クリスマスの買い出しと後輩 ②
暫くして、田渕が初めの店と同様にプレゼントのネックレスを確認の為に来たが、二つ返事で精算に向かわせた。田渕の後ろには満足気な顔した枡田がいた。
「やっと決まったか、だいたい枡田のプレゼントじゃないのに何でそこまで真剣なんだ?」
「やっぱり喜んでもらわないとね、幸くんも幸せになってもらいたいじゃないですか」
「そうだぁ……ちゃんと考えていたんだな」
「もう……当たり前ですよ」
拗ねた顔をした枡田だったが、俺は文化祭の時に枡田の友達が言っていた事を思い出していた。
(想像以上に枡田はできる子なんだな……)
二人で会話をして待っていると田渕がラッピングしてもらったプレゼントを持って戻って来て頭を下げる。
「お待たせしました」
「ひと息つきませんか、何か飲みます?」
枡田が待ち構えたように伺ってきたので、直ぐに俺は返事をする。さすがに待たされてばかりで小腹もすいたのでナイスタイミングだ。
「立ってばかりで疲れたし、ちょうど喉も渇いたからいいぞ」
「それじゃ、フードコートでも行きましょうか!」
枡田が嬉しそうな顔をして張り切っている。所持金の少ない俺にとっては最適なので即決して移動した。
土曜日ということもありそこそこ席が埋まっていたが、三人分の席を確保して各々が買いに行く。
俺はファーストフードで炭酸飲料とフライドポテトを買って席に戻った。田渕も同じ組み合わせで戻って来て、枡田は紅茶とドーナツを持って戻ってきた。三人共揃ったところで食べ始める。
「とりあえず用件は終了だな」
俺が話しかけると田渕が嬉しそうな顔をしている。
「本当に助かりました。ありがとうございます」
「いやいや、全然なにもしてないし……いなくても良かったじゃない?」
つい本音が出てしまったが、田渕と枡田が首を横に振り否定する。
「そんなことないですよ、先輩が居なかったら恵里も来なかったし、プレゼントもなかなか決められなかったですよ」
「そうですよ、幸くんが一人で買いに行けるわけないじゃないですか、先輩のお陰ですよ」
俺の前に座っている枡田がうんうんと頷きながら美味しそうにドーナツを一口で食べる。俺は二人の会話の中で疑問になる事があったので田渕に質問してみる。
「ちょっと気になったんだけど、枡田が田渕の彼女の親友ってのは分かったけど、お互い下の名前で呼んでいて、昔からの仲って感じするんだけど?」
「あれ⁉︎ 先輩に言ってなかったですかね。ミニバス時代からの仲間だって」
「そうなのか……なるほど納得したよ」
何故か枡田が自信満々な顔をしている。
「ミニバス時代は私の方が上手かったですよ、幸くんに基礎を教えたのは私なんですよ」
「……そうなのか?」
疑い気味に田渕に聞いてみると苦笑いしている。
「恵里の言う通りですよ、今でもこそ恵里より上手くなったけど……だから今でも頭があがらなくて……」
「ははは、そうか、それは可哀想に……」
からかい半分で哀れんだ顔をして田渕に答るとすぐに枡田が反応して割り込んでくる。
「何ですか先輩、可哀想そうにって、だいたいまだ私は幸くんの方が上手くなったなんて思ってませんよ」
膨れっ面した枡田だったが、何か閃いたのか悪戯っぽい表情に変わってきたので嫌な予感がしてきた。
「そうだ、先輩も私の名前を下の名前で呼んでくださいよ、折角こんなに話するようになったし、苗字だと余所余所しいから……」
「えーなんでだよ急に、何か変じゃないか?」
曖昧な返事で恥ずかしいからだとは言わないように答えたが、田渕は首を横に振り残念そうな顔をして俺を見ている。
「先輩……残念ながらダメですよ、恵里は一度言うと何を言っても聞きませんよ」
「分かった、考えておくよ……」
田渕の表情を見て俺は諦め気味に返事をした。枡田は俺の返事に不満そうな顔をしているが、いいタイミングで飲み物も食べ物も無くなってきたので、話題を変えようとした。
「折角ここまで来たから俺は部活で着るTシャツとソックスを買いに行くけど、二人ともどうする?」
「もう用事は済みましたから付いて行きますよ、この後予定も無いし……恵里は?」
田渕はテーブルを片付けながら枡田の顔を見て予定を伺おうとしたが速攻で返事が返ってくる。
「うん、私も予定無いし、もちろん先輩に付いていきますよ!」
ご機嫌な顔をして枡田はテキパキと俺の分まで片付けをしてくれた。
結局、三人でモール内にある大型スポーツ用品の店に向かって、三人共に見る所は当たり前のようにバスケのコーナーの売場だった。
「先輩、見て見て、これ可愛いいよ」
可愛らしいデザインのTシャツを枡田が楽しそうに俺に見せてくる。
「そんなの着れるかよ、俺が着たら可笑しいだろう……」
「そんな事ないですよぉ〜」
枡田は不満そうな顔をしていたが、俺はお構いましに気に入りそうなTシャツを選んでいく。
Tシャツを選び終わった後、バッシューのコーナーに寄って眺めていると気になった様子で田渕が話しかけてきた。
「新しいの買うんですか? そういえば先輩の結構傷んでますよね」
「まだ履けないことはないけど、ほらもうすぐ正月が来るじゃん、そのお年玉で買おうかなあってね、でも金額がねえ……」
「そうっすよねえ、結構しますよね……」
二人でため息をついていると後ろから明るい声で枡田が声をかけてきた。
「なにため息ついているんですか、もしかして新しい買うんですか? じゃあ、今度私が選んであげますよ……だから一緒に行ってもいいですか?」
「はいはい、今度時間があえばね」
俺は軽く受け流すように返事をしてレジーに向かったが、恵里は本気だったみたいでぷくっと頬を膨らませていた。
夕方になり日もかなり傾いてきた。モールの正面の出入り口付近にやって来て、俺と田渕が目を合わせる。
「ぼちぼち帰りますか」
「そうだな、暗くなる前に帰るか、俺は帰り道の途中で寄る所があるからここで解散だ」
「えーもう終わりですかあ、寂しいですう〜」
枡田が甘えた声で不満そうにしている。
「結構長い時間いたぞ、俺も寄る所があるから今日は終わりだ」
「はーい、分かりましたあ」
今度は素直に枡田が返事をする。枡田の顔を見て、俺はふと思い出し鞄からヘアアクセサリーが入った袋を取り出し、枡田に手渡した。
俺が枡田に手渡した瞬間、キョトンとした顔をしていたがみるみる顔が赤くなる。
「どっ、どっ、どうしたんですか、い、いきなりこんなの渡して」
「この前のお礼だよ、応援というか、枡田にすごく助けられたからだよ」
「いや、そんな事……」
事態が掴めずに一生懸命に首を左右に振り狼狽える。
「まあ、そんな大したものじゃないし、似合うかどうかわかないけど」
俺が期待させてもいけないので遠慮気味に言うと、恐る恐る枡田は袋の中を確認して取り出す。
「わぁ……ありがとう先輩! 今度つけるねーー!」
真っ赤な顔で満面の笑みになった枡田は興奮気味に答えた。俺は喜んでくれた姿を見て一安心して、時計を見ると時間がなくなってきた。
「良かったよ、それじゃまた月曜日に……」
慌てて二人に別れを言って走って帰った。
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