引退試合 ②

 そして引退試合の当日を迎えた。試合は女子の方から始めるようで、通常の試合と同じ形式でする。恵里達の現役チームと田原達の三年生チームともに試合で着るユニホーム姿なので、本当の試合のような感じがする。

 主審は男子チームの先生がして、タイマーや得点などは男子チームの二年生がする。だから合同でする事にしたのかと納得した。女子チームの先生は現役チームの指示するようだ。本当の試合と変わりがないようにみえる。


「田原、ガンバレよ〜、ケガするなよ〜」


 一応同じ三年のチームを応援していたが、田原は微妙な顔をしていた。


「ハイハイ、負けないように頑張りますよ」

「あぁ〜、宮瀬センパイ〜、私は応援してくれないですか?」


 横から恵里が少し拗ねた顔で割り込んできたのでここは素直に応援することにした。


「恵里もガンバレよ、新キャプテン!」


 そう言うと嬉しそうな顔をして頷き、コートの中央に走って行った。多少緊張感がないが試合は始まった。

 試合開始直後は現役チームが圧倒して連続で得点を挙げていた。一カ月以上バスケから離れている三年生チームは思うように攻める事が出来なかったが、時間が経つ毎に少しづつパスやドリブルが噛み合うようになってきた。

 ハーフタイムになった時は得点差は縮まりほとんど無い状況だった。ハーフタイムが始まる前は田原と恵里に話かけようかとしたが、二人共凄く真剣な表情だったので止めることにした。

 その間に俺達も軽くシュート練習をしたがやはりなかなか思うように決められなかった。これは少し作戦を立てないといけないと実感した。

 ハーフタイムも終わり現役チームが得点をリードして始まった。ここからは勘が戻ってきた三年生チームと現役チームの接戦が繰り広げられた。三年生チームはほぼレギュラーばかりなので試合運びが慣れていて上手いことボールを回している。

 一方現役チームは攻めも守りも恵里が中心で組み立てていく。この一カ月で更に恵里は上達している。既に田原達三年生を超えている感じだ。

 その恵里の縦横無尽の活躍もあり試合はこのまま僅差で現役チームが勝利した。試合が終わった後に恵里と目が合い満面の笑みでVサインをしてきた。入れ替わりで俺達がコートに入っていった。


「さすがに疲れたわ……宮瀬達もナメてかかったら大変よ」


 疲労困憊の顔をして田原が話しかけてきたが、表情は清々しい感じで楽しそうだった。


「まぁ、ケガしないよう頑張るよ」


 軽く笑みを浮かべながら返事をして、シュート練習を始めた。試合開始前に俺達は円陣を組み作戦を立てる事にした。作戦と言っても難しい事は出来ないので勘が戻るまではディフェンス中心で点を取られないように我慢して、慣れてきて試合勘が戻れば一気に攻めようと話した。


「それでいいんじゃない、後は宮瀬のリバウンドに期待するよ」


 慎吾と順司がいつものように頷き、俺の肩を叩いてコートの中央に向かった。久しぶりの感覚で楽しく感じた。

 試合が開始してボールは現役チームに渡り俺達はディフェンスについたが、これまでと違い違和感がある。あっさりと現役チームに先取点を取られてしまった。マークが甘くプレッシャーもない感じなので仕方がない、慣れてくれば良くなるだろう。

 そう思って攻めるがやはり思ったようにはパスやドリブルが上手くいかない。シュートが外れてリバウンドも取る事が出来ず相手ボールになった。


「これは思ったより大変だな……」


 自陣に戻りながら順司に話すと頷き、俺と同じ事を考えていたようだ。

 とりあえず慣れるしかないと思い焦らず作戦通りしっかりとディフェンスをする事にした。

 第二Qになる頃には俺達それぞれ試合勘が戻って来たようで徐々にシュートが決まるようになってきた。ハーフタイムになる頃には、リードはされていたが最少得点差で抑えることが出来た。


「さすがにキツイなぁ……」


 座り込み俺が呟いたが、体力が落ちているのは慎吾や順司も同じ状態だった。出来るだけ休んで体力の回復する事に努めた。ハーフタイムが終わり再びコートに戻ると恵里の声が聞こえた。


「宮瀬センパイ、ガンバレ!」


 俺は恵里の方を見て手を振り頷いた。ここからは一進一退の攻防になった。点を取られたら取り返す展開でなかなか差が縮まらない、このまま僅差で負けるかなと一瞬思った。

 終了間際に慎吾のスリーポイントが決まった。これまで何度も助けられた慎吾のスリーポイントだ。これで一点リードしたが残り時間はあと三十秒もない。

 俺はすぐに自陣に戻り後輩達の攻撃に備えた。現役チームはドリブルで一気に上がってきて、ゴール下にパスが通ってしまう。パスをキャッチしたのは田渕だ。俺がシュートブロックに入るが田渕はタイミングをずらしてシュートを放ってきた。


「ヤバイ、決められる」


 そう言ってもう一度腕を精一杯伸ばしてブロックにいくと、辛うじてボールが指先に当たる。そのままボールはリングに当たったがゴールには入らず落ちてきた。体を反転させてすぐさまリバウンドの体制に入りジャンプしてボールをキャッチした。

 しっかりとボールを掴み抱えると試合終了のブザーが鳴った。その瞬間、順司と慎吾が俺に飛び込んできた。


「良くやったなぁ、やっぱり宮瀬だよ」

「はぁ〜、何とか抑えられたよ〜」


 大きく息を吐くと、三年生チームのみんなが俺の所にやって来て喜んでいる。その輪の中で一緒に喜んでいたが本当に終わったなと少しだけ寂しさが入り混じった複雑な気持ちだった。


「さすが宮瀬センパイです、最後まで敵いませんでした」


 田渕が笑顔で参りましたという顔をしていた。その後ろに涙目で恵里が立っていた。


「凄いよ、センパイ……何か感動しちゃたよ……」


 恵里からそう言われて恥ずかしくなったが、恵里の頭をくしゃくしゃと撫でた。


「本当にありがとうな、こんな機会を作ってくれて楽しかったよ」

「そんなことないです……私はセンパイの本気でプレーする姿が見られて満足です。ますます好きになりましたよ……」


 顔を赤くして目も真っ赤にして恵里は最高の笑顔だった。


「また高校でも続けるから安心しろ……」


 そう言って俺は恥ずかしさを誤魔化そうとしたら、真っ赤な顔をした恵里に背中を叩かれた。

 恵里のことだからこの先バスケの強豪校にも行くチャンスがあるかもしれないし、学力もあるので上の進学校に行くかもしれない。もしかしたらこれが最後かもしれないと思ったらこれまでの思い出が頭を巡った。

 改めて恵里には本当に感謝しかない。試合が終わって後片付けも終わり最後に男女一緒に写真を撮って思い出の引退試合が終了した。

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