修学旅行の前 ②
六人が机を合わせてそれぞれの顔を見る。目の前に笹野の姿があるということは同じ班なのだが、嬉しさというより不思議な感じがしている。
(なんだろうこの感覚は……一緒の班とかありえない事が……)
この時間で班のリーダーとサブリーダーと研修のおよその内容を決めなければならない。六人が揃って座ったところで俺から話を始める。
「まずはリーダーを決めないといけないけど、誰か立候補はいる?」
すぐに大仏が決まりきった顔で答えてきた。
「宮瀬がやればいいじゃない?」
大仏の発言を聞いて予想通りで俺は大きくため息を吐いて大仏を軽く睨むが、大仏は知らん顔をしている。
(やっぱりな……真っ先に手を上げるから……アイツはこういう時の行動は早いからな)
博之も健もしめしめとすぐに大仏の提案に乗ってきた。
「もう決定じゃないか」
二人して勝手な事を言い始めている。六人中三人が賛成しているので既に半数なので反対しても仕方ないような雰囲気だ。
「はぁ〜、もう俺がするよ……」
諦めた俺は再びため息を吐いたが、俺が簡単に折れたお陰で他の班より早く決める事が出来た。
「それじゃ後はサブリーダーだな、誰がやる?」
白川と笹野がひそひそと話をしている。
「私がやるわ」
突然、手を上げたのは笹野だった。
「いいの?」
驚いた俺は思わず聞き直してしまうが、笹野は優しく微笑んで頷いた。
「大丈夫よ、宮瀬君はいろいろと忙しいだろうから私が手伝ってあげるよ」
「あ、ありがとう。それでは笹野でいいかな?」
「いいよ」
四人とも賛成で、こちらもすぐに決める事が出来た。その後は研修の内容を話し合い、次回までに各自考えてくる事になった。
放課後、部活に行く前にもう一度笹野に確認をしてみた。
「笹野、本当に良かったのか? いろいろと面倒な事もあるみたいだぞ」
「うん、知ってるよ。だから宮瀬君の為に手伝おうと思ったの」
先程と同じように優しく微笑みながら答えてくれる笹野に俺は照れてしまう。気をとりなおしてお礼を言う。
「ありがとう。本当に助かるよ、よろしく頼むよ」
「こちらこそ、よろしくね」
お互い向かい合っていると恥ずかしくなってくる。通りすがりの白川が笹野に小声で話しかける。
「絢ちゃんガンバってね」
笹野は顔を赤くして拗ねた表情になる。
「もう、由佳ちゃんたら……」
白川と笹野は小声で会話を始めたので、俺は邪魔になったらいけないとこの場を離れようとした。
「じゃあ、俺は部活に行くから、また明日」
「あ、う、うん、ごめんね。また明日ね」
小さく控え目に手を振る笹野と別れて教室を出て部活に向かった。機嫌良く部室に着くと、慎吾が着替えていた。
「慎吾達のクラスも修学旅行の班とか決まったのか?」
「あぁ、決まったぞ」
「俺達のクラスも決まったんだけどリーダーなんだよ……どう思う?」
慎吾がやっぱりかとう感じの表情で笑っている。
「面倒くさいやつね、大変だな」
「そうなんだ。だから練習に来るのが遅れる時もあるから頼むよ」
「任せとけ。どうせ宮瀬の事だから真面目に全部仕事を引き受けるだろうからな」
軽く笑いながら快く慎吾は部活の事を引き受けてくれた。
「それで、班の事だけど……笹野と同じ班になったんだよ」
「へぇ〜、良かったじゃん」
俺自身は気になっていた事だったのたが、何事も無いようにあっさりと慎吾に答えられてしまう。
「ん〜、でも何かよく分からない感じなんだよな……上手く言えないけど」
上手い事説明が出来なくて、不思議そうな顔で慎吾が俺を見ている。でも俺が何を言いたいのか察してくれたようだ。
「まあ、なるようにしかならないさ、宮瀬もあまり意識せずに自然体な感じでいいじゃないの? 別に急ぐ事もないし、とりあえず修学旅行を楽しんだら」
「そうがな、ありがとう慎吾。とりあえずやってみるよ、楽しめるように」
俺は頷き、慎吾の意見を聞いたことで霞がかかった気持ちが少しだけ晴れた様な気がした。
数日後、班での研修内容がほぼ決定したので旅行のしおりに付け加える為の資料作りを放課後にやる事になった。
