第二話 探索者クロエの憂鬱#0


 そもそも、変な言い掛かりをつけて喧嘩を売ってきたのは、アチラの人族連中なんだって話だよ。

 最初の予想していなかった出会いが不躾だったのは認める。

 こちらとしても準備も心構えも出来てなかったからな。次に合うことがあれば、宴席でも用意してお詫びをしようと思っていたぐらいだ。


 だけどなぁ……数カ月後に突然押しかけて来た挙げ句、神の威光がどうの、信仰がどうの言われても困るワケよ。

 こっちにだって神様はいるんだし、別に余所の神様を軽視するつもりも馬鹿にするつもりもないが、こちらの神様を辱めた挙げ句自分達のそれを一方的に押し付けられても困るって話だ。

 それだけでも斬り捨ててやろうかってレベルの狼藉だというのに、それだけでは飽き足らずこちらの魔法の使い方一つにまでいちゃもん付けてくるわ、頼みもしないのに変な道具を押し付けてくるわ……。

 そもそもなんでアイツらは一々上から目線なのだ?

 自分自身の魔力で魔法を使えるのが、そんなに気に入らないのかねぇ。

 こちらから見れば魔力を他から用立てできる連中のシステムも相当に羨ましいモンだが。

 そして神様とやらに対する盲信。奴らにとって『神』とは何一つ間違えないし、全てを正しく判断する存在なんだそうだ。

 普段見慣れているこちらの神様とはえらい違いだな。

 あまりにもアレなんでとりあえず「神とは敬うものであって、闇雲に従うだけの相手じゃない」と諭しておいたら、面白いほど顔色を変えやがった。

 その後は、もう聞くに堪えない罵詈雑言の山。しまいにゃ、怒鳴り声ばかりで何を言ってるのかすらわからなくなる有様だ。


 これは、なんだ? 友好とか交渉に来たのではなく、喧嘩を売りに来たのか?


 こちらの言い分に耳も貸さず、ひとしきり喚き散らし、そしてたどり着いた結論は『文明を解さぬ野蛮極まりない未開人である』だと。


 まぁ、それはいいさ。

 こちとらお上品な文明人だと言い張るつもりはないし、言いたいように言えばいい。


 だが、その噛み合わないやり取りの結論が、『未開人はそれなりの手段でしつける必要がある』ときたモンだ。

 犬や猫の話か? 失礼にもほどがあるってものがあるだろう。


 一応我らが最後の神『ユリヅキ』様にお伺いを立てた所、「向こうの気が済むまで相手すればいい」といつもどおりやる気の無いお返事。

 あの方は基本的に下々のことに関与するのを好まず、余程のことがなければ動くことはない。

 つまり、この程度は『余程のこと』ではないということだ。


 ふん、丁度良い。こちらとしても売られた喧嘩を買うのは吝かではない。

 戦いこそ我らが誉。手を抜くのはあちらにも失礼というものだし、こっちもいい加減溜まりまくった鬱憤を晴らしたいと思っていたところだ。


 相手が価値観の違う異文化であることを最大限配慮して、こちらの流儀を持ち出さぬようにしていたが、こうも耳を貸さず、『ユリヅキ』様も止めないというのであれば、配慮する必要もないよな?


 若い衆の鍛錬や危機感を持たせるにも都合が良いし、向こうからわざわざ来てくれると言うんだ。

 我らが役目、いずれ世界の果てから押し寄せてくるであろう『鬼』との戦いに備える意味でも有意義だ。

 アイツらだっていずれ迎える『竜』との戦いの『りはさーる』とかいう奴にもなるだろうし、両者両得。


 精々派手にやってやろうじゃないか。

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