第2話 目が覚めたら、まさかの主人公!?
「う、う~~~‥‥‥‥ここは?」
気づけば見知らぬ場所で寝ていた。
真っ先に視界に映ったのは天井だったが、その天井に見覚えはない。
あの後、誰かが来て助けてくれたのかな? ここは病院か? いや、見えないな。じゃあ、やっぱり誰かの家かな? でも、態々病院に連れて行かずに俺の家からここに運んだ理由は? やっぱり分からないな。
ベッドの上で悩んでいると、突然ドアが開いた。
「あら、起きていたわね?」
そこに現れたのは妙齢の女性だった。栗色の髪に温和な表情の美人で、エプロン姿だった。
だが俺がその女性に出会ったことは過去に一度もなかったはずだ。仕事関係にはいないし、近所にこんな美人もいなかった。‥‥‥‥だが、何となく見覚えがあったような気がする。それもつい最近見たような‥‥‥‥
「もう、アリシアちゃんが下に来ているわよ。早く起きて着替えなさい。今日は大事な日でしょう?」
そう言って彼女は俺に近づいてくる。そして、近くのタンスから服を取り出し、俺に手渡した。
「ほら、早くしなさいね」
そう言って彼女は部屋から出て行った。
「‥‥‥‥早く着替えろったって、コレ‥‥‥‥子供用じゃ?」
彼女が渡した服の大きさは、とても成人男性が着れるような大きさではなかった。子供サイズの何処か簡素な服だった。なんだろう、何処かこれにも見覚えが、あるような‥‥‥‥
何か引っかかる気がしたが、とりあえずこの部屋を探して見ようと、ベッドから降りた。
「な、なんじゃこりゃ!?」
昔懐かしのドラマの台詞が思わず出てしまった。いや、別にモノマネがしたかったわけではなく、本当に驚きのあまり出てしまった。
「こ、ども?」
そう、体が子供になっていたんだ。小さい手に、低い背丈、思わず顔を引っ張ってみると、じんわりと‥‥‥‥
「痛い、ぐすっ」
痛かった。そして何故だか涙が出てくる。
「これ、まさか‥‥‥‥子供に戻ったのか?」
いやいや、可笑しいだろう、これは。
どこかのマンガじゃあるまいし、体が子供になるなんてあり得ない。
ではこれは夢か? だが先程、頬をつねると痛みを感じた。ではこれは夢ではない、だとすると今まで人生が夢だったのか? いや色々な痛みを感じていたし、意識を失う前にもゲーム機に頭をぶつけて痛かった。なら、夢にも痛覚があるのか? うーん、なんとも良く分からない。そもそも夢なんて早々覚えていれるものではないし、今すぐ検証なんて出来ない。これでは一体どっちが本当なのか、判断がつかない。
「‥‥‥‥とりあえず、体が子供ならこの服、着れるよな」
考えていても埒が明かない。まずは着替えてみよう。
俺は服を着替えてみると、見慣れない服なのに、直ぐに着替え終わった。まるで体が覚えているかのように、簡単に。
「うーん、何処かで見たような」
自分の着替えた後の上半身、下半身を見て、今度は側面を見て、更に背中が見れないのに、見ようと、その場で回るように動いた。
この部屋に鏡はない。だから、どうもわかりにくいが、何故だかこの格好に見覚えがあった。
「‥‥‥‥まるで、『ドラゴンオブファンタジー100』の主人公ブレイブのコスプレみたいだ」
思わず口にした通り、色合いや柄がそっくりだった。まるで昔のコスプレイヤーのような気になってしまう。ただ、一つだけケチを付けるとすれば‥‥‥‥
「マントがないな。これでは、冒険に出る前のブレイブじゃないか。‥‥‥‥そっち狙いだったのか?」
世界的に大人気ゲームだっただけに世界中のコスプレイヤーがこぞって主人公ブレイブのコスプレをしていた。最終勇者装備を自己生産したツワモノから、キービジュアルの絵を基にした一般向けのモノ、そして何故か面白装備枠の犬の着ぐるみ装備をしてきた変人向けまでいた。いや、犬の着ぐるみ着たブレイブの前に、お前はブレイブではないんだから、ただの着ぐるみ着た人では、とツッコミたかったが言わないのが、コスプレ界の掟だ。ただ当人たちが楽しければ、それでいいじゃないか、という雰囲気で軽く流していた。
