練習試合と後輩
週末の金曜日の放課後、まだあれから三日しかたってない。もちろん状況はなにも変わっていない。
とりあえずこの三日間は笹野と会うことがなかった。
会うことがなかったと言うより会わないように休憩時間は教室から出ずに、昼休みは教室から逃げるように例の非常階段へ行っていた。
昨日は適当に理由をつけて部活を休んだが、今日は休む訳にはいかない。何故かというと明後日は練習試合があるからだ。
憂鬱な気持ちで体育館に向かい、部室の扉を開ける。すでに何人か着替えをしている途中だった。その中には慎吾の姿もあった。
「おぅ、宮瀬、調子はどうだ?」
分かりきったことを慎吾がからかい気味に聞いてきた。
「見れば分かるだろう……」
「まぁ、そんなに落ち込むなよ、もうなるようにしかならんからな」
「そんな他人事みたいに……」
「だって他人事じゃん」
「ぐぅ、そりゃ慎吾からしたらそうだよな……」
俺が諦めたような顔をしていると、背後からポンっと俺の肩を慎吾が叩き真面目な顔をしている。
「後は笹野が選ぶのじゃないか? 今のところアイツも何か行動を起している訳でもないみたいだしな」
そう言って着替え終わっていた慎吾は部室を出て行った。
(笹野が選ぶか……確かにそうだけど……)
慎吾が言いたい事は分かるのだが、俺は結局何も出来ないままだ。
そのまま暫く悩んでいたが、気が付くと周りには誰も居なかったので慌てて着替えて部室を出ていった。
練習試合の前日とあって、基礎練習よりも実践的な練習を多くしたが、俺自身はまだ調子は上がっていない。
一昨日程酷くはないけど、いつもならミスをするはずのない位置でシュートが入らなかったり、ディフェスの時も反応が鈍いので無駄なファールをする状態だった。
ハーフコートでの三対三も俺がいるチームがなかなか勝てない。負け続けるから体力の消費も早くなる。
「ちょっと休憩しよう」
声を掛けて、クールダウンする為に体育館の外に出た。
この前と同じ場所で水筒のお茶を飲みながら座っていると、一昨日と同じような声で話しかけてた。
「あぁーー、先輩またサボってる」
声がした方向へ振り返ると声の主は後輩の枡田だった。
「残念ながら違うぞ、ちゃんとした休憩タイムだ」
俺は当たり前だという顔で愛想なく返事をして、お茶を一口飲む。
「そうですか、失礼しました」
笑みを浮かべながら枡田は頭を軽く下げていた。俺はそのまま座って休んでいると予期しない質問をされてしまう。
「そういえば先輩、昼休みに非常階段の所で何してるんですか?」
「えっ……」
慌ててしまい返事が出来ずに黙ってしまう。
(まさか見られていたのか……)
枡田が不思議そうな顔で俺を見ているので、とりあえず思いついた適当な答えをする。
「そうだな、何となく一人で考え事をしたくて行ったら、意外と見晴らしが良くてな、誰も居ないから……」
「へぇ、そうなんですか」
俺の回答に対してあまり信用していないような返事を枡田がした。
「だからといって何も怪しい事はしてないよ」
「ふふふ、別に疑ってませんよ」
俺の言い方が不自然だったのか、笑みを溢して可愛らしく返事を枡田がしたが、本来聞こうとしていた質問をしてくる。
「で、調子は戻ってきましたか?」
笑顔だった枡田の顔は心配そうな表情に変わっていたので、素直に今の調子を答えた。
「うーむ、まだかな……」
「大丈夫ですか? 明日、練習試合でしょう?」
「そうだけれど、こればかりはなかなか難しいよ……」
「でも先輩がしっかりしないと」
「俺じゃなくても順司や慎吾達がいるから大丈夫だよ」
俺の弱気な言葉に、枡田は語気を強めて反論してくる。
「ダメですよ! 宮瀬先輩がチームを引っ張っていかないと、先輩じゃないといけないんです!」
真剣な表情で枡田に言われてしまい返す言葉がない、俺は情け無い顔していたのだろう。
「頑張って下さいね! 期待してますよ!」
励ますように笑顔で枡田は体育館に戻って行った。
(後輩に励まされてしまったな)
俺はグランドを眺めながら練習での様子を思い返していた。
(先輩じゃないといけない……そうだな、これ以上惨めな姿は見せられないな)
枡田の言葉を思い出して反省をして、落ち込んだままではダメだと気持ちを入れ替えた。
再開した練習ではシュートやパスが普段と変わらない状態になった。
翌日、練習試合の相手の学校に来ている。何故か女バスもいて、どうやら女バスも同じ学校との練習試合だったみたいだ。
顧問の先生は「説明したぞ」と言っていたが、どうやらちゃんと最後まで話を聞いていなかったみたいだ。
昨日、枡田が「期待してます」って言っていたのか納得した。
試合相手のK野中は俺達のチームと実力がほとんど同じぐらいで、いつも得点差は僅差で勝ったり負けたりの試合をしている。
一試合目は一年同士の試合で、その間に準備運動などアップをして備えていた。
隣のコートは女バスが同じく一年同士の試合をしていた。
遠目に女バスの試合を見てみるが、プレーをしているメンバーに枡田の姿はなく、ベンチにも姿が見えなかった。
あまり見ているとチームメイトから誤解を与えそうなので探すのは諦めた。
一試合目が終了して、いよいよ試合が始まる。スターティングメンバーはいつもどおりだ。
「行くぞー!」
俺が声出すと、皆んな気合いを入れそれぞれのポジションに移動した。
「ピッー」
笛の音が響いて試合がはじまり、ジャンプボールで三井が競り勝ちマイボールになり幸先良くスタート出来そうな気がしてくる。
予想通りに先制点が入り、続けて相手チームのミスやシュートを外したりで五連続得点が入り上々のスタートになった。
その勢いのまま第一Q、第ニQは俺達のチームのペースでゲームが進んだ。
あれだけ調子が悪かった俺も昨日の枡田の言葉で吹っ切れたのか、ゴール下のシュートをハズす事も無く、リバウンドは競り勝ちゴール下を制覇していた。
さすがに慎吾や順司達が驚いている。
「あんなに調子が悪かったのに、なんか良い事でもあったのか?」
同じことを疑いの眼差しで何度も聞いてきた。
「別に何にもないよ」
俺も同じ返事を慎吾や順司に繰り返した。
最後はからかうように同じ事をチームメイトみんなから言われたが、俺は笑って返事をした。
ハーフタイムになり隣のコートでは少し早めに第三Qが始まっていた。その試合でプレー中の選手に枡田の姿があったので驚いた。
(レギュラーチームだったんだ)
試合の途中から入ったようだが、スタメンと変わらないぐらい良い動きをしていた。
今度話かけてきたら褒めてやろうとと思い、視線を戻して休憩をとった。
ハーフタイムも終わり第三Qが始まり、チームの勢いは続いた。段々と点差も開き気味になり途中からは俺以外メンバーは交代しなが試合が進んでいく。
「俺の交代は?」
顧問の先生を見るが無視されてしまう。
第四Qになる頃には完全にバテてしまうが、交代させてくれる気配がなかったのでかなり辛かった。
後で聞いたらやはり一昨日サボった罰らしい。でも調子が良いから使い続けたとも言えるかもしれないが……終わってみれば十点差以上つけての余裕の勝利だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます