第7話 何処に行こう?
レベル2になったので、森から出るとしよう。戦闘も慣れてきたから、もう少し続けてもいいが、ここから先は効率が悪い。
この森のモンスターは本当に初心者用なくらい、低レベルなモンスターだ。‥‥さっきまでビビッておいて今更、みたいに思うが、本当にここのモンスターはザコなんだ。
というのも、この森には《森の精霊》が住んでいる。それがさっき【立派な木の棒】をくれた森、そのものなんだ。だから、ここは森の精霊の力でマナを抑えているので、モンスターが最低限発生するが強くなるまで育つことはない。だから、この森のモンスターはレベル1にしかならない。
強ければ強い程、経験値は多くなるが、自分が強くなった後だと経験値は通常の半分からそれ以下になる。【共有者】のスキルで経験値が1.5倍になっているけど、次のレベルまでは相当な時間が掛かる。だから戦闘する場所を変える必要があった。
「ブレイブ、そろそろ帰ろうよ?」
「ああ、そうだな。帰るか」
だが、その前に‥‥‥‥今日は帰ろう。
HPは問題ないが、気分的に疲れた。初めての戦闘だったからな、こんなふうに疲れもするだろう。
俺は一度森の奥を見て、手を振った。明日からはここに来ることは当分ない。だから最後に、姿を見せなかった森の精霊に手を振って別れた。
□
俺とアリシアはアラマスに戻ってきた。
家に向かって歩く道中、アリシアが話しかけてきた。
「ねえ、ブレイブ、明日からどうするの?」
「明日から、か。さて、どうするか‥‥」
洗礼を受けた者はこの村から出る事が出来る。洗礼を受ける前は洗礼を受けた者の引率が無ければ、出ることは出来ない。
村の外にはモンスターが跋扈している。当然戦う力が無い、洗礼を受ける前の子供では容易に死んでしまう。そのため、村の外には門があり、洗礼を受ける前の子供は止められる。俺とアリシアは今日洗礼を受けることは村中に知られていたので、特に問題なかった。まあ、人口100人行かない程度の村だから、ほぼ全員が顔と名前が一致する。
では、洗礼を受けた後、どうやって生活するか、それは‥‥‥‥プレイヤー(自分)自身で決めることになる。
『ドラゴンオブファンタジー100』は魔王が進行してくる時までは自由にシナリオを進められる。その後はストーリーに沿っていき、最終的に魔王と対決し、勝利してエンディングだ。
だから、魔王が進行してくる時まで、どうやって過ごすかは、スキにしていい。
例えば、この村に残って、周囲のモンスターと戦い地道にレベル上げをしていくも良し、色々な場所に行って己を磨くも良し、はたまた自堕落に過ごすも良しだ。
俺は全ての方法を試したが、それぞれ色々な楽しみがあり、どれを選んでも後悔はしないだろう。ただ今日のように、モンスターに怯える可能性があるとすれば、自堕落ルートは止めるべきだな。
自堕落ルートは最終的にはプレイヤースキルに依存する。相手の弱点を的確に突くこと、いち早く危険を察知して身を守る、HPの管理の徹底、これらを完璧にこなしきらないといけない。弱点の攻撃でないとダメージが出ない状況で、攻撃より防御を優先しつつ、だが攻撃をしなければならないなか、HP1で耐えきり、その直後に即座に回復する、そしてこれを延々と繰り返し続けることになる。忍耐という名の苦行を背負わされることになるが、それが今の俺に出来るとは到底思えない。だから、却下だ。
では、地道に村の周囲でレベル上げは‥‥‥‥効率が悪い。となれば、取るべき道はただ一つ。
「アリシアはスクールに行かないか?」
「スクール? それってエービスにある、あの?」
このアラマスの村の北に商業都市エービスがある。
およそ数千人以上の人が住んでいて、商業が活発な地のため、商人たちの出入りを考えると万単位の人間が出入りをしている。経済活動が活発で人、モノ、金が集まる。
その都市にスクール―――要は学校みたいなものがある。洗礼が広まって少し経ってから設立された学習機関だ。対象は洗礼を受けたばかりの子供、設立理由は洗礼を受けたばかりの子供の早死に防ぐことだ。