「結局、このメンバーだけか……」
独り言のように呟くが、残ったのは俺と笹野と白川の三人だけだった。
博之と健は声をかける前にあっという間に帰っていた。大仏もどうしても変更出来ない用事があるとかで帰宅してしまった。
しかし結論を言うと笹野と白川だけで充分だった。俺も二人を手伝う程度で大した仕事をすることはなかった。
「もう少しで終わりそうだな」
俺は作業をしている笹野に話しかけた。
「うん、後ここを書いたら完成だよ」
「予想より早く終わりそうで良かった、さすがだな……」
先が見えてきたので安心したように話すと笹野は優しく微笑みながら首を横に振る。
「そんな事ないよ、宮瀬君だっていっぱい手伝ってくれたからね。それにしても宮瀬君は昔からから字が綺麗だよね」
「そうでもないよ、でも顔に似合わずかな」
笹野は俺が書いたメモを見ながら清書をしている。俺は照れながら笑って誤魔化していたが、小さい頃から書道教室に通っていたので多少自信があった。
「え〜全然、私より綺麗に書くもん」
拗ねたよう表情で可愛く笹野が言うが手は休んでいない。
「何を戯れているの、こっちも終わったよ」
白川がふ〜っと息を一つ吐いてペンを置いていた。
「お疲れ様……助かったよ、さすがだな完璧だよ」
白川の言葉をはぐらかそうと俺は出来上がった資料を見ながら話す。学年でもトップクラスの成績の白川が作ったのだから間違いはない。作った資料に目を通していると、時計を見て白川は慌てて帰る準備をしている。
「ごめんね、ちょっと時間がないから先に帰るね」
「用事があったのか、ありがとうなギリギリまで」
「そんな事ないよ、私達の班の事だから」
優等生、白川の見本のような答えだった。帰る支度も終わり笹野にも声をかける。
「それじゃまた明日、絢ちゃんもごめんね」
「う、うん、また明日ね」
白川の様子を見てから、笹野も何か急に慌てたようだった。
「気をつけて帰れよ」
笹野の二人で白川に手を振り、今度は二人きりになり静寂の教室の中で、程なくして笹野も資料を完成させた。
「笹野が居てくれて本当に良かったよ」
俺は出来上がった資料を目を通しながら話していたので、急にガタガタッと音がして笹野を見ると何故か慌てた様子で顔も赤くなっていた。
「そ、そ、そんなこと、な、な、ないよ……」
「どうしたの、急に」
様子が変わった笹野を俺は心配そうに見ると、ますます慌てた様子になる。
「だ、だ、大丈夫だよ……もう宮瀬君が変な事言うから」
笹野は返事をしたが後半は聞き取れないぐらいの小さい声だった。笹野が一つ息を吐き落ち着いた様子になったので、それ以上は俺はは聞かなかった。
すぐに笹野も帰宅準備が出来たみたいだ。
「それじゃ、教室を出ようか」
一応最後まで教室に残っていたので窓を閉めて、教室の扉も閉めないといけない。二人揃って教室を出て、扉を閉める。
昇降口のところまで一緒に歩くが俺も笹野も何も話さず無言のまま来てしまった。少し気まずい空気が流れるので何か話さないといけないと焦るが、なかなか出てこない。
「笹野はこのまま帰るのか?」
なにも出てこずに無難なことを尋ねてみたが、笹野は何か違う事を考えていたみたいで不意をつかれたようだ。
「う、うん、今日は部活がお休みなの、だからこのまま帰るよ、宮瀬君は?」
「俺は部活が休みじゃないから少し様子を見てこようと思って」
「そ、そうなの……一緒に……」
残念そうに答えて、後半は聞き取れずに、笹野の顔はどこか寂し気な表情だった。
「……宮瀬君、また明日ね」
少し元気はなかったが、すぐに笹野の表情はいつもと変わりなく、優しい笑顔になっていたので安心した。
「今日は本当なありがとう、また明日気をつけて帰れよ」
俺は手を振り体育館に走って行ったが、部活に顔を出した俺は慎吾になんで部活に来たのか凄く怒られた。
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