新しいバッシュと試合
三学期が始まり、三週間が過ぎて新しいバッシュも足に馴染んできた。
履き始めた頃は、枡田が女子バスで「宮瀬先輩のバッシュは私が選んだのよ」と発言して女子バスの同級生から冷やかされ、女子バスのキャプテンからは「ウチの可愛い部員に手を出すな」と忠告されたりととばっちりを受けた。
もちろん男バスの仲間からも散々からかわれたが、履き心地は抜群でこの最近はかなり調子が良い。
今日は県大会出場をかけた地区予選の二日目になる。一日目の昨日は二連勝で今日の準決勝に進むことが出来た。
しかし先程あった準決勝であっさりと敗れてしまい、この後の三位決定戦に進む事になった。
だがこの三位決定戦に勝てば一つの目標だった県大会に出場ができる。
準決勝で負けた時はショックだったがまだチャンスがあるのでもう一度皆んなで気合いを入れようとしていた。
今は目の前のコートで女子の試合をしている。いつも見慣れた女子が走っている。
俺達の学校の女子バスで、同じように準決勝に進出していて、この試合も有利に進めている。
いつもは応援することも無いが、今日の様な状況だとさすがにチカラが入り応援したくなる。それは、男バスの皆んなも同じだった。普段なら絶対に応援などしそうにない順司や慎吾も声を出して応援していた。
俺も同じように声をあげて応援していた。試合途中に枡田が交代で出場する時には思わずおおきな声を出る。
「恵里〜 しっかり〜 頑張れよ!」
本人も俺の声に気がついたみたいで、少し恥ずかしそうに小さく手を振っていた。
出場していた時間はそんなに長くなかったが、積極的にオフェンスに参加して三本シュートが決まっていた。レギュラーを休ませる間だけだったが、攻守ともに十分な活躍だった。
試合終了のホイッスルが鳴って、俺達の応援のお陰かどうか分からないが勝利を収めることが出来た。
試合を終えた女子バスのメンバーが戻ってきて、皆んな一様に笑顔で、女子バスのキャプテンが俺に声をかけてきた。
「応援ありがとう、今度は男子の番よ、勝って男女とも出場するよ、頑張れ!」
日頃はキャプテン同士で練習場所の事とか歪み合う事が多いのだが初めて励まされた。
「おう、絶対勝ってくるよ、女子には負けられないからな」
お互いハイタッチをして俺達は気合を入れてコートに向かって行った。
三位決定戦はE島中でセンターに身長が頭一つ大きい奴がいて、平均身長が高いチームだ。
俺達のチームも身長が決して低くは無いが高さ勝負になると若干厳しそうだ。しかしスピードと外から攻撃は俺達のチームに分がありそうだ。
予想通り前半の第一Q・第二Qは、オフェンスでは内側の攻撃がなかなか機能せず外から攻撃が多くなる。慎吾のスリーポイントや順司のシュートが好調で得点差は僅差だが、相手にリードした状況でハーフタイムになった。
「このままだとリードが出来ない、外からの攻撃だけだと厳しいなあ、いい策がないかあ」
チームで円陣を組んで俺が皆んなに尋ねてみると順司が打開策を話してきた。
「センターの三井が相手に抑えられている以上はポストプレーは難しい、後半は相手も疲れてくるだろうから、そこで宮瀬、お前しかいない」
「えっ、俺か」
「チーム一番の持久力のお前だよ。あとは瞬発力とジャンプ力の……」
「足がもつかな?」
「大丈夫だろう、新しいバッシュなんだから、頼むよ!」
最後は冗談で皆んなの笑いを誘ったが、順司の意見にみんなが頷いていた。
(実際のところ……残す手段はこれぐらいしかないだろう……)
俺も前半はディフェンスが中心でなかなか攻撃に参加出来ていなかったので消化不良気味だった。
後半の第三Qが始まり、俺が積極的に攻撃にいきドリブルで内側に仕掛け、レイアップシュートで得点を挙げていく。
ディフェンスは前半に抑えられた三井とフォワードの田前でカバーして凌いでいった。外から攻撃プラス俺のカットインで得点差が次第に無くなってきた。
しかし相手も俺を好き勝手にさせないように当たりを強くしてくる。第三Qが終わって同点のままだ。
第四Qに入りすぐに流れを変えるタイミングがやってきた。
相手の攻撃でシュートを外して、初めて俺達のチームがリードできるチャンスがきた。速攻で相手側のエリアに入ってパスを貰い一気にドリブルで内側に入りシュート体制にいこうとしたが、相手の背の高いセンターが前に立ちはだかる。
俺は一瞬周りを確認するがパスが出せる味方がいないので多少強引だがシュート体制に入る。相手センターがブロックに来て、そしてもう一人相手のフォワードも体を寄せてきた。
シュートの体制から咄嗟に俺はボールを低くしてフェイントをかけて相手センターをかわすとすぐに同じようにフォワードがブロックにきたので今度は身体を捻り相手をかわして、バックシュートを打つ感じでボール放ちボードに当ててリングの中に入る。
俺はよろけながらも立ち上がり腕を上げる。
「これでいける!」
こんなプレーをもう一度は出来ないが、この試合は勝てると確信した。チームもこのプレーで一気に勢いがつき、点差があっという間に開いていく。
そして試合終了のホイッスルが鳴り、県大会出場が決まった。チームメイトは皆んな大喜びで、俺達試合に出ていた順司や慎吾も手を取り合い喜んだ。
試合終了後の挨拶も終わり順司が疲れた顔をしていたが笑顔で俺の肩を叩く。
「宮瀬、あのシュートは凄かったな……どれだけ跳んでるんだよ」
「夢中だったからなあ、同じことやれって言われも無理だな……」
「ははは、だろうな〜でもあのワンプレーで試合が決まったな!」
お互い笑いながら握手をして喜びを分かち合った。荷物を置いているところに移動していると、今度は興奮気味に枡田がやって来た。
「せんぱーい、やったね! もうなんですか、あのプレーはめちゃくちゃカッコイイじゃないですか!」
「ありがとう、でももう出来ないぞ、あんなプレーは……夢中だったからな」
思わず枡田の頭を手で撫でてしまいその仕草に枡田の顔が紅くなる。俺はその様子を見て慌て手を引っ込めた。
「あっ、ごめんな、思わず手が出て」
まだ俺も興奮が収まってないみたいで、いつもと違う反応をしてしまったことに反省する。
「いや、いいですよ……先輩なら」
恥ずかしそうに俯いた枡田が返事をしたが、恥ずかしさを誤魔化そうといつもの明るい表情をしている。
「やっぱり新しいバッシュも良かったですよ! 今度、私がご褒美を上げますね、手作りのチョコを期待してくださいねぇ」
何故かご褒美とかいう話になっていて、嬉しそうな表情のまま枡田は女子バスのメンバーがいる所に戻って行った。
(何でチョコなんだ? 彼氏でもないのに手作りチョコとか……)
とりあえず今はそのことを考える余裕はなかった。試合の疲労が一気にやって来てその場に倒れ込みそうになっていた。
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