第8話 商業都市へ
「じゃあ、行ってきます!!」
「気を付けてね」
家を出て、アリシアと共に村の北に向かう。向かう先は村の北出入り口だ。
「えへへ‥‥」
「どうした、アリシア?」
「いやぁ~、初めて違う都市に行くから、何だか楽しみだな、と思って‥‥ブレイブはどう? 何かある?」
「そうだな‥‥結構楽しみだな。ワクワクする」
これからの展開を考えると、ヤバイ。テンション上がるわ!
スクールに行くのは『知識を得ること』、なんてあり得ない。この世界の事など、ほぼ全て知り尽くしている。
ではなぜスクールに行くことを目指すのか、それは‥‥‥‥仲間を集めるためだ。
後々ストーリーが進むと、仲間が増えていく。だが、このゲームは進め方次第で仲間が加入する順番が変わってくる。
加入する順番が変わるとどういう弊害があるかというと‥‥‥‥特定のイベントが発生しなくなる。
アリシア早期仲間ルートの際に手に入れたエクストラスキル【共有者】の様なブッコワレスキルが他にもあるし、イベント完走の際に貰えるアイテムがゲーム中最高にブッコワレ性能というモノもある。
エンジョイプレイをする以上はそう言ったスキルやアイテム集めに勤しまなくてはならない。
だから、これから出会える仲間を夢見てテンション爆上げだ!!
「だよね♪ じゃあ、急がないとね。行くよ、ブレイブ!」
「あ、おい待てよ、アリシア」
今日はアリシアの方が俺を引っ張っていく。
まあ、折角アリシア早期仲間ルートを選んだんだし、こういう風に偶には手を引かれるのも、エンジョイプレイっぽいからいいよな。
□
村の北出入口にたどり着いた。だが、門が閉まっている。
「おはようございます。エービスに行くので、門を開けて下さい」
門の管理をしているおじさんに声を掛けて、開けてくれるように頼んだ。
「ああ、ブレイブにアリシアか。昨日洗礼を受けたんだったな。エービスに行くってことはスクールに行くのか?」
「はい、なので門を開けて下さい」
俺が再度門を開けてくれるように頼んだが、首を振って断られた。
「ダメだ。お前ら二人で行くつもりだろ。それだと道中でモンスターに出くわしたらやられちまうぞ」
「でも、俺達スクールに行きたいんですけど‥‥」
「うーん、それはそうなんだが、お前ら二人だと、万一のことがあるからな。まだ洗礼したばかりだから、この先の地形も知らねえだろう。それじゃあ危ねえ。‥‥そうだ、少し待ってろ」
おじさんはその場から走って出て行く。
この場に俺とアリシアの二人は残された。
「行っちゃったね。どうする、ブレイブ?」
「待つしかないだろう。勝手に行くわけに行かないし」
「そうだね」
俺とアリシアはその場で待つことにした。
ただ、このまま待っているのもつまらないし、持ち物の確認をしてみるか。アイテム蘭の確認は冒険の必須項目だ。
袋を開けて中を見てみると、『水』、『食料』、『所持金』、『回復薬』が入っていた。なるほど、冒険の始まりの必須品だ。これだけあれば、エービスに行くのに苦労は無いな。ありがとう、母さん。
ん? 袋の底に何かがあるな。それを手に取ってみると、木箱だった。木箱を開けてみると、二つの指輪があった。
「これは‥‥【守りの指輪】か」
母さんから渡される旅の準備品の中には【守りの指輪】が入れられていた。
【守りの指輪】には装備者の防御力を上げる効果がある。危険な道を行く息子を心配する親の愛、何だろうな。
ゲームをしていた時にはただの装備品、貰えてラッキー、という風にしか思っていなかったが、ブレイブ自身からはまた違った感じ方をしてしまう。
エービスに行くのに、全く危険が無い、というわけではない。昨日の森にいたモンスターより強いモンスターもいるし、道を間違えると、今のレベルでは歯が立たないモンスターだっている。無事に帰ってこれる保証は何処にもない。
帰ってこれるように、無事でいてくれるように、願う親の気持ち、だと思った。‥‥‥‥装備品なんて、使い道が無くなったら売って、新しい装備を買うための費用の足しにするくらいしかなかったのに‥‥はぁ~、困ったな、持てるアイテム数には限りがあるんだけど、この指輪は売れないな。
「アリシア‥‥」
「ん、なに?」
「これ、一つやる。持ってろ」
「えっ!? いいの?」
「‥‥二つあった。俺の分はあるから、もう一つはお前が持ってろ」
「うん! ありがとうブレイブ♪」
アリシアは【守りの指輪】を嬉しそうに受け取っていた。ただの装備品を、メンバーで分け合うことを殊の外喜んでくれた。ゲームではこんなことは一々言わなかった。まるで生きているみたいに‥‥‥‥いや、ちゃんと生きているんだな。ゲームの世界だなんて思うことは今を生きている、アリシアにも、母であるマリーにも、何よりブレイブにも失礼なことだ。
「おーい、ブレイブ、アリシア」
おじさんが戻ってきた、一人の青年を伴って。
「待たせたな。村で都合がつく奴探したら、ちょうどいいのがいたぞ」
「ちょうどいいの、って‥‥まあ、俺もエービスに行くつもりだったからいいけど」
「あ、ライルさん」
おじさんが連れてきたのは同じ村に住む青年―――ライルだった。
ライルはブレイブ達より歳が6つ上の16歳。パーティキャラに選ぶことが出来るキャラで登場順で言えばアリシアを除けば最速だ。
パラメータ的には平均的で可もなく不可もない感じの、良く言えばバランス型、悪く言えば器用貧乏、というパラメータだ。成長速度も同じく平均的だ。まあ、最初にブッコワレ性能のキャラは出て来ないよな、アリシアの様な特殊条件を除いて。
だけど、現状で言えばエービスに行くのに非常に心強い戦力だ。
因みにステータスはこんな感じだ。
【名前:ライル】
【性別:男】
【年齢:16】
【レベル:10】
【クラス:槍術師3】
【HP:80】【HP:80】
【MP:35】【MP:35】
【筋力:25】【攻撃力:40】
【体力:25】【防御力:35】
【敏捷:30】【機動力:35】
【知力:15】【魔法攻撃力:15】
【器用:25】【命中力:25】
【幸運:15】【幸運:15】
・所有スキル
-
・戦闘スキル
槍術スキル:ダッシュ突き、振り回し
・移動スキル
-
・装備
【武器:鉄の槍(攻撃力+10)】
【鎧:鉄の軽鎧(防御力+10)】
【靴:綿の靴(機動力+5)】
槍術の場合、攻撃力は敏捷の数値が加算される。そのため、攻撃力は今の俺より圧倒的に上だ。それに戦闘スキルを二つ身につけている。『ダッシュ突き』は敵一体に強力な一撃を放つ。『振り回し』は周囲の敵に攻撃できる。
単独でエービスと行き来するには十分すぎる程の能力を所持している。そんな彼が一緒にエービスまで行ってくれるとあれば、何の問題もない。
「よろしくお願いします、ライルさん」
「おう、ブレイブとアリシア、道中は俺が守ってやるよ。じゃあ、早速行くか、準備はいいか?」
「はい!」
「よしじゃあ、行くぞ! おじさん、門開けてくれ」
ライルがそう言うと、北出入口の門が開く。眼前には新たな地平が広がっている。
ゲームでは上から、天の視点で見ていたから、これほどの大地が広がっているとは思わなかった。今の視点で、俺(ブレイブ)の視点で見た光景は、何処までも広い世界だった。
圧倒された、世界に呑まれると思った。ゲームの世界に、ブレイブに成れたことに喜んでいた。だが、違う。これからブレイブが成すことを、俺がブレイブとしてすべきことを考えると、この眼前の光景などただ一端に過ぎないと分かってしまうからこそ‥‥‥‥ツライ。逃げたい、元の世界で平穏に過ごしたい、そんな思いが湧いてきてしまった。だが、
「さあ行こう、ブレイブ」
「‥‥アリシア」
俺の手を握る、アリシアの手が俺を助けてくれた。
果たさなければならない責任を、成さなければならない使命を背負った俺を、恐怖に、重圧に圧し潰されそうな俺を、引き戻してくれたのは、アリシアだった。
『勇者』ブレイブ、『聖女』アリシア、物語の中心人物の二人。だが、アリシアは『聖女』ではない、ということにしている。俺(ブレイブ)も勇者ではない、まだ覚醒していない。
だが何時かは、俺(ブレイブ)とアリシアが共に戦うことになる。その時は俺がこの手を握ってやれるようになりたい。心細くなるでろう『聖女』アリシアの手を、『勇者』ブレイブとして、支えてやりたい。
「さあ、行くぞ、エービスへ!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます