第9話
「もー、
「この着物は祖母が成人の時に仕立てたもので、とても可愛らしいと思います」
「そうなんだけどー。着物じゃなくてもっとふわふわしたようなね、お洋服とか着ないの?」
「着ないことはありません。ただ機会があまりありませんので」
「やだ、女子がおしゃれするのに機会なんていらないよ。したいときにする、着たい時に着る」
「では今度相談させてください」
食事が終わったあと、雅ら理様と
ガールズトークというには堅苦しいけど、同じ立場の人間ということで見ていても安心感がある。
ちょっと雅ら理様の方にはまだ遠慮があるような気がするが、それは彼女の性格だから仕方ない。
誰に対しても一歩引いた態度で不用意に踏み込んだりしない。
少なくとも、本家で特別親しく遠慮無く接している人なんて見たことない。
「で、相談ってそういう?」
「いいえ、
部屋の中で存在感を消しながら会話に耳を傾けていたところ、ひっかかる話題になった。
ひょっとして雅ら理様の方から相談を持ちかけたのだろうか?
そんなことしていいのか?
本家には本家の、分家には分家の分というものがあるのに。
「そういう難しいのはおじいちゃんたちに聞かなきゃ全然わからないんだけど」
そう言って宵子は貴澄をチラッと伺いながら続ける。
「うちはね、とにかく人気が大事なの。邦魔は楽しいよ、ってことをアピールしていこうっていうノリだから。だって魔法を使えるって楽しいことじゃない。実際に修業すると楽しいだけじゃないけどさぁ」
「よくわかります」
「邦魔もね、変わらなきゃいけないと思うの。このままおじいちゃんやおばあちゃんたちからありがたがられる昔話に出てくるようなものじゃ寂しいじゃない」
「ええ」
「若い人にも興味を持ってもらって、色々できたほうがさ、未来が明るいもの」
「そうですね」
無邪気に夢を語ってるようだけど、宵子の言い分は納得が行くし同意する所は多い。
邦魔に携わるものは誰でも、このままでいいのかと考えたことがあるはずだから。
天外のような実行力を持たない若い人間だってそうなんだから、ご老体衆なんかはもっと考えてると思う。
実際そのくらい邦魔は疲弊しているのだ。
未来が霞んで見えるほどに。
「私もそのことをよく考えます」
「ホント!? わー、ごめんね。あたし誤解してたわぁ。本家の人って頭が堅くて、自分たちのことばっかで何も変えたくないんだって思ってたから」
「ンッん~!」
宵子のストレートすぎる本音にすかさず貴澄が咳払いで制する。
「ね、貴澄ともよく話してたんだよね。本家が邦魔の未来を殺してるって」
「ンガッ……ゴホッゴホゴホッ」
咳払いで宵子の注意をひき、共犯であることを暴露された貴澄は、窒息しそうなほどむせて咳き込んだ。
「雅ら理ちゃんがメディアにでたらすごい人気出ちゃうよ。動画配信なんかいいかも!」
「ニュースでは何度か映ったことがあります」
「そういうね、格式張った真面目なやつじゃなくて、不真面目なやつ。大丈夫だよ。あたしでさえファンがいるんだから。マニアックなの」
「宵子さんは魅力的ですから。私もファンです」
「えっへっへ~。聞いた、貴澄? あ、貴澄だってテレビ出てた時は人気あったんだよねー」
にやけた表情で身体をくねらせながら宵子は貴澄に話を振ると、彼は罰が悪そうな表情をし顔を背けた。
「聞いたことない? 『マジッキス』て。あれ、何年前? 7年? 8年前?」
「11年前です」
貴澄はその場の誰にも視線を合わせないようにメガネを直し、ぼそっと訂正をする。
天外は思わず貴澄の顔を凝視してしまった。
メガネが反射して表情が読み取れないけど、眉間に深い一本皺が走っていた。
「11年も前かー。じゃ、まだ雅ら理ちゃんは生まれてないよね」
「存じております。まだ幼い頃でしたけれど」
「そうなんだー。っていうか、私もあんまり覚えてないんだよね。11年前じゃ、私も9歳だし、里心ついてない時代じゃない?」
里心ではなく物心。
そもそも6歳で物心がついてないのはかなり遅い。とツッコミそうになったが、相手が分家の当主だという立場を思い出して踏みとどまった。
そんなことより天外は貴澄が『マジッキス』のメンバーだったことのほうが驚いた。
一応『伝説の』と冠をつけてもおかしくないくらいの存在なのに、こんなところでひょっこり会えるとは。
死んでない限り邦魔の世界ならなんらかの役目についてはいるはずではあるが、なんだか文献でしか知らない歴史上の人物が目の前に現れたような妙な気分だ。
言われてみれば貴澄は端正で彫刻みたいな顔立ちをしている。
ただ今はアイドルというよりは、仕事のデキる男というような貫禄を醸し出している。
男性魔法アイドルユニットというとイロモノっぽいイメージだったけど、貴澄の魔法の実力を見た今その考え自体を改めた。
「私にはまだまだ知らないことが多いのです。それはこちらの天外さんに教えてもらいました」
雅ら理様がそう言うと、宵子と貴澄の視線が突き刺さるように天外を射抜いた。
「い、いや。それは違……」
天外がそう言いかけると、宵子が邪な笑みを浮かべて口元を隠す。
「あらあら~、そういうことだったのね。なぁ~るほど。わかるわ~。あたし、二人のこと断然応援しちゃうからね!」
宵子は天外の手を握って、引っ張るように雅ら理様に抱きついた。
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