世界各地に洗礼が広まった結果、ある問題点が上がった。それが洗礼を受けたばかりの子供の死亡だった。死亡理由は強力なモンスターに挑み、殺されることだった。
洗礼を受けたばかりの子どもにはある種の興奮状態に陥るケースが多々ある。昨日までに無かった強い力、モンスターと戦える強い力は、人を傲慢にする。そのため、モンスターとの力の差を知らずに戦い、結果命を落とす子供が多くいた。
この状況を重く教会と時の権力者たちは洗礼後の成長を促す機関を設立した。それがスクールだ。
「ああ。俺達は洗礼を受けたがまだまだ弱い。色々なことを知らない。だから、多くを学ぼう」
「うん、良いけど。いきなり明日から?」
「うーん、母さんに相談しないといけないし、アリシアもおじさん、おばさんに話さないとな。だから、話が纏まり次第、出発したい。まあ、大丈夫じゃないか。普通の子供でも洗礼の後にはみんなスクールに行くし。この村からだって何人かはスクールに行く人だっていたんだし」
「そっか、帰ったら聞いてみるね」
そうこうしていると、アリシアの家に着いていた。
「じゃあまた明日ね、ブレイブ」
「ああ、また明日、アリシア」
アリシアは家に入っていった。さて、俺も早く帰ろう。
□
「ただいま」
「お帰りなさい、ブレイブ。洗礼の方はどうだった?」
「ああ、『剣術師』にしたよ」
「そう、『剣術師』‥‥‥‥お父さんと同じなのね」
母さんは俺が『剣術師』を選んだに複雑な顔をしている。俺が選んだクラスは父さんと同じだったことが原因だからだ。
‥‥‥‥断っておくが、『剣術師』を選んだのは父がそうだからではない。このイベントでは自分が選んだクラスが父のクラスになる、というだけで、このイベントは強制イベントである。
「ブレイブはこれからどうするのかしら?」
「‥‥‥‥スクールに行こうと思う」
「‥‥‥‥そうね、それがいいと思うわ。学べるうちにしっかり学んでおいた方がいいわ」
アッサリと合意を貰えた。まあ、タダで正しい指導が受けれるとあれば、反対する理由はないわな。
「フフッ‥‥」
「母さん?」
「もう洗礼を受ける年になったのね、大きくなったわね、ブレイブ」
母さんは目に薄っすら光るモノが見えた。
その顔を直視できず、思わず目を逸らした。
俺はブレイブだ。だが、中にいるのはもう違う存在だ。そんな事を知らない母を、だましているようで、申し訳なかった。
□
次の日の朝を迎えた。
まだブレイブのままだ。意識もしっかりしているし、体も良く動く。いつか終わりが来るだろう。なら、その時までこの世界を楽しませてもらおう。今は俺がブレイブだ。
さあ、今日も思いっ切りこの世界を楽しむぞ!!
「おはよう、母さん」
「あら、ブレイブ。今日は一人で起きたのね。朝食、テーブルに置いてあるわ」
「ありがとう、母さん」
俺はテーブルの方に目を向けると、
「モグッ、モグッ、おはようブレイブ」
そこには朝食を食べているアリシアがいた。
「おはようアリシア。どうしたんだ、こんな朝早くから?」
「ふふん、じゃーん!」
アリシアが見せてきたのは、袋だった。
「‥‥袋?」
「そうだよ、今日からスクールに通えるように準備してくれてたの。だから、ブレイブ一緒にスクール行けるね」
「おお、そうか。じゃあ、早く行こうぜ!」
俺は急いで、朝食を口の中に詰め込む。
「もう、ゆっくり食べないとダメだよ!」
「あら、アリシアちゃんも朝一番に報告に来てくれたから、朝食食べて来なかったでしょ」
「うう、マリーさん。それ言わないでください‥‥」
「んぐっ‥‥ごちそうさまでした。じゃあ、母さん行ってきます!」
「待ちなさい、ブレイブ」
母さんが俺を引き留めた。一度奥の方に行き戻ってくるとその手には大きな袋を持っていた。
「はい、必要なモノは入っているわ。足りなければお店で買って揃えなさい。‥‥無事に帰ってきなさい。待ってるから」
「っ‥‥ああ、行ってきます!」
俺は渡された袋を肩に掛け、家の扉を開け、外に足を踏み出す。
目指すは北の商業都市エービス。ゲーム的には5分かからない位置にあるが、どれだけ時間が掛かるかな。
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