第4話 聖女認定とウソつき

 俺は『剣術師』のクラスを、アリシアは『聖女』のクラスを得た。


 『剣術師』は基本クラスに属していて、『聖女』はエクストラクラスに属している。

 主人公ブレイブは最終的には『勇者』になるが、そこに至るには色々な経験が必要だ。ぶっちゃけて言うとシナリオの終盤にならないと『勇者』になれない。だから最初はブレイブでも基本クラスからスタートしていく。

 だけど、幼馴染のアリシアや他にも登場するキャラには【天職】というモノがある。それがアリシアの場合は『聖女』と言う事だ。


 ここで少しクラスに関して説明しよう。

 クラスには基本クラスと上位クラス、そして一部の例外であるエクストラクラスの区分けがある。

 基本クラスを成長させていき、限界に達すると基本クラスの上位クラスが洗礼に現れる。更に上位クラスを成長させていくとエクストラクラスは‥‥‥‥出ない。

 いやぁ、初見プレイ時は騙されたな。エクストラクラスは上位クラスの成長したものではなく、全く別のモノだった。エクストラクラスは成長ではなく、特別な覚醒条件を満たしたときに発現するモノだ。主人公ブレイブの『勇者』もシナリオを進めていけば、勝手に覚醒してエクストラクラス『勇者』に至れる。

 だけど、幼馴染のアリシアは最初からエクストラクラス『聖女』になっている。このまま、冒険が始まればヌルゲー間違いないが、そうは問屋が卸さない。


「おお、なんと素晴らしい!! アリシアが『聖女』とは‥‥王都に連絡を出さねば‥‥」


 ‥‥‥‥聞こえてますよ、神父さん。

 そう、この神父の言葉にある通り、アリシアは王都に連れて行かれます。だから、一緒に冒険には出れません。加入時期はブレイブが『勇者』に覚醒した直後になります。

 そのため『勇者』ブレイブと『聖女』アリシアの最強キャラ二人を中心とした最強パーティに成ります。ラスボス仕様の準備が完璧すぎて、めちゃめちゃテンションが上がります。加入直前のイベントで泣き、イベントボスを『勇者』ブレイブと『聖女』アリシアの二人で無双、ここは全シナリオ中、最高に興奮した。

 それに加入直後も『聖女』のスキルが強力過ぎてバランスブレイカーと呼ばれていた。ただ、悲しいことに加入時期が遅いためにそこまで、アリシアが活躍する場面が無い。

 だが、折角のエンジョイプレイだ。そんな展開はぶち壊そう。


「アリシア、また聖女様の本読んだんだな。早々都合よく『聖女』のクラスが出る訳ないじゃないか」

「え? そんな事無いよ。私のクラスは‥‥えっ、ちょっと!?」


 俺はアリシアの手を引き、神父が聞こえない様に、耳元でひそひそ話をした。


「いいか、ここでクラスが『聖女』だなんていえば、この村から一人だけ王都に連れて行かれるんだぞ。それだけじゃない、王都の教会に連れて行かれたら、おじさんやおばさんにも会えなくなるし、一人でさびしくてもだれも助けてくれなくなるんだ。それでもいいのか?」

「えっ!?」

「バカッ! 声が大きい」

「あっ、ごめん。でもでも、『聖女』様って世界を救う凄い人なんでしょ」

「『聖女』様は世界は救っても自分は誰にも救ってもらえないんだぞ。アリシアは一人でも何とかなる? 俺がいなくても泣かない?」

「う~~‥‥‥‥それはイヤかも」

「じゃあ、クラスは『魔法使い』と言っておけ。後は俺に任せておけ」

「うん、分かった」


 よし、打ち合わせは終わった。ここからはエンジョイプレイ弁舌の開始だ。


「神父様、アリシアの奴、昨日『聖女』の物語を読んでて、洗礼の時に『聖女』が出たと思い込んだみたいです。聞いてみたら『魔法使い』だったよみたいです。ごめんなさい神父様、紛らわしいこと言っちゃって。ほら、アリシアも謝って」

