

「えっ。不意打ちしないの?」

「するわけないだろう。迎撃してくれなければ意味がない」

「とことん訓練みたいだねこれ……いいけど」


 リタはため息をついた後、木々から出て空に向けて銃を放つ。

 木偶の棒ズがそれに続いて続々と出ていく。

 その音で見張り役はこちらに気づいて目を丸くする。


「なっ!? なんだあの数は!?」


 こちらの木偶の棒の数に驚いているのだろう。

 三十三体いる。二人程度ではどうにもならない数だ。


「敵襲だ! かなり多い! 援護を!」


 見張り役が近くに置いてあった銅鑼を鳴らすと村から女や子供の悲鳴と、男たちの雄たけびのような声がしてきた。

 どうやら戦ってくれるらしい。

 だが敵の準備が整うまでは待つか。


「スグル、降伏宣告してほしい」

「……しかたあるまい」


 拡声器を出して村全体に聞こえるように音量を調整する。


「スグル村のスグルだ。貴様らの長が我らに攻撃してきた、よって正当防衛として反撃する。貴様らは全員同罪だ、全て排除する」

「降伏宣告じゃなくて根絶やし宣告じゃないかなこれ!?」

「スグル……!」


 アリアから非難の視線が飛んでくる。だがここで村長を差し出して、自分たちは無傷で助かろうなんて人間はいらん。

 村を侵略したならここは我々の統治下になるし、うかつに助けるなどと約束するのは断る。


「しかし俗物を差し出せば多少は情状酌量を考えてやる」

「あんな奴の言うことを聞くな! 先に攻撃してきたのはあっちだ!」


 拡声器に負けない音量で俗物の声が響き渡る。

 どうやらこの世界にも同じような物が存在するようだ。陣電話もあるので別におかしくはない。


「俺達には凄腕の冒険者たちがついている! ここで奴らを倒して、逆に隣村を侵略する!」


 俗物の声と共に村の入り口に、ひときわでかい男が出てきた。

 身長二メートルはありガタイも熊のようにいい。

 そこらの力自慢が両手でも持てるか怪しい大きさの斧を、片手で軽々と持ち上げている。

 

「そのとおり! このハウンドベア殺しのローダ様がいるんだ、負ける要素などねぇ!」

「リタ、また何か出てきたが知っているか?」

「怪物ローダ!? さっきの血濡れの刃にも負けず劣らずで有名なBランク冒険者だよ」

「つまりゴミか」


 せっかく強い者かと期待したのに、前と同じではゴミではないか。

 まぁ前の暗殺者は対人特化の戦闘スタイルだった。今回のは単純に力馬鹿だろうから木偶の棒に相性がいい、以前よりはまともな戦いになるだろう。

 

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