修学旅行の前 ①
春の大会の二日目、準決勝はあっさりと負けてしまった。俺の足は、前日の影響もなく試合にはいつもどおり臨めたが結果は散々だった。続く三位決定戦は何とか意地で勝ちを収める事が出来た。
翌日、疲れが抜けきれず登校した。教室に着いてホームルームが始まるまで大人しく座って机に顔を伏せていた。
「宮瀬君、おはよう……あれ、大丈夫かな?」
隣の席から声がするので、俺は眠たそうに顔を上げる。
「お、おはよう……笹野……」
「どうしたの朝から疲れてるみたいだけど」
心配そうに俺の顔を見るので、俺は背中を伸ばしてきちんと起き上がる。
「う〜ん、一昨日、昨日と試合でね……でも準決勝で負けて三位だったよ」
「そうなの、残念だったね。あっ、そうか一昨日はここで試合があったんだよね、見に行きたかったなぁ」
笹野は残念そうな顔をしてい俺を見続けている。
「そ、そうか……また次に試合があったら見に来いよ」
俺は笹野に見つめられて少し焦ってしまう。
(もしあの二人組との事を見られてら……でも笹野と付き合っている訳ではないから問題はないか……)
そんな事を考えていると担任の先生が教室に入ってきた。
「まだ一日か始まったばっかりだけど、頑張ってね!」
「ありがとう、なんとか耐えてみるよ」
笹野が優しく励ましてくれたので嬉しくなり俺は笑顔で返事をした。
いつもより放課後まで長く感じだが、何とか帰りのホームルームも終わり無事に一日を乗り切れそうだ。
(やっと終わった……)
ほっとしながら、ゆっくりと帰り仕度を始める。
「お疲れ様、宮瀬君。今日の部活はあるの?」
笹野が心配そうな顔をしている。
「いや、今日は休みだよ。さすがに皆んな疲れて練習にならないからね」
「それなら良かった。帰ったらゆっくり休んでね」
笹野は安堵した表情で部活に行く準備を終えて優しく微笑んでいる。
「ありがとう、家に帰ってゆっくりするよ」
「うん、それじゃ私は部活に行くね。また明日」
「あぁ、頑張ってこいよ」
手を振って笹野を見送って、俺も急いで帰る準備を終わらせた。
昇降口に着くと帰宅部の生徒が殆ど帰っていたので閑散として静かだった。靴に履き替えようと靴箱に手を伸ばした時に背後から聞き慣れた声がする。
「せ〜ん〜ぱ〜い〜」
振り返ると恵里が拗ねた表情で立っている。
「待ち伏せしてまでして、何か用事か? 俺は用事がないけど……」
俺がちょっと面倒くさそうに話すと、恵里は不機嫌そうな口調になる。
「一昨日、あれだけ言ったのに何か心当たりがありませんか?」
「何かあったかな……」
特に心当たりはないし思い浮かばない……でも恵里は疑いの眼差しで俺の顔を見ている。
「そんな事を言っても知っているんですよ! 誤魔化さないで下さい。先輩が鼻の下を伸ばしていたのを……」
俺はその言葉を聞いてピンときたので恐る恐る尋ねてみる。
「もしかしてF中の二人組の女子の……」
「そうですよ!」
恵里の口調は厳しい、かなり不機嫌な様子だ。
(誰から聞いたんだよ、でも予想はつくけど……)
俺はひとつ息を吐いて答える。
「ちょっと待ってくれよ、話が誇張されてるぞ。大体、鼻の下なんか伸ばしてないし、試合も相手チームから狙われて大変だったんだぞ」
俺が真顔で強気な口調で反論するので恵里は不機嫌な様子からしゅんとした感じになり大人しくなる。
「だってまたライバルが増えるのかと……」
「そんなのじゃないし、俺だって名前さえ知らない子なのに……いちいち気にするなよ。そもそも恵里は俺の彼女でもないだろう」
(悪気があって言ってる訳ではないけど、毎回同じ事を言っているような気がする……)
俺が呆れたような顔をすると恵里は大人しかった顔が気持ちを切り替えたのか、いつもの明るい表情に変わる。
「今は、ですよ……」
そう言った時にはすっかり機嫌は戻っていた。
「はい、はい、もう気が済んだか? もう帰るぞ、今日は疲れたし……」
恵里はいつもの調子でニンマリと笑っている。また何か思い付いたのだろう。
「それではお詫びに一緒に帰る事にします〜」
「はぁ、もう好きにしろ……」
(ホント表情が豊かな子だな、面倒なところもあるけど、一緒にいても飽きないな……あれ、洗脳されてきているのか?)
恵里に言われるがまま二人で帰ることになった。
次の日、学活の時間で修学旅行の班を決める事になった。二日目の自主研修をする時の班だが、なかなか決まらない。業を煮やした担任が『今の席の班でする』と決定した。
教室の中は『えーー』と声が響いたが、時間もないし決められなかったので仕方ない。俺は周りを見渡して班を確認する。ちなみに先週席替えをしたばかりだ。
(前から
この時間はまず班のリーダーを決めて、研修のおよその内容について話し合う事になった。河田と渡利は一年の時に同じクラスでやんちゃなところもあるが仲は良かった。
「良かった、宮瀬とおなじ班でこのクラスであまり仲いい奴いないからな」
安心した様子で河田が話してきた。
「そうなのか、でも久しぶりだな博之と同じ班になるのは」
渡利も楽しそうに話しに割り込んできて、肩を組んできた。
「頼りにしてるからな、宮瀬」
「健、頼りにするのはいいけど、お願いだから仕事はしてくれよ」
俺達、男子三人で机を並べようとすると別の方向から一つ机が移動してきた。
「ちょっとアンタ達キチンと机を並べなさいよ」
大仏がいつものようにぶっきらぼうな口調で加わり、六人が机を並べて話し合う状態になった。
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