進路と期末テスト ②
放課後、今日は補習を受けないので久しぶりに健達と帰ろうとしていたが、部活の先生に呼ばれて職員室に行かないといけなくなり先に帰ってもらった。
先生との話も終わり人気が無くなった昇降口に行くと、男子二人が靴を履いて出ようとしていた。
「あっ、慎吾」
「おう、宮瀬じゃん」
「順司も、どうしたの?」
二人とも面倒くさそうな顔をしながらも話してくれた。
「要約すると、勉強しろって怒られた訳か……」
俺が二人の話を纏めるとそんな内容だったので、呆れた感じで慎吾達を見ていると慎吾はもしかしてお前もかという顔をする。
「宮瀬も何か怒られた?」
慎吾が戯けた感じで聞いてきたが、直ぐ首を大きく横に振り冗談じゃないと否定した。
「部活の先生に呼ばれて、腰の具合を聞かれたんだ」
先日の試合で腰の具合が悪くなったが、病院には行かず様子を見ることにした。幸いにも試験週間で部活が休みなので、安静にすることができる。
「それで腰の調子はどうなんだ?」
「今のところは痛みもないし大丈夫そうだけど、実際に動いてみないとなんとも言えないな」
俺が不安そうに返事をするので慎吾達は心配そうな顔をしている。
「後一カ月ちょとだもんな……」
三人で部活の事を話ながら校門を出た。この三人で帰るのは珍しい、普段の部活の時でも殆ど無かった。それぞれ違う部活の友達と帰っているが別に仲が悪い訳でもない。なんだかんだで一緒に部活を続けてきた仲間だ。
普段は一緒に帰る事が無いので部活の話題から進路の真面目な話題になった。
「宮瀬は第一希望ってどこにしたんだ?」
「えっと……K田高校って書いたんだ」
すると慎吾が何かに勘付いた顔をして尋ねてきた。
「宮瀬、まさかと思うが彼女と同じ所に行こうと思ったのか」
「いや、そういう訳じゃないけど……」
「まぁ確かに今の宮瀬の学力なら問題無いだろうけど、仮に入学してもし笹野と別れるような事になったら厳しくなるぞ、お前の性格からして」
真面目な顔をして慎吾が話すが、そもそもまだ絢とは付き合っていない……だが妙に説得力のある話だ。
「笹野とお前の悪口を言う訳じゃないが、このまま同じ高校に行ってもいずれは別れそうなんだよなぁ」
茶化す訳でもなく真剣な表情で慎吾が話すので俺は反論出来なかった。
「で、宮瀬この前にきっちゃん先輩が来た時に言ってたじゃん、また一緒にやりたいって」
慎吾が言うきっちゃん先輩とは俺の前のキャプテンで、初心者だった俺に丁寧にバスケを教えてくれた先輩なのだ。
俺がキャプテンになったのも、今の俺のポジションがあるのも全て先輩のお陰だ。先輩はどの後輩に対しても先輩風を吹かす事なく人柄も良くて人望もあった。勿論、バスケも上手くて、既に高校でも早速試合に出場したらしい。
その先輩が先日の大会の時に顔を出してくれたのだ。
「そうだな、先輩もそう言ったら喜んでいたな」
「だろう、だからK田高校は辞めときなよ」
慎吾からストレートに言われて重たい空気になったが、俺は以前から考えていた事を打ち明けようと思った。
「……実は第一希望にK田高校と書いたけどその後に色々と考えたけど、二回目の希望の提出は、A府高校に代えようと思っているんだ」
それを聞いて慎吾は深く頷いた。
「それがいんじゃないか、彼女くらい高校入ってから作ればいいんだよ、大体今でもちゃんと付き合ってるじゃないんだろう」
再びグサっと刺すよな事を言われたが、事実なので何も言い返せなくて下を向いていた。
「やっぱりそうだよなぁ……」
俺は俯いたまま呟いたが、昨日の大仏に言われた事と今日のこの会話で気持ちはほぼ決まった。
だが今の絢との微妙な関係は出来れば壊したくない。もちろん周りの友達との関係も壊したくないので進路の事は聞かれない限りはこちらから話さない事にしようと決めた。慎吾達にもこの事は周囲には言わないようにお願いをした。
翌日の放課後、昨日の約束通り数学の補習を受けようと教室に残っていた。
絢は今日が日直だったので学級日誌を書いて先生に提出する為に職員室に行っている。本当は今日の数学の補習はどちらでもよかったのだが絢に半ば強引に参加するような話で持っていかれた。絢が教室に戻って来た。
「ごめんね、待たせて」
絢が可愛らしくペコリと頭を下げる。
「係だし仕方ないよ、でも絢は数学そんなに苦手じゃなけど、補習に行く必要あるの?」
俺が不思議そうな顔をしているので、絢は少し焦ったような表情をして慌ててに答える。
「そ、そんなことないよ、得意ではないし不安なところもあるのよ……」
「そう、まぁいいや。とりあえず行こうか」
「うん」
絢がニコッと小さく頷き、鞄を持ち補習がある教室へ二人で移動を始める。俺が先に教室から出ると、絢が嬉しそうに後ろからついて来る。
一時間程補習を受けたが、案の定絢は隣で簡単そうに問題を解いていた。
(何で面倒な補習を受けたのかなぁ)
俺はそんな事を考えていたが、顔には出さないように黙っていた。補習も無事に終わり帰ろとするが、絢の帰る方向には誰も友達がいないようだった。
「途中まで一緒に帰るか?」
特に遅い時間ではなかったが、絢を一人で帰らせるのもどうかなと絢に尋ねてみると顔を赤くして恥ずかしそうにする。
「う、うん、いいよ。でもよしくん遠回りになるけどいいの?」
「あぁ、心配しなくても大丈夫だよ」
そう返事をして二人揃って昇降口を向かった。但し俺はこの数日の事を黙っておこうと進路の話題には触れないように注意しようとした。不自然な会話にならないよう気を付けながら修学旅行や部活の話題を話しながら一緒に歩いていた。
しかし絢はそれ以外の進路の事を聞きたいような雰囲気をしていたが、無理にその話題にはしてこなかった。
もしかしたら気をつかわせたのかしれないと罪悪感があったが、心の底ではホッとしていた。楽しく二人で話していたけど、別れ道が来てしまい絢は少し寂しそうな表情になる。
「また明日ね……」
絢の手を振る姿が何か聞きそびれた感を出していてまだ話したそうな感じだった。
「うん、またね」
俺も手を振り返したが、寂しいという気持ちよりやはり罪悪感が残ったようでモヤモヤした気持ちのままだった。
残りの日にちは期末テストまで補習が無かったので、自宅と塾で勉強をした。塾では絢と顔を合わせたがそこではあまり会話せずテスト勉強に集中した。
週が明けて期末テストが始まった。流石に補習や塾での勉強の効果でそれなりの手応えはあった。三日目の最後の教科も終わりやっと解放された。そして今日から部活が再開する。
「やっと終わったね?」
「本当にくたびれたよ、後はテスト返しが恐ろしい」
絢が嬉しそうに話しかけてきたので、俺は面白半分で笑いながらに返事をすると絢も同じように可愛く笑っていた。
「よしくんは今日から部活あるの?」
「あるよ、もう部活も一カ月弱しかないもんね」
「そうだね、そう言えば腰の調子は良くなったの……」
心配そうな顔で絢が尋ねてきたが、俺自身も良いか悪いかよく分からない状態なのだ。
「う〜ん、実際に体を動かしてみないとね、何とも言えないかな」
不安そうな顔で俺が答えてしまったので、逆に絢に明るく励まされてしまう。
「きっと大丈夫だよ、でもちゃんと準備運動とかストレッチもしてね」
「うん、ありがとう。気をつけるよ」
笑顔で絢にお礼を言って、部活に行く準備を終えて絢の姿を見ると目が合った。絢は部活が無く友達と帰るような雰囲気なので手を振り絢も手を振り、「じゃあね」と言って教室から出て体育館に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます