春の大会

 クラブ紹介は無事に終了した。なんとか冊子の原稿も間に合った。

 当日は俺が舞台に上がっての説明役を、実技は慎吾と順司と三井がやる事になった。さすがにに三人共、失敗することなく無難にシュートを決めてくれて、一応盛り上げる事は出来た。

 今日は入部希望者が集まる日で、予め入部届けを提出してもらっているので人数の把握は出来ている。四十人弱が今年の入部希望者だ。当初は説明を教室で行なう予定だったが余りにも人数が多いので体育館ですることになった。


「どうするよ、この大人数……」

「誰が一年生の面倒をみるんだよーー」

「俺は嫌だぞ! 練習出来なくなるからな」


 俺に慎吾と順司が対策はあるのかと聞いてくるが、まだ特に考えてはいない。


(どうしたらいいかなぁ……上手いこと言って田前にやらせるか。一応、副キャプテンだしな……)


 一年生が集合して説明を始めた。基本的な練習時間や場所など説明して、人数が多すぎるので一年生の自己紹介はまた別の機会にして、ニ、三年生だけ自己紹介をした。


「しかし……圧倒されるな、この人数は」


 俺が隣にいる慎吾に小声で話しかけると慎吾もうんざりした顔をしていた。


「そうだな、ニ、三年合わせた人数より多いからな」


 説明の最後に俺の一存で一年生にこれからの指示を出した。


「一年生は、副キャプテンが練習の指示を出すからちゃんと聞くように!」


 周りにいた三年生は驚いた表情をして微笑していたが、田前だけは顔が固まっていた。田前以外は異論はなく、田前が一年生の面倒をみることになった。これで当面の間は、問題はないだろう……


 翌日、大所帯になったバスケ部だが週末には春の地区大会がある。

 レギュラー組はいつも通りの練習をこなしていく。二年生も田渕を筆頭に実力をつけたきた。

 一対一でも以前ならスピードとパワーで追い越しシュートを決められたが、近頃はそれだけでは抜けないのでフェイクを入れるなどしないと決める事が出来なくなってきた。

 練習がひと通り終わって、居残りでシュート練習を始めた。ドリブルからのシュートからジャンプシュートをフェイクを混ぜながら練習をする。


「せーんぱい、さすがですね〜」


 いつものように恵里が嬉しそうな笑顔で声をかけてきた。


「何がさすがだよ、ディフェンスがいなくてフリーなんだから決めて当たり前だろ」

「そんな事ないですよ、その練習が試合の時に生かされるんでしょう」

「まぁ、そうだけど」

「先輩って、試合の時に目を奪われてしまうような凄いシュートを決めるよね、ここぞとばかり……だから惚れちゃうんですよ!」


 はにかんだ笑顔で恵里が言うので俺も恥ずかしくなってしまう。


「今回は男女違う会場だったな、恵里も頑張れよ」


 恥ずかしさを誤魔化すように俺が言うと恵里はいつもの笑顔で答える。


「先輩こそ、いつもみたいにビシッと決めてくださいね。でもファンは増やさないでくださいよ、それじゃ〜ね」

「何だよそれは……」


 恥ずかしさよりも呆れた感じで返事をすると、恵里は大きく手を振って元気よく部室に戻っていった。

 週末の土曜日、二日間ある大会の初日は俺達の学校が試合会場だった。一日目は一回戦と二回戦がある。今日の二試合勝てば明日の準決勝に進める事が出来る。

 一回戦はK西中と対戦だったが、前半で点差が開いたので俺達レギュラー組はベンチに下がった。後半はいつも出場機会がない少ないメンバーを中心に交代しながら試合を進めていった。終わってみれば余裕のある勝利で一回戦は突破した。

 次は二回戦は隣のF中だ。まだ前の試合が途中だったので、軽くウォーミングアップをしようと外に出た。その時、二人のF中の女子が俺の所にやって来た。


「あの〜 宮瀬君ですよね?」

「えっ、は、はい、そ、そうだけど」


 いきなり知らない女子から話しかけられて動揺してしまい、ぎこちない返事をしてしまう。


「な、なにか、俺に……」


 すると二人組の背の低いショートカットの子が恥ずかしそうに話しかけてきた。


「え〜っと、わたし、宮瀬君のファンなんです……」


 その言葉を聞いて、更に動揺してどう反応したらいいか分からずに言葉に詰まる。


「……あ、ありがとう……」


 俺は、上手い事話せずに照れているととショートカットの子が顔を赤くして、何か言いたそうな表情をしている。


「つ、つぎの試合、が、がんばってくださいね、応援していますから」


 そう言うと慌てた感じで走り去ったので、俺は呆然と後姿を見ていた。


「やるね〜、モテモテじゃん、宮瀬」


 何故か背後から慎吾が楽しそうな顔してからかってきた。


「いや〜、マジでビックリしたよ、こんな事ってあるんだな」


 俺は慎吾の気をはぐらかそうとしたが、慎吾は不敵な笑みを浮かべているので嫌な予感がする。


「これを色んなところでネタにすると面白そうだな、例えばあの子にとか……」


 俺は直ぐに慎吾の肩に手をやり、これ以上変な方向に話が進まないよう口を手で塞ぐマネをする。


「頼む! それはやめてくれ。言いふらさないでくれよ、また面倒な事になるから」

「それじゃ〜」

「わかったよ、後で奢りますよ……」


 とりあえず面倒な事は回避できそうだ。


 気を取り直して試合開始前の準備を始める。周りの観客を眺めるとあの二人組の姿があった。しかしF中の応援ではなく、俺を応援する為にこちら側のエンドにいる。


(これは……相手からマークがキツくなるかも)


 試合が始まり、俺がシュートを決める度にあの二人組が手を叩き喜んでいる。 試合も前半から俺達のチームのペースで進みリードしている。

 前半の第二Qが終了してハーフタイムになる。ベンチに向かっていると慎吾が面白半分に話してくる。


「めちゃ、喜んでるじゃんあの二人」


 慎吾の声を聞いていたが、俺はいつもより疲れるペースが早くて肩で息をしている。


「……でもな慎吾、相手のマークがいつも以上にキツくて、大変だよ」


 ため息を吐きながら答えるが、鼻で笑いながら慎吾は当たり前だという顔をしている。


「仕方ないさ、相手からしたら面白くないからな」

「そうだよな……勘弁して欲しいよ」


 ベンチにどかっと座って体を休めた。

 後半に入ると更に相手からマークがキツくなり、相手も疲れてきたのだろう少しづつラフプレーも増えてきた。そのお陰でチームファールが稼げて、試合も俺達がかなり有利に進めている。

 第三Qの終了間際、リバウンドの競り合っている時に相手の膝が俺の足にモロに入り床に倒れてしまう。直ぐに走れそうにないので交代して一度ベンチへ下がる。ベンチにいる後輩達が心配そうな顔をしている。


「宮瀬先輩、痛そうっすね、大丈夫ですか?」

「あぁ、痛いけど冷やせば大丈夫だろう」


 そう答えて後輩達を安心させたが、痛みが治まる様子はない。


(この試合には戻れないだろ……でも明日の試合には問題無いはずだ)


「宮瀬、あとは皆んなに任せておけ。明日に響かないように冷やしておけよ」


 顧問の先生がそう言って、第四Qはベンチで試合を眺めることになった。結局そのままのペースで試合が終了して俺達のチームが勝利した。


 試合終了後の挨拶も終わり、荷物がある場所へ戻ろうとした時にあの二人組がやって来た。


「大丈夫? 宮瀬君」


 心配そうな顔でショートカットの子が話しかけきた。


「大丈夫だよ、そんな心配しなくても明日の試合は出られるよ」


 俺は表情を緩めて優しく答えると、ショートカットの女の子が申し訳なさそうな顔をしている。


「ごめんなさい、私達のチームの所為で……」

「いやいや、謝る事ないよ、試合中の事だから仕方がないよ」


 いきなり頭を下げられて、俺は驚いて手を横に振り大袈裟なくらい大丈夫だとアピールした。俺の表情を確認して女の子は納得したようでやっと微笑んでくれた。


「良かった〜あ、明日も頑張ってください、楽しみにしてますね」

「う、うん、お、応援ありがとうね」


 俺が戸惑いながら笑顔で返事をすると、安心して顔で二人は戻って行った。


(もしかして明日も来るのか?)


 二人の姿を見送り、帰り仕度をしないといけないので荷物の場所に急いで向かった。

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