第二話 魔王様とお仕事#0


 一つの大陸がある。

 特に名前も無いこの大陸は、創世記の時代に神々が自らの創造物を住まわせるために作られたと伝えられている。

 人族は自らの支配圏に国王を頂点とし貴族達が補佐する国家を作り上げていたが、特に名前をつけることもなくただ『王国』とだけ呼んでいる。

 大陸の大半は人族が支配していたが、大陸を南北に横切る険しい山脈『西方連山』より先に勢力を及ぼすことが出来ず、魔物達が闊歩する密林に覆われた危険領域となっていた。

 そこから更に西へと進んだ先には魔族の領域が存在する。


 人族はその危険地域に何度も開拓団を送り込み支配領域拡大を狙ったが、その全てが強力な魔族に阻まれ悲惨な結果に終わっている。

 しかし、だからといって人族は諦めない。

 少しでも勢力圏を広げるために数世代に渡る努力を繰り返し、開拓のための拠点を築き上げていた。

 その過程で魔族との接触が起こり、不幸な出来事が積み重なった結果、長年の戦争へと至ることになる。


 王国の西端となる辺境の城塞都市『コンコルディア・ロクス』。


 魔物の生息地も近く魔族との戦争中には最前線拠点であったこの都市は、辺境とは思えぬ大きさを誇っており、精強な騎士隊と戦士隊を中心とした『領軍』を配置し戦力も充実してる。

 もともとは違う名前の都市であったが、百年前に人族と魔族の和平協定がこの都市で結ばれ、それを記念して今の名前へと変更された。

 フィードル・プレミデム・メディア辺境伯によって治められるこの都市は、王国の守りの要であると同時に屈指の商業都市であった。和平後には魔族との交易拠点ともなり、辺境の都市とは思えぬ繁栄ぶりである。

 辺境伯は開拓に関して絶大な権限を王国より与えられており、メディア伯はそれを最大限有効に活用していた。

 その結果が積極的な魔族との交易であり、魔物『資源』の活用による莫大な利益である。

 それだけで良しとせず、メディア伯は更に大きな手を打つ。


 探索者達の誘致と定着政策である。


 一般的にはゴロツキに毛が生えた程度と思われている探索者達に敢えて便宜を図り、その見返りとして探索者達が持ち帰る『資源』に関して優先権を得ていた。

 魔物『資源』はその大半が高価な商品であり、多くの富をもたらす。

 その仕組を正しく理解しているメディア伯は自分たちの利益を最大化しつつ探索者達の利益にも配慮し、両者の関係を絶妙なバランスの上に成り立たせていた。


 もちろん問題が無いわけではない。


 探索者の大半は郷土愛など持たぬ余所者であり、街の住人とのトラブルは絶えない。

 もしくは街の住人の方にも田舎あがりの探索者を詐欺めいた手法で食い物にする輩が存在し、探索者側の反発を招いている。

 これらの問題を衛兵と法律、そして裁判によって可能な限りトラブルの段階で抑え込むことに成功しているメディア伯は、凡庸とは程遠い統治者であろう。

 そのためこの都市は、辺境にあるにも関わらず高度な秩序を誇っているのであった。


 商売があり、仕事があり、秩序がある。

 城塞都市『コンコルディア・ロクス』はさらなる発展を遂げ、今や王都にさえ匹敵する第二の都市へとのし上がりつつあった。

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