進路と期末テスト ①
地区大会の翌日、教室に着いて絢に一昨日の事を話しておこうと姿を探した。絢も教室に着いたばかりでまだ周りに友達がいなかった。話をするにはチャンスだと思い絢の所に向かった。
「おはよう」
「よしくん、おはよう。どう体の様子は?」
「とりあえず痛みとかは無いけどね、昨日の試合は散々だったよ……」
「そうなの……残念だったね……」
「でもゴメンな、折角応援してくれるって言ってたのに、あの様で試合もあまり出られるなくて……」
「そんな事気にしないで、また幾らでも観る機会があるよ」
優しい笑顔で絢は答えてくれたが、考えてみたらそんなに試合を観る機会が無い事に気が付いた。
「でももう後は夏休みの始め頃にある大会しかないかな」
「中学はその大会で終わりだけど、よしくん、高校はバスケ部入らないの?」
「い、いや入るつもりだけど……」
予想外の質問に思わず焦ってしまい言葉が詰まってしまった。
「良かった、それならこれからも観に行けるね」
嬉しそうそうな顔をしていたが、それは同じ高校に行く事が前提になのだろう。先週、進路希望調査を提出したが、その時の話では第一希望は同じ高校だった。今の成績で行けば問題無く入る事が出来るのだが実は迷っていた。
第一希望のK田高校はこの地域では一番の進学校で、迷っているのは地元のA府高校でここもそこそこの進学校だが割と部活動も盛んなのだ。
実際に入学してからの事を考えると地元のA府高校が部活はやり易いし、勉強もK田高校に入るより負担が少ないのではないかと考えている。まだその事は誰にも相談してはいない。
「そ、そうだな……」
少し曇ったような自信のない曖昧な返事しか俺は出来なかった。
「お――い、宮瀬。宿題見せてくれ――」
背後から大きな声で健が呼んでいる。
「呼んでるから、行くね」
絢は「うん」と頷き、俺は席に戻ったがその時の絢の表情が微妙に変わったような気がした。
(さっきの曖昧な返事で何か気が付いたのかな……)
ここで考えていても仕方ないので、さっさと健に宿題を写させることにした。
放課後、来週から期末のテストが始まるので今日から部活は試験が終わるまでお休みになる。部活がない代わりに補習教室みたいなのがあるので今日はそれに参加することにした。
教科毎に教室が分かれているので、苦手な英語をしようと思い別の教室に移動した。教室に着くと参加者が多くて席があまり空いていなかったので目についた近い空席に座った。
「あ、宮瀬じゃん」
名前を呼ばれたので横を見ると見慣れた顔が座っていた。
「お、大仏か」
「アンタだったら受けなくても点数とれるじゃない」
大仏に何で来ているんだみたいな顔をされてしまい、大きなお世話だと思いながら控えめな感じで笑いながら答えた。
「いや、英語は苦手なんだよね……」
「へぇ、意外じゃん」
「お前こそ、真面目に補習受けるなんて珍しいな」
「そろそろヤバいなと思って……」
落ち込んだ表情で大仏が教科書を見ながら答えたが、俺はやっと気が付いたかとほくそ笑む。
「そろそろとか言うレベルじゃないだろう……」
そんな会話をしていたら英語の先生が教室に入ってきて補習が始まった。
通常の授業より長めだったの少し疲れたが、横の席を見るとすでに脱け殻のようになった大仏の姿があった。
「お――い、終わったから帰るぞ」
「はぁ――」
大きな溜息をつき大仏が片付けを始めたのでさすがに心配そうに尋ねてみた。
「お前ホント大丈夫か?」
くたびれた顔をしていつものように噛み付く元気はもうなさそうだ。
「はぁ――」
帰る準備が出来たみたいなので一緒に帰る事にした。同じ方向に帰る友達は皆帰ってしまい大仏も同様だった。大仏とは自宅も近所なのだ。
「アンタと帰るのも久しぶりね」
「そうだなぁ」
大仏とは小学校からずっと同じクラスなのだ。幼馴染ような関係で異性だが友達に近い関係で、お互い客観的に見ているところがあり、特にコイツは遠慮なく俺に言ってくる事が多いのだ。
「お前は志望校どこにしたんだ?」
「えっと、A府高校だったかな、近いし」
大仏の答えを聞いて驚き思わず声がでてしまう。
「げっ……」
すると大仏が俺の反応を見て不思議そうな顔をする。
「でもアンタ違うじゃない、K田高校でしょう」
「何で知っているんだ……」
「私にも色々とネタのルートがあるのよ」
得意げな顔をしてみせたが、そんな事よりもコイツがA府高校を志望してるのが意外だった。あの成績で大丈夫なのだろうかと思ったのと同時にひとつの不安が過ぎる。
(仮に同じ高校になってももう同じクラスになることは無いだろう……)
「実は……」
以前から考えていた事を大仏に話してみることにした。わざわざ俺の事を他人に言うことも無いだろうし、話しても問題無いだろうと判断した。
「アンタらしい考えね……」
俺の話を聞いた大仏は、長い付き合いで俺の考えを理解したのかうん、うんと頷きあっさりと答えた。
「どの選択がいいのか分からないだよな」
「悩めば……アンタの進路だし、でも高校に行けば色々と変わるだろし……アンタのやりたいようにすればいいじゃない、別に正解があるわけでもないし」
凄く投げやりな言葉だったが、大仏らしい考えで嫌な気分になる事はなかった。変に気を遣うような返事ではなかったので心の中にあったモヤモヤが晴れたような気がした。
「ありがとう」
ポツリと呟いたが、大仏は不思議そうな顔して何言ってるのという表情をしていた。
次の進路希望調査は九月だったのでまだ考える時間はある。でも俺の中ではほぼ決まっているような感じだった。
翌日、登校して今朝は絢が俺の席までやって来た。
「昨日は、放課後の補習教室に行ったの?」
「行ったよ、どうせ帰っても勉強しないし、昨日は塾も無かったし」
「今日は?」
「きょ、今日は……そうそう塾があるから行かないよ」
「そ、そうだったね、今日は塾の日だったね」
何故か慌ててたような感じだったが、元々同じ塾に通っているのだから予定は分かっているはずなのにどうしたのかなと絢を見ていた。
「明日は塾がないよね、補習に行くの?」
「えっ、あ、明日か……行こうかな、行くとすれば今度は数学かな」
俺が答えると絢はほっとした表情になった。偶々前にいた大仏と目があって軽く笑っていた。
「明日、私も行くから待っててよ」
そう言って絢は軽い足取りで自分の席に戻って行った。俺は何でそんなに絢が焦って約束したのかと不思議に思いながら席に戻る絢の後ろ姿を眺めていた。
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