いつもの仲間と文化祭

 練習試合が終わって帰り道に枡田と出会った。


「先輩はやっぱりこうじゃないと!」


 俺の顔を見て枡田が凄く嬉しそうに満面の笑顔で話しかけてきた。さすがに俺はは疲労困憊で余裕もなくあまり気の利いた返事が出来ずに簡単に礼だけをする。


「ありがとうな、枡田のおかげだ」

「えーそんなことないですよ、頑張って言っただけですよ」

「その言葉だよ……」


 俺の返事に不思議そうな表情を浮かべる枡田だか、疲れ過ぎて次の言葉を考える余裕がない。俺の様子を察して枡田もそれ以上聞き返すことなく心配そうに表情になる。


「センパイ、気を付けて帰ってくださいね」

「悪いなぁ、また今度」


 枡田の顔を見て少しだけ笑みを浮かべて手を振っていた。


(本当にあの子のおかげだな、自分でもビックリだ、こんなに出来るとは……)


心の中で感謝をしながら家路に着いた。


 週明けからは、体育館が週末の文化祭の為に一週間使用出来ない。

 部活は外だけの練習だけになる。クラスでは文化祭のコーラス大会があるので昼休みはその練習に当てられるので教室に残っていないといけない。学級委員はやたら張り切っているようで、例の階段に行ってサボったりする事は出来ないのだ。


 文化祭まで毎日昼休みは歌の練習が続いて、最後の二日間は放課後も練習をさせられた。

 二日目の文化祭前日は部活が休みなので練習が終わり帰る準備をしていた。


「宮瀬、部活は休みでしょう、クラスの展示を手伝いなさいよ」


 いきなり大仏から声を掛けられて、仲の良い学級委員から頼まれたようで強引に準備を誘おうとしている。


「え――面倒くさい、せっかく早く帰れるのに……他にもいるだろう」

「ちゃんと声掛けたわ、でも男子は逃げ足が速い奴はすでに帰ってしまったし、あと部活があるとか言って」

「逃げ遅れたか……まあ仕方ない手伝いますか」


 ただ単純に頼みやすだけだろうと思っていると、大仏は自分の鞄を持ち教室から出て行こうとする。慌てて俺は怒りを込めて阻止しようとする。


「ちょっと待てよ、何で大仏は出て行こうとするのかな?」

「はあ? 私は吹奏楽部よ、文化祭前の最後の練習なんだから行くわよ」


 至極真っ当な顔で大仏はそのまま教室から出ていった。呆然と大佛の後ろ姿を見送りながら呟いた。


「やられた……」


 その後、残ったクラスメイトと展示する作品を貼ったりしてクラスの文化祭の準備を手伝い、結局帰宅時間は部活の時と変わらなかった。



 翌日、文化祭は午前中にコーラス大会などがあり全生徒が参加で、午後からは吹奏楽部や演劇部などの発表があり、観劇しても教室の展示などを見て回っても個人の自由になる。


 朝のホームルームが終わり体育館に移動しようとしたら後ろから大仏が話しかけてきた。


「昨日はご苦労様」


大仏はいつもと変わらない口調で笑顔だが、感謝の気持ちは微塵も感じられない。俺は悔しそうな顔で言い返す。


「ご苦労様じゃないって、せっかく早く帰れるチャンスだったのに」

「早く帰っても何かやる事あるの? 委員長が助かったて感謝してたよ」

「まぁ、準備が終わった時に凄く感謝されて嬉しかったけど……」

「なら良かったじゃない」


全く俺の言いたい事を理解していない、ため息を吐きそうになる。


「そういう問題じゃない、人に押し付けて……」

「お陰様で最後の練習もバッチリよ、ちゃんと聞きに来なさいよ」


 最後には、大仏の顔は自信満々でこちらの都合は関係ない感じだ。まあいつも通りの事なのですでに怒る気も起きない。


「はいはい、行きますよ」


 俺がいい加減な返事をするので、大仏は疑いの目で見ている。


「分かったよ、ちゃんと行きます」


 今度は俺が真面な返事をしたので大仏は納得したようだ。


(これは本当に見に行かないと後で煩く言ってくるな……)


 その後、コーラス大会は練習の成果もあったのか、三学年中で三位で表彰された。特に俺自身は何もしていないがクラスの一員として嬉しかった。

  この後は、吹奏楽の演奏を見る以外に予定もない。あの件さえなければ、笹野と一緒に見て回るイベントぐらい起きたかもしれないが……そんな事を考えても仕方ないので裕司と一緒に見る事にした。


「吹奏楽部の演奏は行かないといけないからそれまでどうするか、裕司は何か見たいのがあるか?」

「特に無い、これじゃなかなか時間が経たないなあ」


祐司はすでに退屈そうだ。このままでは間が持ちそうにないので俺が提案をする。


「それじゃとりあえず一年の展示でも見て見みるか」


 祐司は仕方なさそうに頷き、一年の展示がある三階に移動する。二年の展示から行くと笹野達と何処かで遭遇する可能性が高そうな気がしたので一年から見て行くことにした。

 クラス毎各教室に絵や書道など展示してある。立派なものからクスッと笑えるものまで色々あり、部活の後輩の作品を見付けては裕司と「上手い」や「下手くそ」など品評してそれはそれで楽しかった。

 そして五つ目の教室に入った時に見知った顔があった。


「よう! 枡田じゃん」

「あー先輩達、どうしたんですか? こんなところまで」

「次の予定までかなり時間が余ってるんだ、そういえばここは枡田のクラスなのか?」

「そうですよ、私の作品を見て下さいよ」


 そう言って枡田が書いた書道や風景画を案内してくれたが、どの作品もかなりレベルが高い。もしかして枡田はかなりスペックの高い女の子なのかと疑ってしまう。


「凄い上手いじゃん、もしかして勉強とかも出来たりする?」


 冗談混じりに聞いてみたら、枡田の隣にいた子が自慢するように話してきた。


「成績も優秀だよね、学年トップクラスだもの」


 よほど仲がいいのだろうその子を枡田がペシッと叩き、恥ずかしそうに首を振り否定しようとしている。確かに成績が良いのは事実だろう、 これで運動も出来たらと思った時にこの前の試合を思い出した。


「この前の試合、レギュラーチームだったんだな」

「そうですよ、新しいチームになってからです、公式戦にも何試合か出たんですよ 」

「そうなんだ、驚いたよ、すぐにでもスタメンにもなれるじゃないか?」

「えっ、そ、そんな……まだまだですよ」


 予想外の言葉だったのか、大きく手を振り恥ずかしそうにしていたが、文武両道とは彼女の事である。暫く枡田の友達とクラスでの様子を話していたが、裕司がヒマそうにしてる。さすがに放っておくのは悪いので次に移動する事にした。


「それじゃ次に行くよ、また部活でな」

「先輩またねー」


 元気よく手を振る枡田の姿があったが、驚かされてばかりで、顔も可愛いし性格も良さそうだし文句のつけようとがない……そんなことを考えていた。


 その後も裕司と校内を歩き廻り、時間をなんとか潰して大仏達の吹奏楽部の演奏を聴きことが出来た。これで文句を言われる事はないだろうと安心して文化祭は終了した。

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