第三話 アーティファクト#0


 『アーティファクト』


 それは、神代の時代に作られた、人族には複製することも再現することもできない強力なマジックアイテムの総称である。

 その力は地形を変え、天候を操作し、強大な魔物達を打ち倒すことさえ出来たと言う。

 神々と選ばれた使徒によって産み出された魔法技術の結晶であり、人如きの知恵が及ぶようなモノではないのだ。


 アーティファクトの大半は、七日間に渡って世界を焼き尽くした終末の日によって失われたが、悲劇を生き延びた遺跡やダンジョンと言った建造物から発見されることがある。

 その価値たるやリーブラで表現できるモノではなく、発見者は富も名声も思いのままだ。

 一つアーティファクトを発見すれば、億万長者も夢じゃない。

 そんな宝物――アーティファクトを探し求めるのが、『探索者』の始まりである。


 とはいえ、全てが全て有意義な物であるとは限らない。遺跡から発見されるアーティファクトの中には『相手の背中にワッと声を出す』みたいな、一体何をどうしたらそんなくだらないアイテムを作ろうと思ったのか正気を疑うレベルの物も存在する。

 だが、そんなくだらない物であっても、重要性はまったく損なわれない。

 なぜなら、相手の背中に声を送り込むということは、つまりは空間かあるいは音波を操作する魔術が使われているということであり、充分に研究する価値があるからだ。

 効果はくだらなくとも費やされている技術は高く、今の魔法技術では再現は不可能とは言わなくとも著しく困難であり、その仕組を解明できれば様々に応用が効く可能性が高い。

 一見くだらないアイテムに見えても、アカデミーに持ち込めばそれなりの金額になる。それも魔物資源や魔力結晶とは比較にならないほど高価な。

 アーティファクトの発見は、探索者達にとって目指すべき最も大きな目標なのだ――った筈だが、そのあまりの難易度の高さに、アーティファクトを求める者の方が少数派になっているのが現状であるが。


 しかし気をつけなければならない。

 アーティファクトは効果の大小はあれ、基本的には有用なものであり、ポジティブな効果を持つものが大半である。

 だが、中にはどのような目的で産み出されたのか想像も付かぬネガティブな効果を持つアーティファクト、いわゆる呪いのアイテムも存在する。

 所有者に不幸を齎すだけにとどまらず、周囲にまで影響を及ぼして大災害を巻き起こすこともある。


 そして、それは呪いのアイテムだけではない。


 貴重で有用な効果を持つアーティファクトも、扱い一つ間違えただけで呪いのアイテムに等しい効果を発揮する場合がある。

 過ぎた欲望のままにアーティファクトを用いれば、その報いは必ず訪れるのである。

 そしてその報いを受けるのが、本人だけであるとは限らない。


 心するが良い。

 力に溺れる者は、力に利用されるだけの運命しか無いのだと。

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