「ごめんなさい、神父様」

「いや、だが洗礼にて口に出し‥‥」

「いやいや、洗礼とは口に出さず、心にて答えるもの。それを俺はつい『剣術師』と言ったから、アリシアもクラス名を出したんでしょう。ただ、聖女様への憧れが強すぎて『聖女』なんて言ってしまったみたいです」

「‥‥そうか、まあそういう子も偶にはいる。では、ステータスの確認を‥‥」

「あ、そうだ。アリシア、洗礼が終わったら急いで帰らないといけなかったな。さあ、行くぞ。ごめんなさい神父様、急ぎますので‥‥行くぞ、アリシア」

「わわっ!? またね神父様。待ってよ、ブレイブ」


 俺はぼろが出る前にアリシアを伴い、神父様に追及される前に急いで教会を後にした。


 これでアリシア聖女ルートは崩壊した。

 実はアリシアを仲間に入れるルートもちゃんと存在している。それが弁舌を駆使するアリシア早期仲間ルートだ。

 これ、ゲーム的には選択肢を選択するだけなんだが、一つでも選択肢を間違えると、アリシアは聖女ルートを辿ることになる。

 まず第一に神父に話す前にアリシアに話し掛けて、口裏合わせをしなければならない。アリシアに即興の演技は出来ないからボロが出る。

 第二に『魔法使い』のクラスは言え、と教える。他のクラスだとだめだ。特にダメなのが男の『神父』に相当する女限定クラス『シスター』だ。この『シスター』を選んでもよさそうだが、これもハズレ。『シスター』になると、神父様が色々とスキルを教えてくれようとするが、どれも覚えれなくて、結局バレて、聖女ルート行きになる。では他のクラスはと言うと、これも全てバレる。武器が使える程アリシアは運動神経が良くない。魔法関係のスキル以外は全キャラ中でも下位争いの常連だ。『聖女』スキルの補正無しにアリシアはパーティに存在できない。そのため、魔法関係のステータスが高く、聖属性の魔法が使える『魔法使い』と言う事で通すことが出来る。

 第三に話の主導権を握らせない。これゲーム中では選択肢を選ぶまでに時間制限があり、その時間内に相手に効果的に答えないといけない。先程の会話中の様に、神父様の話を遮る―――制限時間内に回答することで、会話の主導権を握り、最後に強引に話を終わらせ、逃げることが出来る。

 ここまでがアリシア早期仲間ルートに入る条件だ。『ドラゴンオブファンタジー100』には沢山の分岐が用意されていて、仲間の加入条件も今いる仲間によって複雑に変わってくる。そのため、アリシアを早期に仲間にしたことで、色々な仲間キャラの出現条件が変わってくる。

 勿論、アリシア聖女ルートの方が演出上は盛り上がるし、正統派ルートだ。ただ、やっぱりエンジョイプレイをする上では幼馴染のアリシアと一緒に旅をする、ボーイ・ミーツ・ガールな展開の方がいいかな、と思った。ただ楽な事ばかりではないんだが‥‥‥‥

 アリシアのクラスは『聖女』であるから、スキルが途轍もなく強力だ。『勇者』のスキルが最強の攻撃型なら、『聖女』のスキルは最硬の守り型だ。ダメージ90%カットとか、状態異常完全耐性とか、毎ターンHP100%回復とか、死亡時自動復活とか、そんなスキルばかりだ。アリシア聖女ルートで加入後に死ぬことは愚かHPが、半分以上減ったことなどなかった、当然ラスボスでもだ。

 だが、アリシア早期仲間ルートの場合、RTA走者的には決して選ばない理由があった。

 その一つがクラスがバレるのを避けるためにアリシアは洗礼を受けることが出来ない。これ結構痛いんだ‥‥。『ドラゴンオブファンタジー100』のスキルはクラスの成長によって得ることが出来る。移動系のスキルや商人、盗賊などの便利なスキルも覚えることが出来ない。