そして、一部のマニア枠に、いや腐女子歓喜枠がこの冒険に出る前のブレイブだ。ただのマント無し、されどマント無し、といわれ、まだ冒険に出る前の無垢なるブレイブを熱く語るお姉さまがこぞって絶賛していたスタイルである。有名コスプレイヤーがガチでやっていたから、大変人気になっていた。その人は美形で小柄なボーイッシュな女性だったので、許された。だが、もし中年のオッサンがそんな姿を晒そうものなら‥‥‥‥いや、止めよう。ずっと昔の事だ。今でも、コスプレの定番にはなっているが、昔の全盛期程の熱はない。ここで着ている分には大丈夫だろう、たぶん。
俺は着替えが済んだので、部屋から出ようとして、あることが気になった。
「どうも、気になるな‥‥‥‥一体なんだ?」
周囲を見渡すと、この部屋にはベッドがある、本棚がある、そして‥‥‥‥タンスがある。どこもおかしい所などない。だが、何故だか、体がここから出る前にやらなければならないことがあると言っている。先程から俺の視線は部屋の隅にあるタンスに引き寄せられている。
「‥‥‥‥とりあえず、開けてみるか」
俺はタンスの下に足を運び、タンスを開けてみた。するとそこには‥‥‥‥
「‥‥‥‥豆‥‥いや、『叡智の実』だ、コレ」
『叡智の実』とは『ドラゴンオブファンタジー100』に出てくるアイテムで、この実を100個集めることでイベントが発生するんだが‥‥‥‥今はそんな事よりも、もしこれが本当に『叡智の実』だとすると、これが室内にそれもタンスの中にあると言う事は‥‥‥‥
「‥‥‥‥ここはブレイブの部屋、なのか? と言う事はまさか、俺が‥‥‥‥ブレイブ? いや、まさか‥‥ハハハッ、あり得ないだろ、そんなの‥‥いや、本当に無いよな、いやいや無いだろう、無いな‥‥‥‥‥‥‥‥ゲームやり過ぎて頭が本当におかしくなったかな、それともこれも夢の中か。どちらにしろ、現実じゃない気がしてきたな」
思わぬアイテムを見つけて、気が動転してしまった。
とりあえず状況を整理すると、現状のこの部屋はブレイブの部屋だと判断できる。なぜなら、『叡智の実』が家の中で見つかるのはブレイブの家のブレイブの部屋のタンスの中だけだ。それ以外はダンジョンの宝だったり、イベントクリア報酬だからだ。
この服もブレイブの服によく似ている。
この部屋もゲームの中のブレイブの部屋だと言われれば、そう思えてきてしまうほど、部屋にあるモノが似ている。
それに思い返して見ると、先程この服を渡していった女性、ブレイブの母マリーなんじゃ? 確かに似ていたけど、それにそう考えると、なんだか色々と腑に落ちてきた。
「つまりここは『ドラゴンオブファンタジー100』の冒頭部分の‥‥‥‥夢を見ている?」
何年か振りに『ドラゴンオブファンタジー100』をやったから、自分がブレイブだったら、みたいな夢を見ているんだろう。
頭をぶつけて痛かったが、たぶん気絶しただけなんだろう。流石にゲーム機に頭ぶつけて死んで、その後転生したとは思えない。あり得ないことだ。
なら、ここは夢の世界だと、割り切ってしまった方がいい。その方が思いっ切りこの夢を満喫できる。
「もし、これが冒頭部分なら、この後は‥‥‥‥うふっ、ヤバいな何だかテンション上がってきたぞ!!」
夢の中だと思えば、どれだけでもやりたい放題出来る。昔憧れた勇者ブレイブとして、この世界を遊び尽くせる。好きだったスキルを取得するとか、カッコイイ剣とか勇者の聖剣を使うとか、色々出来る。最後にやったプレイ方法がRTAだったから、少々味気なかった。ならばこんどは‥‥‥‥エンジョイプレイだ。
久しぶりのエンジョイ勢として、この夢を遊び尽くすぞ!
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