第147話 フルートに風花のせて少女像


 

  

 

 トオルの住む内陸部の高原のまちは国際的な音楽都市として知られ、その象徴のように楽器を演奏するブロンズ像が、駅前や公園などの随所に設置されています。


 葉をつけたまま冬を越すヒマラヤ杉が丈高く生い茂る中心部の公園。その一画で横笛を吹く清楚な少女像。風花が舞い降り、フルートの上に、そっと止まります。


 散歩の途中で清新な景を眺めながら、子どものころから高名な師について習った(習わせられた)ピアノを挫折してしまった、高校時代の葛藤を思い出しました。


 ――かあさん、期待を裏切ってごめんよ。おれには才能がなかったんだ。

 

 

                ♬

 

 

 県と市と、行政を挙げての音楽イベントに、毎年、高額な税金を投入することに必ずしも賛成ではなく、文化会館の運営委員会や外郭団体の理事会では「舞台芸術だけが文化ではない」と、地域紙経営者の立場から異論を唱えたこともあります。


 そして、現在も地味な活字文化への理解不足への嘆きに変わりはありませんが、それはそれとして……このまちを終の棲家と決めている一市民としては、城を中心に古い歴史に支えられた静謐でオリジナルな文化風土を誇りに思っているのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る