初めての遠出 ①
普段は練習がある土曜日なのだが、体育館が使用出来ない為に部活は休みになった。朝八時、自宅の玄関で学校も練習もないのだが出掛ける準備をしていた。
「いってきます!」
空を見上げると雲ひとつない快晴で心地良い感じだ。ここから最寄りのバス停まで歩いて三分ほどで、そしてバスで集合場所の駅前まで三十分弱かかる。
バス停に着いてすぐに駅へ向かうバスがやって来てた。土曜日なので乗客が少なく座席には余裕で座れた。
「何でこんな早い時間から出掛けないといけないのかな……」
心の声が思わず出でしまい呟いていた。
(でも本当は楽しみにしていたんだよな……)
この前の雨の日に慎吾が練習後に言っていた『遊びに行く』為の集合場所に向かっている。
メンバーはバスケ部から慎吾と順司、俺と祐司の四人と例の女子卓球部の四人で駅前に九時集合になった。
「そうだ、集合場所へ行く前にコンビニに寄って昼飯を買っとかないと」
浮かれている気持ちを隠すように昼飯の心配などしているうちに駅前のバス停に到着した。
まだ朝の土曜日で時間も早いので駅前に人がそこまで多くなかった。目の前にあったコンビニに入りお茶とおにぎりを選んでいると店の外で歩いている裕二の姿が見えた。急いで精算を済ませて小走りで裕二に追いついた。
「おはよう!」
祐司は俺の声に反応したが、まだ眠たそうな感じだ。
「おはよう……」
「何でせっかく部活も学校も休みなのに早起きして出てこないといけないかなぁ……」
不満そうな顔で裕二が愚痴ってきた。裕二はただ人数合わせで呼ばれていたので仕方がない。
女子卓球部も四人で来るということで、バスケ部の中でも無害そうでかつヒマそうな裕二を呼んだのだ。
「そう言うなよ、女子が四人もいるんだし、少しは楽しそうにしろよ…… 」
慰めるように祐司に言ったがあまり関係ないようで意味がなかった。俺はその後も祐二のテンションが上がるように話しかけるが無駄だった。
集合場所である噴水広場には他の待ち合わせが何組か居た。まだ慎吾達は来ていなくて俺達が一番乗りだった。暫くすると順司と慎吾が別々にやって来てバスケ部のメンバーは全員揃った。
集合時間の五分前にバス停のある方向からやって来る女の子四人組が見えた。すぐに慎吾が気付いて、両手を大きく振って合図を送っている。
「お――い、こっちだよ――」
慎吾の合図に彼女達も気が付き手を振りながら集合場所に早足でやって来る。
「おはよう。ゴメンね、待った?」
始めに笑顔で挨拶してきたのが部長の
「いや、まだ時間前だし全然待ってないよ」
慎吾が笑顔で答える。
「よーし! みんな揃ったし出発しようか」
慎吾を先頭に駅の改札の方へと向かい、他のみんなも続いて行き、券売機で切符を買い改札へ行く前に電車の時間を確認した。タイミングよくこの駅が始発の電車があった。
ホームで、それぞれバスケ部四人と卓球部の女子同士で固まって電車の到着を待っていた。
裕二や順司と話をしていると電車がホームに入って来る。その時隣にいた慎吾が俺に頼みごとをしてきた。
「座席は2つ分確保するから頼んだぞ」
急に言ってきたので慌てて、電車のドアが開きダッシュで席取りに行く。しかし始発で時間もまだ九時だったのでそんなに急がなくても余裕で2つ分確保することが出来た。
(なんかはりきっているみたいで恥ずかしいな……)
慎吾に嫌味の一つでも言ってやろうとしたが、今度は意味ありげに慎吾がみんな声をかける。
「席順は男女で分かれても楽しくないから……」
慎吾の提案にみんなが従い、慎吾と順司、白川と芳本の四人と俺と祐司、玉木と笹野の四人のグループに分かれた。
グループ分けは、慎吾達のグループの四人は同じクラスだったのでと問題なく決まった。
俺達のグループは、笹野が窓側で玉木が横に座り、向かい側に俺と祐司が座った。実際に座ってみると目の前には笹野が座っている。
まもなくしてアナウンスが流れて電車のドアが閉まり発車した。車内が揺れて少しづつスピードを上げる。
やっとここで今日始めて俺は笹野に話しかけた。
「とりあえず天気が良さそうで安心したよ」
「そうね、ちょうどいい感じの天気よね」
笹野が優しい笑顔で返事をしてくれた。隣に座っている玉木は同じクラスになったことはないが部活の時に笹野と一緒によく話をしている姿を見ている。
直接話をした事はほとんど無いが、細身のスラッとした感じの美人で俺の周り男達の話題にもちょくちょく出てくる。
始めに笹野と会話をしてからあまり話題が続かず、笹野と玉木が仲良さそうに二人で会話をしていた。俺も祐司と会話をしていたが、同じクラスで毎日顔を合わせている仲なので話すこともすぐになくなり、窓側に座っていたので流れる景色をなんとなく眺めていた。
「退屈そうだね……」
不意に玉木が笑顔で話しかけてきた。
「別に退屈って訳じゃ無いよ、クラスが違うしなんて会話すればいいかなって考えていたんだ」
日頃から慎吾みたいに女の子と話す機会も少ないので良さそうな話題が思い浮かばない。まだ笹野だけなら昔からの顔馴染みで多少は大丈夫だけど……そんなことを考えていると玉木から話題を振ってきた。
「そういえば宮瀬君って昔、卓球をやってたんだよね?」
「そうだよ、なんでそのことを知ってるの? 小学校が違うのに……」
俺は疑問に思い玉木を見ると玉木が何故か笹野の顔を見て微笑んでいた。
「絢ちゃんが言ってたのよね、すごく上手いのになんで卓球部に入部しないんだろう、始めの頃はすごく残念がってたよね」
いきなり話を振られた笹野は動揺しているようだ。
「えっと……」
「だって絢ちゃん、また一緒に練習とかやりたかったってよく言ってたよね」
焦っている笹野を無視するように玉木が嬉しそうに話している。俺は玉木が言ったセリフを笹野から聞いたことがあったがここでは口には出さなかった。
笹野は恥ずかしそうな表情をして、さすがに俺も恥ずかしかったので思わず俯いてします。
「それに最近よく宮瀬君が練習しているところ見てるよねぇ」
更に玉木がからかい気味に言うので笹野は拗ねた様子で玉木の肩を叩いる。そんな笹野の仕草が可愛らしい見えた。
「宮瀬君、昔卓球クラブに入っていた頃に……」
笹野が焦り気味に話題を変えようと俺に話しかけてきた。俺は過去の話題よりクラスが違うのであまり知らない今の笹野のことを聞きたかったが、焦っている笹野の姿を見て昔の話に合わせてあげることにした。
玉木も苦笑いしてイタズラが過ぎたと思ったのか、それ以上は笹野をからかうことはなかった。やっと打ち解けた雰囲気になり、部活やクラスでのありきたりの話をしながら時間が過ぎた。
「まもなく〜」
車内アナウンスが流れて、やっと目的地の駅まであと数分の所まで来た。
「そろそろ降りる準備をしようか」
そう言ってそれぞれ降りる準備を始めた。
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