体育館と試合 ②
翌日、地区大会の初日は予選で俺達のブロックは三チームの総当たりで二試合することになる。
この体育館には男子が二ブロック六チームと女子は一ブロックの四チームが来ている。合計で十チームあるのでかなりの人数がいて体育館の周辺は人の出入りが激しいみたいだ。絢達の部活は別のフロアーだけど、この状況で果たして練習が出来るのだろうか。
第一試合は、俺達の学校の女子バスが試合をしている。第二Qの半分くらいで得点差は殆ど無い接戦が続いている。
審判の笛が鳴り、ゴール下で二人の選手が倒れているようだ。相手チームの選手は起き上がったが、女子バスのレギュラーの子はひとりで立ち上がれそうにないようだ。
(ヤバくないか、女子バスでキャプテンの次に上手だったはずだ……)
チームとしてはかなりのダメージなるだろうなと見ていたが、交代で入った選手が背番号が二桁の恵里だった。
背丈は交代したレギュラーの子と同じぐらいなのでポジションも一緒のようだ。
試合が再開して接戦だった流れが変わった。恵里が入ったことでドリブルで切り込んだ攻撃のパターンが増えて、内側の攻撃が安定してきた。その影響で外側からの攻撃の時のプレッシャーが減りシュートが決まる回数が増えてきた。
前半の第二Qが終わった時は、二桁の点差に広がるまでになっていた。
ハーフタイムになり俺達のチームの練習時間になった。パスやドリブルシュートなど一通りの練習をする。チームの状態は良さそうで、俺の調子もまずまずだ。
ベンチを見ると女子バスのレギュラーに混じって恵里の姿が見えた。後半もスタートから出場するのだろう先生の指示を聞いていた。
コートから出ようとした時にベンチから立ち上がった恵里と目が合って手を振ってきた。
「ガンバレよ――」
声をかけると大きく頷き笑顔でコートに出てきた。
後半も同様にキャプテンの田原を中心に攻撃を展開して恵里も必死にリバウンドをとりリズムを作っていった。この二、三ヶ月で恵里は格段に上達したみたいだ。
次第に点差が離れてきたが、交代はないみたいなのでこのままの流れで終わりそうだ。
第四Qの残り時間も少なくなり、正確なスコアーは分からないが、多分恵里がチームで一番の得点を挙げたのではないかと思う。
試合終了の笛が鳴り、女子バスは初戦を勝利した。コートの外でゲームを見ていた俺達も歓声を上げた。
次の試合の為後輩達が準備を始めて、俺達レギュラー組はコートに入ろうとした。
「宮瀬センパイ、勝ちましたよ。見てくれましたか、わたしの活躍を!」
これまで見たことないぐらいの嬉しそうな笑顔で恵里がやって来たが、まだ試合直後でタオルを巻いて額に汗が残っている。
「しっかりと見たよ。大活躍だったな、それにしても凄く上手くなったな恵里、頑張ったな!」
「あ、ありがとう先輩……」
俺は興奮気味に褒めたせいなのか、恵里は顔を赤くして照れていた。
「せ、先輩も次の試合頑張ってよ、楽しみにしてるね」
そう言うと恥ずかしそうに慌てて他の女子バスの仲間の所へ走って行った。
「モテるセンパイは大変だね……」
慎吾がからかいながらボールを渡されたので俺はムッとした表情をした。
「な、なんだよ」
「頼むぞ、宮瀬。しっかり勝ちに行くからな!」
直ぐに真面目な顔をして慎吾がカツを入れてきた。
「当たり前だろ、気合い入れていくぞ」
みんなの中に混ざりウォーミングアップを始めた。
初戦の相手はK野東で決して強いチームではないが平均身長が高いので厄介な相手だ。リバウンドと攻撃は速攻が鍵になるだろう。アップが終わり試合前に先生が指示を出すが同じ事を言っていた。
笛が鳴りジャンプボールで三井が勝ちボールが順司に渡り俺は一気に相手ゴールに向かう。順司のドリブルから長めのパスが来て受けるとそのままドリブルシュートで先取点を決めた。
「ナイスパス!」
順司に声をかけて手を叩く。
「このまま一気に行くぞ!」
その言葉通りに畳み掛けるように得点を重ねて試合の主導権を握った。前半を終わったところで二十点差がついていたが、先生の指示は「このままで行く」と言うことなので大きな交代はなかった。
キャップテンである俺はいつも通りのフル出場ようだ。順司や慎吾達はファールの数や得点差を見て交代する事もあるが何故か俺は基本退場になるギリギリのファールまで交代がする事がないのだ。それは先生の方針のようだ。
後半が始まった。前半と同じようにリバウンドをとってから速い攻撃を続ける。足が止まればベンチから大きな声で叱られるが、さすがに疲れてきたので攻撃のペースを落とした。既に得点差もかなりついていた。
第三Qも終わり頃に相手とリバウンドを競り合ってボールを取り攻撃に移ろうとした瞬間、腰の辺りに違和感が出て、そのままパスを出して立ち止まった。
(な、何だこの変な感じは……)
第三Qが終了して、次も試合があるので違和感の事を先生に説明して交代してもらった。コートの外で見ていた後輩や女子バスのメンバーは不思議そうな顔してベンチを見ている。
(そうだよな……何にも無いのに交代したからなぁ)
試合自体はほぼ勝ちが決まったようなものだったので問題無く終了した。挨拶をして片付けも終わりコートの外に出るとみんなが心配そうにやって来た。ベンチにいた仲間は状況を知っているので後輩達を追いやってくれた。
「セ、センパイ、ど、どうしたんですか」
心配そうな顔をして恵里もやって来た。
「ん……ちょっとだけ、腰に違和感があって……」
「えっ、だ、大丈夫なんですか? まだ次も試合があるのに……」
「とりあえず、次の試合まで少し時間があるから休めばなんとかなるだろう」
あまり心配させてはいけないと笑顔で答えた。しかし恵里は心配そうな顔のままこの後の試合のテーブルオフィシャルズがあるのでそのまま急ぎ足でコートに向かった。
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