 二つ目が『聖女』クラスの成長は著しく遅い。アリシア聖女ルートなら物語終盤での加入になるため『聖女』スキルを極めた状態で加入します。そのため、加入時から使える有能キャラだったが、当分はスキル一つ使えない無能キャラに成り下がる。

 三つ目が‥‥‥‥経験値が分配される。ゲームの仕様上、経験値は戦闘参加キャラで頭割りされる。だから、ブレイブ一人とブレイブ・アリシアコンビだと、ブレイブ一人の方が早くにレベルアップし、強くなれる。

 結論‥‥‥‥アリシアいらなくね、という心境になる。割と、アリシア早期仲間ルートを選ぶとみんな、そういう心境になる。‥‥‥‥だが、それでもまた面白いのがこのゲームだ。さて、テンション上げていくぞーーー!


「ふぅー、ここまでくれば大丈夫だな?」

「はぁ、はぁ、はぁ‥‥もうブレイブ、いきなり走らないでよ!」

「仕方ないだろう、あそこでアリシアが『聖女』というのがバレると、一緒に居れなくなるんだぞ?」

「え!? アレ本当だったの?」

「アリシア、『聖女』って何か知ってるか?」

「『聖女』、聖女様は勇者様と力を合わせて世界を救ったんだよ」

「‥‥‥‥何から?」

「えーっと‥‥ああ、魔王だ」

「そう、魔王を倒したのが『勇者』と『聖女』だ。でも魔王は倒されたのにアリシアは『聖女』になった。これがどういうことか分かるか?」

「えーっと‥‥‥‥分かんない」

「『聖女』が生まれるってことは『勇者』が現れるんだ。そうなると東の端にある魔大陸に行って、魔王を倒しに行かされる。アリシアは『聖女』だから、きっとそんな事になるんじゃないかと思ったんだ。‥‥俺、嫌だぞ。お前が遠くに行くのなんて‥‥」

「‥‥あたしも、嫌だよ‥‥ブレイブと一緒がいい」

「だよな‥‥‥‥だからさ、二人でウソをつこう」

「ウソ?」

「ああ。アリシアは『聖女』じゃない、俺がそういうから。だから‥‥」

「あたしは『聖女』じゃない。ブレイブがそう言ってくれる。‥‥ふふっ、あたしたち、ウソつきだね」

「いいさ、俺がウソつきなのを知っているのはアリシアだけだ」

「あたしが、ウソつきなのを知っているのもブレイブだけだもんね」

「俺がアリシアのウソを守るから」

「アタシがブレイブのウソを守るから」

「「ずっと一緒だ」よ」


『【イベント:二人のウソつき】をクリアしました。エクストラスキル【共有者】を獲得しました』


【共有者】:ブレイブとアリシアがパーティに同時にいる場合、全ステータスと獲得経験値を1.5倍にする。


 キタコレ!! これがアリシア早期仲間ルートの楽しみの一つだ。

 このエクストラスキル【共有者】はブレイブとアリシアがパーティに同時にいる場合、ステータスと経験値が1.5倍になるというぶっ壊れスキルだ。確かに一人の方が二人よりも獲得経験値が多い、だがステータスは1.5倍にならない。おまけにこれはブレイブだけではなく、アリシアも同じく1.5倍だ。つまり、普通よりも著しく成長が遅い『聖女』クラスでも、大分緩和させることが出来るんだ。それになにより正統派ルートの『勇者』ブレイブと『聖女』アリシアを圧倒的に超える1.5倍『勇者』ブレイブと1.5倍『聖女』アリシアというラスボス涙目の最強タッグが出来上がる。

 エンジョイプレイを目指す以上、ステータスの暴力は必須だからな。

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