第三話 辺境で出会いがあれば、それはそれで良いこともある#0
この名前もなき『世界』は一つの巨大な大陸と、その沿岸に付属するいくつかの島々によって成り立っている。
では、それらを越えた世界の先はどうなっているのか?
探究心旺盛で命知らずな者達の手によって、東の海の果ては滝状になっており底の見えない漆黒の空間に水が流れ落ちていることが確認されていた。
更に好奇心旺盛な愚か者はその滝の先に何があるかを知ろうと目指し、ただ一人として戻ることはなく、その後の情報が伝えられることもなかった。
そのため、滝の先にはただ虚無が広がっているのだろうと噂されている。
同じく北の果てや南の果てを目指した者もいるが、それぞれすべてが凍りつく極寒の地獄となにもかも溶かす灼熱煉獄が続いており、これらの地域を踏破できた強者は未だ存在せず詳細は不明。
また西の果てについて全く情報が無いが、これはその領域が魔族領に属しており、確認に向かった者がいないためである。
魔族は世界の果てに興味など無いらしく、はっきりとしたことを語る者はいない。
とはいえ、世界の一部だけが他と異なる構造をしているというのも変な話であるから、おそらく他と同じく滝のようになっているのだろうと想像されていた。
世界が平面いわばテーブルかお盆状になっているのならば、当然その裏側(自分達がいる場所を表面として定義した場合)が存在するはずだ。
どこの世界にも好奇心が旺盛な者は一定数存在するし、その中に幸運──あるいは不幸──にも能力や財力を併せ持った者が存在することもある。
だから勇気と度胸は充分以上に持っていても理性と知性が些か残念な『冒険家』は、その疑問を深く考えることもなく行動に出ることもあった。
そして今のところ、その全てが徒労に終わっている。
地下に向かって穴を掘るのは魔法の力を持ってしても容易なことではなく、掘るのに数ヶ月以上を費やした辺りで限界を迎える。
当然だ。穴を掘るだけなら特に問題はない。魔法の力を使えば不可能ではない。
だが、その現実と理屈の前に大きな落とし穴がある。
穴を掘れば土砂がでる。そして、出た土砂はどこかに集めなければならない。
数メートルならまだしも数百メートル以上になれば掘り出される土砂も馬鹿にならない量になる。
それほどまでに大量の土砂を保管しておくなど、場所がいくらあっても足りないだろう。
魔法ならなんとかなる、と考える者もいたが現実はそれほど甘くない。
確かに物を別の空間に収納する魔法具や体積を圧縮し、縮小・小型化する魔法具は存在する。
だがその収納能力は無限ではないし、莫大でもない。
しかも収納を維持するためにも魔力を使うし、その為に必要となる魔力結晶は文字通り天文学的数字になるだろう。
結局莫大な資産と労力を費やした結果、殆どの『冒険者』はちょっとした鉱石を掘り当てるのが関の山であった。
後に残されるのは果てしない徒労と少なくない借金ぐらいであった。
もっとも稀に希少鉱脈を掘り当てる幸せ者もいるため、この手の無謀な試みは絶えることがなかったが。
これらの結果から一部の研究者はこの世界が乗った『テーブル』は相当の厚みがあり、地底には巨大な空洞が存在するのではないかと考えていた。
この世界に点在するダンジョンには地下空洞への入り口が隠されており、そこには魔物達の世界・魔物達の国があるのではないかと予測したのである。
実際ダンジョンは深く潜れば潜るほど強力な魔物が存在する傾向があり、中にはどうやってその場所に入ったのか謎なほどに巨大な魔物が存在する例も多々ありこの説を補強している。
もっともその地下空洞なるものが実際に発見された例は皆無であり、その入り口らしきものが発見されたこともなく、魔物の国に至っては伝説上でしか存在が確認できない有り様なので文字通り机上の空論ではないかと思われているのが現状だが。
それでも一種のロマンとも呼ぶべき探求に私財と人生を捧げる者は後を絶たない。
その努力と労力を別の方向へと向ければ、それは社会により良い形で昇華されたであろうに。
だが、まぁ。
そんな愛すべき愚か者達の行動により、今の人族の世界があるのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます