体育館と試合 ③

 次の試合まで時間があるのでとりあえず安静にしていようとチームが待機している場所へ移動した。


「宮瀬くん、何かあったの?」


 振り返ると絢と卓球部のメンバーが揃っていた。


「観てたの? まぁ、たいしたことないよ」

「でも試合が終わった後にみんな集まっていたし、試合も出ていなかったよね?」


 絢達は最後の辺りからしか観ていないようで、絢が心配そうな顔している。心配させまいとこれまでの経緯を話した。


「そうだったの……よしくん、無理したらダメだよ」

「……分かってるよ、絢」


 俺の返事を聞いて絢は安心した顔をして卓球部の仲間の所に戻って行った。


 二試合が終わり次は女子バスの試合がある。二時間弱休んで痛みが幾分かマシになったみたいなので試合を観にコートサイドへ移動した。試合前の練習中で恵里が俺の姿に気が付いて近くに来た。


「センパイ、大丈夫ですか?」

「う〜ん、何とも言えないけど……でも次の試合は出るつもりだよ」

「そうですか、少し安心しました」


 そう言って笑顔を見せてくれた。


「それよりも恵里は次の試合スタメンなの?」

「そ、そうなんです……」


 緊張からか少し不安そうな顔をした。


「そんな顔するなよ、自信持っていけよ。恵里なら大丈夫だ。俺が保証する」


 勇気付けようとしていつもより強めの口調で話をして頭を撫でた。


「は、はい。頑張ります!」


 効果があったのか分からないが、少し顔が赤くなったけど不安そうな表情はなくなった。

 試合が始まり前の試合と同じ様に恵里は活躍していた。チームの中心の田原と遜色ないぐらいのプレーを続けている。


(本当に恵里は凄いなぁ……)


 実際に観戦していて改めて実感するが、運動は得意で確か成績もかなり優秀らしい、性格も明るくて悪い話も聞かない。

 顔も美人だしスタイルも同学年の子にくらべたらかなり良い。まるでアニメのヒロインかと言うぐらいのレベルだ。


(何でこんなハイレベルの子が俺みたいなのに……)


 自虐的になりそうになったが考えても仕方ないので目の前の試合を応援した。

 試合はかなり接戦だった。相手チームもかなり実力があり得点を取られたら取り返すミスが許さないぐらいの緊迫した試合だった。

 残り時間もあと一分を切って得点は同点だ。相手がシュートを外しチャンスでリバウンドから攻撃に入る。相手も時間ぎないから前から当たってくる。かなりのプレッシャーだ。

 恵里にボールが渡りドリブルに入ろうととしたところで相手にボールを叩かれてしまった。ルーズボールが相手に渡り慌ててディフェンスに戻ろうとしたが間に合わない。

 ノータイムになりそのままシュートを決められてしまった。ゴール下からパスを出すがブザーが鳴り試合が終了して女子バスは負けてしまった。

 試合後の挨拶が終わりコートから田原達が引き上げてくる。

 その中で恵里は同級生に抱えられタオルで顔隠すように戻ってきた。声をかけようと思ったがあまりの落胆振りに出来なかった。

 恵里を抱えている同級生の子に『頼むよ』と合図だけして、キャップテンの田原にも『責めないでくれよ』と一声かけておいた。


「さあ、いくぞ!」


 俺は皆んなに力強く声をかけて試合のある隣のコートに移動した。


 二試合目のK田西も強豪チームではないが背が高い二人を中心にボール回しの上手いガードがいてバランスの取れたチームだ。

 スタメンはいつものメンバーだが、また異常が感じられたらすぐに交代をさせると先生に指示された。

 いつもの勝ちパターンは先行逃げ切り型で前半が調子が良ければ大体勝つ事が出来る。この試合もそう行きたいと俺達は思っていた。

 笛が鳴りいつものようにジャンプボールに競り勝ち順司にボールが渡り一気に走ろうと思ったが、体が反応せずに順司がそのまま相手のゴール下まで行く事にになった。

 順司のジャンプシュートは外してしまったが、田前がリバウンドを取りもう一度外から慎吾がシュートを打ち先制点を決める事が出来た。

 慎吾は幸先良く決めたのでこの試合は乗っていくに違いないと思った。


「宮瀬、大丈夫か? 無理するなよ」


 ディフェンスに戻る時に順司が心配そうに言ってきたが、首を縦に振り大丈夫だと合図をした。

 しかし体の反応はどうしても一足遅れてしまい精彩を欠くが、それが致命的なミスにはならずに済んでいた。


(反応が悪いなぁ……無意識で庇っているのか?)


 試合自体はリードしているが、チームとしてはなかなか上手く機能していなかった。

 前半が終了して、先生から交代を告げられた。理由としては『明日も試合がある』との事だ。俺は珍しく「今日負けると明日は無い」と先生に食い下がったが、交代は変わらなかった。

 交代は悔しかったが、客観的に見て俺がが思っている以上に動きが悪いのだろう。


「先輩、任せて下さい。明日も試合がありますよ」


 交代で出場する田渕が俺の表情を見て心配したのか声をかけてくれた。


「当たり前だ……頼んだぞ!」

「ハイ!」


 元気よく田渕は返事をして勢い良く試合に出て行った。俺はベンチに座り頭からタオルをかけて俯いた。


(くっそー、何なんだよ。こんなに体が動かないって、確かに痛みが無いわけではないけど……)


 後半が始まり点差は変わらず点を取れば、取られてを繰り返して時間が過ぎていく。流れが変わってしまうようなミスもなく第四Qもあと一分を切り相手は前からボールを奪おうと圧力をかけてディフェンスをしてくる。

 こちらは点差もあるので無理な攻めをせず時間を使いながら攻撃をしていた。そしてノータイムになり最後は慎吾がスリーポイントシュートを打つが僅かに外れて試合終了のブザーが鳴り勝ちを収めた。

 周りが立って喜んでいる中で俺はベンチに座ったままとりあえず勝てて良かったと安堵した。試合終了後の挨拶も終わりチームメイトの輪に加わらずコートから出ようとしたら二人が別々の所から走って来た。


「よしくん!」

「センパイ!」


 絢と恵里は同じタイミングで俺に声をかけて二人共心配そうな表情をしている。


「大丈夫なの?」


 何故かハモっていたので思わず笑みがこぼれてしまった。折角心配してくれているのに悪いなと思ったが、少し面白かった。背後に居た慎吾達も笑っていた。少しだけ落ち込んでいた気持ちが明るくなったような気がした。

 二人には『心配しなくて大丈夫だ』と説明をしてそれぞれの所に戻らせた。

 特に恵里には前の試合でショックが大きかったのに自分の事よりも心配してくれたので凄く感謝した。

 後でそう伝えたら顔を赤くして嬉しそうにしていた。


「修羅場にでもなるのかと思ったよ」


 試合が終わり帰る時に慎吾がからかい半分で本気とも思えるような発言で順司達が爆笑していた。


「バカか、そんな事になる訳ないだろう!」


 そう言って一蹴してやった。

 次の日は散々な結果でひとつも勝てずに終わり、三位にもなれなかった。俺自身もフル出場したものの本来の動きからは程遠い感じだった。

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