第26話
「なんでですか? あんな言われ方してひどいじゃないですか」
「邦魔の者同士で争うことはあってはなりません」
「だってあっちが先に手を出したんですよ? 止めないともっとひどいことになります」
「よしわかった――」
「――間を取ってマリー14世のところへ行こう!」
「どこがどう間なんだよ、何の解決にもなってないし誰も得しないじゃないか」
色許男は天外の顔を改めて見つめ、不思議そうな顔をする。
「無理やり解決しようとしたり、誰かが得をしようと動くのは、
「なんだよそれ」
「邦魔っつーのは、別に世界を征服しようとか、究極の魔法を編み出そうとか、そういう目的をもってるわけじゃない。その時その場の人が居心地いいようにダラダラやってきたんだ。そうだよね? 雅ら理ちゃん」
「え? それは……」
色許男は力強く断言する。
雅ら理様は、そんなこと初めて聞いた、という顔で戸惑っていた。
「だからって、傷つけられてこっちが我慢すればいいっていうのは嫌だ。雅ら理様が、本家が傷つけられるのをボクはもう見てられない」
「いけません」
雅ら理様は色許男の手を引っ張り、間接的に天外が踏み出すのを止めた。
「色許男、放してよ」
「放さないでください」
色許男を間に挟んで押し問答というか引っ張り問答が続く。
「だったら、どうしろって言うんですか!」
思わず大きな声を出して問いただす。
その声に反応して雅ら理様が手を放した。
色許男が勢いのまま天外の方へ転がってくる。
「……いけません」
なんだか切なくなるようなか細い声で、雅ら理様はそうつぶやいた。
「そこまで! これでわかったであろう、天外とやら! お互いに引っ張り合い、子の腕の痛みを思い放してしまった方こそ真の母親である。つまり、雅ら理ちゃんが俺のママです」
色許男が転がったまま寸劇モードに入った。
「どんな名裁きだ!」
「これにて一件落着。華のお江戸は、アッ日本晴れ!」
色許男はポーズを決め、紙吹雪が舞った。
雅ら理様はというと、完全に天外と色許男を白い目で見ていた。
完全に天外も共犯者のように思われてるらしい。
言い訳をしたかったが、普段どおりのやり取りのためにどう言い訳したらいいのかわからない。
色許男が飛び起きて再び雅ら理様の手を取る。
「行くぞ、雅ら理ちゃんも!」
「いけません」
「いいや、行く。子供が間違って誰かを傷つけそうになった時、きちんと躾けてあげるのもママの役目だ。俺だけじゃない。貴澄だって、邦魔の子だろ?」
色許男が立ち上がると天外と雅ら理様より頭一つ分背が高い。
その色許男が諭すように言うと、雅ら理様はコクンと頷いた。
「よし、そのあとはマリー14世のところに行くぞ!」
三人の心がひとつになり、いざと踏み出した所で、スパーンと障子戸が音を立てて開き、そこには国定老が怒りを抱えた仏像のように立っていた。
「ジジイ、止めても無駄だぞ」
色許男が格好をつけてそう言うと、国定老は懐に手を潜り込ませる。
「若いの。これを持っていくがよい」
国定老が出したのは、漆塗りに螺鈿のきらびやかな細工がされた短刀だった。
「
「え、武器なんていらないですよ」
「ワシは何も知らん。何も見てない。じゃから、邦魔に仇なす者を一思いに刺し殺すがよい」
「いやいや、殺さないですよ。犯罪になっちゃいますから」
さすがに時代錯誤というか、本気なのか冗談なのかシワだらけの表情から全く読めない。
「いいから持っていけ。邦魔の歴史が守ってくれる。役に立たないことに越したことはないが、もし何かあったら遠慮なく色許男を刺してよい」
「よい、じゃねーだろ。なに、ドサクサに紛れて暗殺目論んでんだ。ジジイより先に死ぬ気はねぇからな」
国定老は色許男を睨みつけて顔をのシワをさらに増やした。
微妙な表情だが、笑っているようにも見えた。
天外は御神刀を受け取り頭を下げた。
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