エンジョイ勢~現地ではヤベェ奴~

あさまえいじ

第1話 ゲームは一日一時間

『魔王よ、お前の最後の時だ! くらえ、ブレイブカリバー!!』

『ぐわあああああ!!!! おのれ、勇者め!!! だが、たとえ私が死んでも、いずれは第二、第三の魔王が現れ、お前達人間を滅ぼすのだ!!』

『そんなことはさせない! 俺達人間をなめるな!!』

『グワアアアア!!!』



『世界は勇者によって救われた。多くの出会いが勇者に力を与え、遂には魔王を‥‥‥‥‥‥』

「‥‥‥‥エンディングか」


 俺は胡坐かつ前傾姿勢―――ゲームスタイルから体を後ろに逸らし、ストレッチを行った。


 今やっていたのは、昔ハマっていたRPGだ。部屋の掃除をしていたら、たまたまゲーム機とソフトを見つけ、まだ使えるのか試したところ‥‥‥‥エンディングまでやってしまった。

 クリア時間は‥‥‥‥24時間。丸一日、延々とゲームをしてしまった。


 ただいまの時間は日曜日の昼の一時。部屋の掃除をしようと思い、始めたのが土曜日の昼の一時。クリア時間は24時間、つまり丸一日ゲーム以外、全く、何も、していなかった。

 メシは食べていない。風呂に入っていない。トイレも我慢した。‥‥‥‥何やってんだ、俺は‥‥‥‥あ、ゲームだった。


 いや、仕方がない。そうこれは仕方がないことなんだ。俺以外にもこういう経験をした人は多いと思う。掃除しようとして、たまたま古いマンガを見つけて全部読んでしまった人もいるだろうし、アルバムを見つけてみているうちに時間が経っていたという人だっている事だろう。

 何かしないといけないと思ってはいても、ついつい何かに気を取られ、手が止まってしまうこともある。そうだ、これは仕方がないことなんだ。


 しかし、本当にいつやっても面白かった。

 日本のみならず世界的にも有名なRPGシリーズ、その最高傑作にして最終作品、『ドラゴンオブファンタジー100(ワンハンドレッド)』。

 全世界にド定番RPGというモノは何たるかを教えた、不朽の名作として名高い物だった。

 ゲームと言えば、昨今はスマホでやるのが主流になったが、俺が子供の頃はテレビに繋いでやるテレビゲームが主流だった。だが、ドンドンとそう言ったテレビゲームが減り、スマホゲームが増えていった。

 当然そうなるとテレビゲーム産業は衰退していき、こういったRPGが作られなくなった。

 スマホでもRPGなんかが出来てきたが、俺にはどうも合わなかった。やっぱりコントローラがないのはどうも苦手だった。

 『ゲーム』という単語が『テレビゲーム』から『スマホゲーム』に定着するまで、それほど長くは掛からなかった。俺みたいにテレビゲームをやる人間はレトロゲーマーという風に呼ばれだした。それでも俺はテレビゲームをやり続けた、世間的には逆行していても、やり続けていた。‥‥‥‥だが何時かは終わりがくる、飽きたんだ。

 新しいゲームはスマホゲームばかりで、テレビゲームをやる人間にはつまらないばかりだ。今更スマホゲームをやっても楽しいとは思えない古い人間だ。だから、ゲームと疎遠になり、いつの間にか、ここにしまった置いたことも忘れてしまっていた。


 ゲームをやらなくなってから、毎日がつまらなくなった。

 仕事はしていたし、趣味が無くなったので、貯金ばかりしていた。特に何かが欲しい訳ではなく、家も両親が亡くなって相続したものだったので、家賃は掛からない。精々が固定資産税とかだけだ。車も持っていないので、使うのは生活費とかばかりだ。結婚もしないまま気づけば40半ばまできた。

 生活に大してハリはなく、ただ淡々と仕事をこなし、寝て過ごすばかりだ。


 ただ今日は、久しぶりに充実した時間だった。時間の感覚が無かった。凄い熱中していた。ここ最近で、最もイキイキしていた時間だった。

 だが、それも終わってしまった。

 昔やり尽くした結果、ゲームの全てが頭に残っていた。イベントの発生条件から、ダンジョンの宝箱の位置と中身、敵のパラメータにキャラのレベルアップに必要な経験値に至るまで、全てだ。

 当然ルートも最短のモノを選び、必要なスキルとアイテムだけを取り、レベルはギリギリ戦える程度、戦闘は最適かつ最短のコマンド移動範囲に抑え、常に緊張感を持って戦った結果、24時間というプレイ時間で終わりを迎えた。

 本来なら100時間はかかるし、イベントをフルにやるとなると500時間はかかる。その上ルート分岐まで含めると、到底一周では終わらない。

 それを24時間まで圧縮したのは、俗にいうRTA―――リアルタイムアタックということをやっていた癖が出たからだ。


 リアルタイムアタックというのは、現実時間でどれだけでクリアできるか、その時間を競うものだ。当然その中にはトイレや食事の時間も含んでいる。

 最後にこのゲームをやっていた時は20代前半、まだ若かったから徹夜の一つ二つも問題なかった頃だ。その頃に作り上げた攻略手順が体に染み込んでいたから、ついついその手順通りに進めていたら、こんな時間に収まった。

 だが、この時間は一般的なクリアタイムからすれば恐ろしく早いが、RTA走者からすれば並の記録だ。

 このゲームの全盛期の世界記録なら、19時間59分58秒を叩きだしている。そのプレイ動画はネット上にアップされていて、私も非常に参考にさせてもらった。

 それから比べれば、酷く稚拙で長年のブランクがあり、体の衰えすら感じさせる出来だった。

 だけど、久しぶりで楽しかったから良しとしよう。


 さて、何時までも遊んでいては休日が終わってしまう。名残惜しいが片付けて、掃除をしよう。


「よっこいしょ、と」


 俺はその場に立ち上がろうと、思わず声が出た。‥‥‥‥こういうところがオッサンだな、と感じる瞬間だよな。


「ア、アレッ!?」


 足に力が入らなかった。長時間の座りっぱなしだったため、うまく立つことが出来ず、倒れ込んだ。そして倒れ込んだ先には‥‥‥‥ゲーム機があった。


「アタッ!!」


 思いっきり頭をゲーム機にぶつけ、痛みのあまり頭に手を当てた。

 ‥‥‥‥大丈夫だ、血は出ていない。ちょっと痛いが、そのうち治まるだろう。だけど、その痛みはジンジンと広がっていった。


「ア、アレッ?」


 どんどんと痛みが広がっていき、視界が真っ暗になっていった。その時、本当にまずいと思った。

 家には俺以外誰もいない。両親も他界してしまい、兄妹はいない。だからこの家で倒れ込んだ場合、誰かが助けてくれる可能性はゼロだ。

 だから、意識を失う前に、なんとか救急車を呼ばないと‥‥‥‥

 スマホを119と叩き、発信ボタンを辛うじて押した。


「はい、火事ですか、救急ですか?」

「きゅ‥‥‥‥」

「もしもし? もしもーし、聞こえますか? もしもーし」


 俺の意識は手放した。そして、もう二度と戻ることはなかった。

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