初めての遠出 ②
駅に到着後、今度は船に乗る。観光地ということもあり人がかなり多い。
「はぐれるなよー」
慎吾の声が聞こえる。その声について行き船乗り場に向かい到着している船に乗り込むが、やはり人が多いので慎吾達を見失いようについて行った。
(こんな時には笹野の手を引いてはぐれないように……)
頭の中で妄想をしながら恥ずかしくて出来ないなんて人混みで考えていたら案の定みんなとはぐれてしまった。
幸いにも天気が良く寒くもないので広々した甲板に居ることにした。下手に動くよりは大人しく止まっていたほうが無難だと海風を感じながら景色を眺めていた。
「ここに居たんだ宮瀬君」
名前を呼ばれたので振り向くと白川が立っていた。
「ははは、情けないことに船に乗り込む時に皆んなを見失って、外に居た方が見つけやすいかなってね……他のみんなは?」
「そう良かったわ。一瞬バラバラになりかけたけど、宮瀬君以外は全員反対側に居るわよ」
笑顔で白川が説明してくれて、結果的に俺ひとり逸れてしまったので情けなかったがひとまず安心した。
今話をしている白川とは同じクラスになったことが無いが、部長同士ということで何度か話をしたことがある。さすがに部長だけあってしっかり者で頼れる感じのタイプだ。
「それにしても、井藤君って情報通よね」
「なんだよ突然」
なんの前触れもなく慎吾の事を言い始めたので、思わず吹き出しそうになる。
「さっきの電車の中の時も色々な人の話題を話してたよ」
「でも同じクラスだろう、普段は慎吾と話したりしないのか?」
「いつもはそこまで話さないよ」
「へぇ、そうなんだ。でも今回の慎吾の話によくのってきたよね……」
「そうね……別に井藤君も悪い人じゃないし、第一に面白いそうだったしね、あとはあの子がね……」
白川は何か気がついたのか、笑みを浮かべ言いかけたままで奥の方を見ている。俺は白川の表情の意味が分からなかった。
「まぁ、慎吾の情報通ってのは、いろんな意味で助かるよ、友達で良かったと思う」
俺は笑顔で頷いていたが、本心でそう思っていた。
「そうね、敵にでもなったら厄介かもね」
白川も同じように笑みを浮かべているとまた不意に名前を呼ばれた。
「宮瀬君、探したんだよ」
声の主は笹野だった。俺は焦ったが目の前に白川がいる手前、出来るだけ落ち着いた表情をした。
「ごめんな、はぐれて」
手を合わせて頭を下げて平謝りをするが、白川が俺の様子を見てクスッと笑っている。
「見つかって良かったー安心したよ」
笹野は白川の笑みには気付かなかったようで、安堵の表情を見せた。
「それで……由佳ちゃんと何か話してたの?」
「白川が俺を見つけてくれて……」
そう言って白川に説明してもらおうとしたが姿がなかった。当の本人は慎吾達が居る所へ向かっている姿が見える。
「 別に大した話はしてないよ、慎吾の話題かな……」
会話が途切れてしまったので慌てて話の説明をする。
「そうなの……」
笹野は何か気になることがあるのか曖昧な返事が返ってきたが、すぐに表情が変わり恥ずかしそうにしている。
「ねえ、お昼のお弁当持ってきたの?」
「いや、弁当は持ってきてないよ、来る途中でおにぎりだけ買ったんだ」
親には先週の試合で弁当を作ってもらったが、今回は遊びに行く為なので頼むことはせずにコンビニで買うことにしていた。
「あの……おにぎりだけだったら少なくないでしょ……サンドイッチで良かったら、ちょっと多めに作ったから食べる?」
「えっ、いいの多分直ぐにおなか空くだろうなって思ってたから」
一瞬飛び上がって喜んでしまいたくなるぐらい気持ちになるが抑える。でも満悦な笑顔は隠せずに興奮気味になる。
「ありがとう、めちゃ楽しみにしてるよお昼!」
「うん……」
照れた表情で可愛く笹野が小さく頷く。
船が島に到着して、今度こそはぐれないようにみんなについて行く。船乗り場前の広場に着いた頃には、人が分散したのでみんなで一度集合して何処へ行くのかを決める。
「まずはあそこに行こうと思います!」
そう言って慎吾が差す方向は山の上だ。
「えーー⁉︎」
「でもロープウェイがあるし、そんなにキツくないよ」
みんなが悲鳴みたいな声を出すが、慎吾はいろいろと上手く言ってみんなを説得し行くことになった。
ちょうど目の前に案内板があってここから歩いて15分と書いてあり、その道順通りに歩いていく。途中に公園があり遊具などは無いがテーブルやベンチがある。
「戻って来た時にここでお昼たべようか?」
「いいじゃないのここで」
慎吾の意見に全員が賛成で昼食はここでとる事に決まった。
ロープウェイ乗り場までみんなでワイワイと話をしながら来たのでさほど苦にはならなかった。
ロープウェイ乗り場に到着すると思っていたより人が多くて驚いた。二回ほど待って全員乗ることが出来たが窮屈な中での移動になった。山頂の駅に着いてそのまま展望台に向かった。
「わぁー、スゴイ眺めが良いね!」
みんながそれぞれ景色を眺め、女子達はスマホで写真を撮っている。
「皆んなで撮ろうよ」
白川が声を掛けて全員が集合して撮る事になった。どの位置で撮るか若干揉めたが無事に撮る事が出来た。
みんなで撮った後に、俺と笹野が二人で並んだいた状態になった。
「おーい!こっち向いてー」
玉木の声がしたので二人とも声の方向を向いた。
「カシャ」
スマホの撮影音がして、すぐにに玉木は撮れた画像を見てウンウンと納得した表情で頷いている。
笹野は玉木の所に急いで行き画像を覗き見て照れ臭そうな表情をしている。
俺はひとり取り残されて笹野達の様子を見ていると、お互いのスマホをやりとりしている。恐らくさっき撮った写真を送ってもらったのだろう。
でも残念ながらスマホを持って無い俺は送って貰うことが出来ないし、直接見せてもらうタイミングも逃してしまったので、いったいどんな写真だったのか気になりながら下山することになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます