第3話 テンション上がってきたーー!!
俺は今度こそ部屋を出ると、その先には階段があった。二階建て、やっぱりブレイブの家みたいだ。夢の再現度が素晴らしい、いい夢だ。
この階段を下れば、イベントが進行する。そこには先程言っていたアリシアがいるはずだ。‥‥‥‥ヤバいな、テンション上がってきたーー!!
「あ、やっと来た。遅いよ、ブレイブ」
「ごめん、アリシア」
階段を下りた先には幼馴染の女の子――アリシアが待ち構えていた。
金色の髪が肩より少し下まで伸びていて、それをツインテールにしている。服装は赤いワンピースを着ていて、歳は同い年という設定の女の子だ。
やっぱり、ゲーム通りの姿であり、先程のやりとりもゲーム冒頭で行われるもので、一プレイヤーとしてやってきた身としては同じやり取りが出来るとは、感無量だ。
RTAだと、ボタンを連打してテキストを読み進めていたところで、さっさと進めくらいにしか思っていなかった。やっぱりいいものだな、こういうやりとりは。
「じゃあ、早く行こう。あれ、もしかしてどこに行くか忘れちゃった?」
俺が感慨にふけっていると、イベントが進行していた。
いかんいかん、今の俺はブレイブだ。ここはブレイブらしく対応しないと。
「?」
俺は首を傾げて、頭に『はてなマーク』を浮かべた。
よし、これでいい。物語冒頭でお馴染みの説明フェーズに入るための通過儀礼だ。初見プレイにも分かるように、最初は『はい』と『いいえ』ではなく、ブレイブが勝手に『はてなマーク』を上げると、説明をしてくれる。
当然、何十、何百とこのやりとりを見てきた俺はこの後どうなるかは分かってはいる。だが、やっぱりシナリオ通りに、ブレイブのロール(役割)をプレイングしなくては勿体ない。
「もうブレイブったら、まだ御寝坊さんなの? じゃあ教えてあげる。今から教会に行って洗礼を受けるんでしょ。さあ、行きましょう。教会はここを出て、『北』だよ、分かった?」
「分かった」
ここで分からない、と言うともう一回同じ説明がされる。だが、ついつい癖で分かったと言ってしまった。もう少しこのやりとりをやってみるのもエンジョイ勢としてはいいんだが‥‥まあ、それはいいや。早くシナリオを進めよう。
俺は家の出入り口に移動して、外に出た。
すると、其処には『ドラゴンオブファンタジー100』の最初の村―――アラマスの光景が広がっていた。周囲を見渡すと、他の民家があり、井戸があり、牛がいて、鶏がいて、水が流れる水路がある。マジでアラマスの光景だ‥‥‥‥ヤベェ、テンション上がってきた!!
思わず叫びそうになったが、ここは落ち着け。俺はブレイブ、俺はブレイブ‥‥ふぅ、落ち着いた。今からこれでは、これから魔法を使える様になったりしたら、どうなるか分からない。モンスターにも出会っていないし、武器だって見ていない。今はまだ落ち着くんだ、ブレイブ(俺)。
さて、とりあえず北の教会に行かなくてはシナリオが進まない。急ごう!! 洗礼が俺を待っている。
「待ってよ、ブレイブ。一緒に行こう?」
「ああ」
家を出ると、アリシアが同じく家を出て声を掛けてきたので、反射的に『はい』を選択していた。まあ問題ない、ここは『いいえ』を選択すると、延々と同じ誘いが続くだけだったから、ここはこれでいいとしよう。
さて教会への道は、初見プレイだと家の前の道を出てその後大通りを曲がっていく定番のルートがあるが、RTA走者だとそんなルートはまず通らない。RTA走者なら、ブレイブの家の裏から隣の家―――アリシアの家の隙間がキャラ一人分が通れることを知っているので、そのルートを辿る。うーん、ここはRTAルートではなく、エンジョイルートを行こう。折角のアラマスの街並みだ、楽しまないと勿体ない。
□
道具屋にて
1回目
「いらっしゃい、ここは道具屋だ。お、ブレイブとアリシアじゃないか。今日は洗礼の日だろ、教会に行って来いよ」
2回目
「いらっしゃい、ここは道具屋だ。お、ブレイブとアリシアじゃないか。今日は洗礼の日だろ、教会に行って来いよ」
3回目
「いらっしゃい、ここは道具屋だ。お、ブレイブとアリシアじゃないか。今日は洗礼の日だろ、教会に行って来いよ」
‥‥‥‥‥‥
100回目
「いらっしゃい、ここは道具屋だ。お、ブレイブとアリシアじゃないか。今日は洗礼の日だろ、教会に行って来いよ」
定番のやりとりだ。よし、次は武器屋だ。
□
武器屋にて
1回目
「おう、ここは武器屋だ。ん、ブレイブとアリシアか。今日は洗礼の日だろ、早く教会に行けよ」
2回目
「おう、ここは武器屋だ。ん、ブレイブとアリシアか。今日は洗礼の日だろ、早く教会に行けよ」
3回目
「おう、ここは武器屋だ。ん、ブレイブとアリシアか。今日は洗礼の日だろ、早く教会に行けよ」
‥‥‥‥‥‥
100回目
「おう、ここは武器屋だ。ん、ブレイブとアリシアか。今日は洗礼の日だろ、早く教会に行けよ」
やっぱり定番のやりとりか。シナリオが進まないと買い物が出来ないからな。それに台詞が変わらないし、この時期にしか聞けない台詞だ。こういう小さいやり取りを楽しむのもエンジョイ勢っぽいな。
さあ、会話を楽しめたし教会に急ごう。お楽しみの洗礼だ。
□
「よくぞ参った。ブレイブ、アリシア」
「こんにちは神父様」
「こんにちは」
村の北にある教会、その中に入るとステンドグラスがあり、十字架があり、神父さんがいた。ゲームの装いそのままの神父さんだ。リアル神父とか初めて見たな。いや、これは夢だからリアルじゃないけど。
「では、洗礼の儀を執り行う。ブレイブ、ここに来て祈りを捧げなさい」
おお、遂に洗礼か。RTA的には1分くらいで来れるが、今回はエンジョイプレイのために村の隅々までいき、話かけまくった。でも、時間の経過はしていない。流石ゲームの世界の夢、ご都合主義も極まれりだな。
おっといかん、折角の洗礼だ。ちゃんとブレイブロールを行わないと。
俺は神父の前に片膝を付き、両手を合わせ、目をつぶった。
「大いなる創造神様、我に戦う力をお与えください」
祈りの言葉を呟く。すると、頭の中に声が聞こえた。
『ブレイブ、汝の進む道を指し示します』
『剣術師』:剣を使って戦います。極近距離から近距離が攻撃範囲です。
『槍術師』:槍を使って戦います。近距離から中距離が攻撃範囲です。
『弓術師』:弓を使って戦います。中距離から遠距離が攻撃範囲です。
『格闘術師』:己の肉体で戦います。極近距離が攻撃範囲です。
『魔法使い』:魔法を放って戦います。魔法はMPを消費します。
『神父』:癒しの力を使い、仲間を回復させます。癒しの力はMPを消費します。
『盗賊』:敵が持っている物を盗むことが出来ます。極近距離が攻撃範囲です。
『商人』:物の売り買いで補正が付きます。極近距離が攻撃範囲です。
進むべき道―――いわゆるクラスが頭に浮かぶ。クラスの簡単な説明も頭に浮かぶが、そんなのあてにはならない。簡単な説明すぎて、本当の意味が隠されている。
とりあえず、クラスを選ぶことにするが、順番は決まっている。
「大いなる創造神様、我は『剣術師』の道を歩んでいきます」
まあ、オーソドックスに『剣術師』スタートが一番良いんだ。他も最終的には選ぶことにはなるが、一番最初はこれがいい。全パターン試したが、コレが一番良かった。
『ではブレイブ、汝が選ぶ『剣術師』の道に幸多からんことを』
光が降り注ぎ、俺に入ってきた。
剣の使い方が頭に浮かび、スキルを得たことが分かった。
『剣術師第一スキル:剣術を取得しました』
剣術師第一スキル:剣術―――これは他のクラスに変わっても、このスキルが使える様になるスキルだ。だけど、現状は意味がない。なぜなら、他の剣術スキルがないからだ。だから当分は『剣術師』としてスキルレベルを上げないといけない。まあ、当分は『剣術師』でいるつもりではいる。
さて、洗礼を受けた以上、次のイベントが発生かな。
「大いなる創造神様、我は『聖女』の道を歩んでいきます」
アリシアの選んだクラスが『聖女』、上位クラスだった。
予定通りだな。これにはテンション上がらないわ。
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