初めての遠出 ③
下山する為に再びロープウェイに乗り山に登る前に話をしていた公園に向かった。時間も昼の十二時を少し過ぎた頃で、朝も早かったのでお腹の減り具合もちょうどいい感じになっている。
公園に着くと昼時とあって空いているベンチが無く、レジャーシートを敷いている人もかなり居て簡単に座る場所が見つかりそうになかった。みんなで手分けしてやっと八人が座れそうなスペースを見つけることが出来た。
「少し狭苦しいけど……ここでいいだろう?」
見つけた場所を見渡しながら慎吾がみんなに尋ねてきた。
「いいじゃないのここで、シート持ってきてる人は?」
白川が持って来たシートを持ちながら確認をする。女子達は全員シートを持っていたが男子は俺しか持っていなかった。
慎吾と順司は既に白川と芳本に座らせて欲しいと頼んでいる。裕司は「オレはいいよ」といったいった感じで一人でコンビニの袋を敷いて既に座っていた。
「宮瀬くん、こっち!」
笹野が手招きして俺を呼んでいる。
「これ使えよ」
手にしていたシートを裕司に渡して笹野達の所に移動した。
(待てよ、ごく自然に横に座ろうとしてるけど、恥ずかしくない⁈ まぁ、今さら思っても仕方ないか……)
冷静に考えれば、隣に座るだけなのだが……
色々と頭の中で迷ったりしたが、素直に笹野の横に座る。
「狭くないか? もう少し端に寄ろうか?」
迷惑をかけたらいけないと不安になり腰を浮かして移動しようとしたが、笹野がすぐに首を横に振る。
「大丈夫だよ、狭くないから座って」
優しい笑顔でサンドイッチやナゲットとか入っている容器を笹野が開け始めた。俺は行きの船で笹野がお弁当を分けてくれると言っていたので凄く期待していた。
「美味しいそうじゃん」
俺がお弁当の中身を見て、恥ずかしそうに笹野が答える。
「ありがとう、遠慮せず食べてね」
準備よくウェトティッシュを俺に手渡してくれた。早速ひとつ、タマゴとレタスが挟んだサンドイッチを食べる。
タマゴの味とレタスのシャキシャキ感はバツグンで本当に美味い。あっという間に完食して二個目に手が伸びる。
「マジで美味いよ!」
「良かった……」
安堵と照れた表情をする笹野の姿を見て、俺は幸せな気持ちになる。
「早起きした甲斐があったね、絢ちゃん」
笹野の隣に座っている玉木が嬉しそうな笑顔をしている。
二個目のポテトサラダが入ったサンドイッチを食べながらお弁当の分量を考える。
(女の子が一人で食べるには量が多くないか? もしかしたら始めから一緒に食べるつもりだったのかなぁ……)
そんな事を聞くことは出来ない。悩んでみたが、あまりの美味しさに三個目を手に取り食べ始める。
隣では笹野と玉木が楽しそうに会話をしていた。
「早起きして作ったの?」
ひとりで食べ続けているで気が引けて、笹野に質問すると恥ずかしいそうに俯きながら答える。
「えっ……うん、いつもの学校に行く時間より早いかな」
「そうなんだ、大変だったね、本当に美味しいよ……ありがとうね」
俺は丁寧に頭を下げてお礼を言った。俺のお礼に驚いた表情で笹野が手大きく横にを振る。
「そんな……宮瀬君が美味しく食べてくれたから嬉しいよ」
微笑んだ顔で笹野の純粋な言葉を聞いてドキッとして落ち着いていれなくなりそうだった。サンドイッチ以外も食べながら、笹野と楽しく会話をしていた。
「ごちそう様……またお願いって言ってもそんな機会はないかな」
「そんなことはないわよ……また作って次も一緒に食べようね」
俺は冗談混じりにお礼を言ったつもりだったが笹野は本気で答えてくれて恥ずかしそうにしていた。
タイミングよく慎吾達が立ち上がって俺と笹野の様子を伺っている。
「そろそろ次に行こうか!」
慎吾は意味ありげな笑みを浮かべで片付け始めている。俺と笹野も慌ててを片付けを始めた。
「それで次は何処に行くのだ?」
シートを折りたたみながら慎吾に行き先を尋ねると迷ったような顔をしたがすぐに思いついたようだ。
「そうだなぁ、水族館の辺りに行ってみるか?」
誰も反対することなく、水族館方面に行くことになった。
立派な建物ではないがこじんまりとしている水族館で、ここから徒歩で二十分くらいの場所にある。
再びみんなでワイワイと話しながら向かって行く。土曜日の午後で天気も良く人が結構増えてきた。水族館に着く頃には、並ぶことはないが予想より人は多かった。
水族館の中でも人が多くてあまり落ち着いて笹野とは会話が出来ず水槽の前で「おー」とか「へー」など声をあげるだけでゆっくりと見ることは出来なかった。
最後のイルカショーのあるプールも混雑して全員が集まって座れる席がなくバラバラで座ることになった。俺は残念なことに裕司と一緒に観ることになった。
一通り見終わり水族館から出て桟橋方面に歩いて向かいその途中にある砂浜で休憩をする事になった。
日も大分傾きかけてきて、俺は砂浜の上のコンクリに座って、その目の前で慎吾達が何故か裸足で走って白川達とはしゃいでいる。
慎吾達が楽しそうにしているのを眺めていると、横から気配を感じて振り向くと笹野が座ろうとしていた。
「あれ、白川達と一緒じゃなかったの?」
「うん、少し疲れたからこっちに来たの」
驚いた俺とは対照的にちょっと疲れた表情した笹野が座り込んだ。
「そうだな、さっきの水族館も人が多かったしなぁ……」
「そうね、最後のショーも一緒に座れなかったもんね」
普通に返事をした笹野に一瞬焦ってしまうが、笹野の疲れた表情を見て気遣った。
「早起きをしたりサンドイッチ作ったり、朝から大変だっただろう、明日は日曜だし、ゆっくり休みなよ」
「うん、ありがとう、心配してくれて……」
疲れた顔をしていた笹野の表情が嬉しそうな笑顔になる。
「笹野とこんなにたくさん話をしたのはいつ以来だろう?」
「うーん、どれくらいかなぁ?」
「でも……昔と変わらないっていうか、懐かしさがあってとても楽しかったよ」
俺の素直な感想だった。これって言えるものはないけど、笹野と一緒にいて安心感があるような気がした。
「……私もよ、また遊びに行きたいね」
笹野の返事が二人だけでという意味なのか、気になったがタイミング悪く俺達を呼ぶ声がする。
「おーい!そこの二人、こっちに来い!」
慎吾達が手を振って呼んでいる。俺と笹野は顔を見合わせて同時に笑った。
「それじゃ、行こうか」
同時に立ち上がり慎吾達の方へ向かっていく。
(今日一日かなり距離が縮まったかな)
そう心の中で呟いた。
帰りの電車の中は行きと違い、みんな疲れからか静かに会話もほとんどすることはなかった。
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