第2話
あたしがどうしても背中が痛いって言い張るものだから、彼があたしにお弁当を作ってくれた。キャラ弁がいいって頼んだのに、作ってくれたのはただの海苔弁。つまんないや。いや、でも美味しくいただいたけどね?
一緒に棲んでる彼、ユウタが優しい。彼の特徴でもある優しさは、今このときだけは、あたしだけに向けられているのだ。優しくて、優しくて、痺れる。ユウタ。
「背中痛いの? なんで痛いの?」
たぶん背中にナイフか弓矢かなにかがいくつか刺さってるんだと思うよ。
「日光浴したら治ると思うよ」
え、そうなん? やってみるわ。
で、あたしはベランダに出てしばらく背中を太陽にあぶってみた。うん、大丈夫。溶けていなくなっちゃった。あたしへの殺意。だれからだかわかんないけど、なんだか腹立つ。あたしのことを憎んでる敵からかも。仕方ないけどね。
「ありがとう、ユウタ。治ったっぽい」
あたしは半分でろでろに溶けながら、お腹をぷるんぷるん揺らしながらゼリー状になって、ユウタのいる部屋に向かった。あたし、透明な青色なの。綺麗なの。スライムなの。いいでしょ?
ユウタはと言うと、部屋で巨大な氷と格闘していた。
「なにしてんの? ペンギンでも飼うの?」
「違うよ。きみと一緒にしないで。ぼくはアーティストだから、この氷が溶ける前に氷アートを作るんだからね!」
いや今夏だし。溶けちゃうよ? エアコン寒いと思ったら氷のためだったのか。ていうかどこからそんなすごい大きな天井まで届きそうな氷を持って入ったんだい、ユウタ? わけわかんないよ。
「普段は冷凍庫に入ってるでしょ、氷なんていつも。馬鹿にしないでよね、ぼくのアートを! ほら見て、ハート形!」
とかなんとか言って、椅子の上に立ち上がって、片手にチェーンソーを持っている。氷の粉状になったものが煌めきながら部屋中にどこか涼やかな轟音とともに散っていく。ああ、かき氷作ってるみたい。すごい綺麗。シャリシャリだわ。
「ねえ、要らない氷もらって食べていい?」
「だめ、ぼくの! 全部ぼくの! 氷イズマイアートアンドマイハートだからね! 答えはノーだよ!」
ちょっとよくわかんないからもう知らない。
隣の部屋では象が雄たけびをあげていた。近所迷惑にもほどがある。いつも昼の三時になったら象の咆哮が聞こえるんだ。象使いでも棲んでんのか、隣? おい? 苦情の電話はかけないでおこうとは思ってはいるけど。我慢してやっているけど。しょうがないから。
「なに! 聞こえない!」とユウタ。顔が青ざめている。寒いんじゃないかな。
「いやなにも言ってないよ。ちょっと外でかけてくるね。寒すぎるからここは」
「外は暑いよ! 氷背負っていけば?」
それはいいのか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます