うわさと友達

 終業式も終わりいろいろな出来事があった二学期だったが、学校内の大掃除が終わり後は帰りのホームルームだけになった。

 まだ担任が来るまで時間があるので、席の隣近所からクリスマスの予定や正月の予定の話が聞こえてくる。いつものように後ろの席の大仏が暇そうに俺の背中を突いてきた。


「アンタはクリスマスとか予定があるの?」

「いや特にはない、家でケーキを食べるぐらいだな」

「寂しいわねぇ〜、例の後輩ちゃんとデートでもしないの?」

「はぁ⁉︎ 何だよそれ、誰からの情報だよ……まったく、あの子はただの後輩で彼女じゃない、そんなウワサ流してるのは……」


 俺は眉を顰めると大仏が残念そうな顔をする。


「ガセネタかぁ、まぁ、アンタの事だからそんなことはないよね、どうせまだ引きずってるんでしょ」


 大仏の言葉に心の奥を見られたような気がして、焦って言い返そうとしたが言葉が見つからない。


「……アンタらしいけどね」


 大仏は小さく笑いながら呟いたが、俺は反論が出来ずにそのまま黙り込んでしまった。大仏のこういう洞察力には敵わない、さすがは幼馴染といった感じだ。

 なにも言えずに、担任が教室に入って来たのでホームルームが始まってしまった。


 ホームルームが終わり、いよいよ冬休みに突入だ。今日は部活も休みなのでそのまま自宅に帰ろうと昇降口に向かい、靴に履き替えようとした時に慎吾から声を掛けられた。


「お〜い、宮瀬〜、今日は予定あるか?」

「いや、予定はないよ」

「それじゃ、この後に仲間内でクリスマス会するけど参加するか? まぁ、クリスマス会と言ってもカラオケだけどな」

「あぁ、いいよ、どうせヒマだし参加するよ」

「じゃあ、いつもの所で一時に集合で!」

「おう、分かった」


 そこで慎吾と別れて、一緒に帰る友達がいなかったので一人で下校することになった。


(誰が参加するのだろう?)


 慎吾の交友関係はいろいろと広いので予想がつかなかった。


 帰宅してからすることもないので早めに出発して集合時間よりかなり余裕をもって到着した。

 外が寒いのでカラオケ屋の中で待つことにした。慎吾の親戚が経営しているカラオケ店なので、バスケ部の仲間達と何度も来たことがある。


「こんにちは」


 俺が会釈すると受付にいるおじさんが気がついて笑顔で話しかけてくれた。


「おう、久しぶりだな! 慎吾に誘われたのか? そういえば一時からだったな、予約が」

「はいそうです、まだ慎吾は来てないですか」

「まだ来てないなぁ、そこに座って待ってろよ、すぐに来るだろう……」


 そう言われて暖かいところで座って、おじさんと世間話をしながら待っていたら、慎吾達が中に入って来た。


「何だよ……中で待ってたのか、宮瀬が来ないから皆んなで外で待ってたんだぞ」

「ご、ごめん……全然気がつかなかった……」


 頭を下げて平謝りをすると、慎吾は仕方なさげに外で待っている仲間を呼びに行った。


「中に入って来いよ、宮瀬はもう来てたから大丈夫だ」


 男女八人が入ってきたが、顔を見るとほとんどが慎吾のクラスで多少は顔見知り程度であまり親しいメンバーはいなかった。


(なんで俺を呼んだんだ?)


 不思議がっていると、一人だけよく知った女子がいたので顔を見て背筋が凍った。そう女子卓球部部長の白川がいたのだった。


 慎吾が手際良く受付を済ませて皆んなを案内して部屋に移動する。

 割と広めの部屋でソファとテーブルがあり一般的なカラオケルームだ。とりあえず男女に別れて座ることになった。

 日頃からあまり会話したことがないメンバーばかりで俺は話がなかなか弾まなかったが、女子達から歌い始めてだんだんと盛り上がり始めた。

 この感じだと白川からは追及される事は無いかなと安心していると、隣に慎吾が座ってきた。


「宮瀬、スマン先に謝っておくよ……実は、白川が確認したい事があるからお前を連れて来いって言われて……それで誘ったんだ」

「そうだろうなぁ……このメンバーを見れば不自然だからな……納得したよ」


 俺はため息混じりに返事をして頷いていた。


「でも白川にはあの件の事は話をしてあるんだ、それも随分と前にだ。なんで今になってなんだろうなぁ……」

「う〜ん、まぁ、何を言われても仕方ないさ、不甲斐ないばかりだから……言い訳のしようがない」


 俺が半ば諦めたような顔をして、慎吾との間に重苦しい空気になる。不穏な雰囲気に周りが気にし始めたので、慎吾と慌てて適当な話題に変えて、その場の空気を変えようと明るく振る舞った。


 しばらくして、俺は室内の暖房の暑さと見えない緊張感で少し具合が悪くなりそうになり、部屋から出ようと一度席を外した。様子を伺っていたのか、同じタイミングで白川も部屋の外に出て俺の所に静かにやって来た。


「宮瀬君、もしかして井藤君から話は聞いたの?」

「えっ……な、なんのことかなぁ……」


 知らないふりをして返事をしたが、俺は何を聞かれるのか恐怖心でいっぱいだった。


「井藤君から今日の事よ!」

「ああ、その事ね……うん、聞いたよ。それで確認したい事って何?」


 白川は少しイラッとしたのか強い口調なり、俺は素直に質問に答えた。出来るだけ平静を保つように白川の話を聞こうと緊張していた。


「宮瀬君は、あの一年生の子と付き合ってるの?」


 予想とは反した質問で、一瞬気が抜けそうになるが気を取り直して答える。


「いいや、付き合ってないし付き合う気もないよ、今のところは……」

「そうなんだ……最近よく二人が一緒に居るのを見かけるから、でも今のところなの?」

「だって先の事は分からないし……でもまぁ、付き合う気は無いけどね」


 少し曖昧な答えだったが、白川は納得した表情になったので俺は安心した。しかし白川は油断した俺に勘づいたみたいだ。


「もしかして……あの事で責められると思ったのかな?」

「そ、それは……」


 少し意地悪そうな顔で白川に一番突かれたくないところを突かれて再び緊張感が走り返事に詰まってしまった。


「ふふふ、私も事情が分かるから大丈夫よ、でもあれこれ言っても最終的には本人達が決める事だから、責めたりはしないけど……少し残念かな?」

「それについては、なにも言い訳できないし、なにを言われても仕方ない……」

「うん、分かった、今は、後輩の子とは付き合ってないし、付き合う気もないって事でいいんだよね」

「ああ、その通りだ」


 念を押すように白川が強い口調なので俺は大きく頷き答えたが、どうしてここまで確認してきたのか疑問だった。


「心配しなくても大丈夫よ、絢には言わないし、噂みたいに広めたりもしないわよ」


 軽く笑いながら話しているが、白川なら信用しても大丈夫だろう。


「まあ宮瀬君達がどうするか、そっと見守ってあげるよ」

「そうしてくれ、頼むよ……」


 白川が何を考えているのかよく分からなかったが、安心したような表情で戻っていった。俺はいろいろな緊張感でかなり疲れていたが、長い時間部屋の外に出ていて心配されてもいけないので白川に続いて部屋に戻った。

 その後、夕方六時過ぎまで四時間以上歌って盛り上がった。白川と会話して戻った後は、何故か皆んなと共通の歌手の話題で盛り上がりそこからは打ち解けることが出来て楽しい思い出になった。

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