第83話 裸木のムンクの叫び放ちたり
――おやじはおやじなりに、一所懸命だったんだな。
髪が白くなったキヨシはそう思うようになりました。
❄
父ひとり子ひとりだった小学生のころ、国語のテストで花丸をもらって来ても、
――いい気になるんじゃないぞ。世の中には上には上がいるんだ。
当時の自分にとっては魂の冷える言葉を投げつけたのも、高校教師として大勢の生徒を見て来たおやじとしては精いっぱいの「転ばぬ先の杖」だったのでしょう。
✡
ある団体に急接近した妻と価値観のズレが生じ、ついに別れを決めたときも、
――どこが気に入らないんだ。あんなにいい嫁さんはいないぞ。
ふつうなら絶対的な味方になってくれるべき身内が、深く傷ついたキヨシに粗塩を塗りこんだのも、息子の後半生の幸せを願ってのことだったのかもしれません。
その父親を文字どおり反面教師にしたキヨシは、自分の息子にはいっさい苦言を呈さず育てたつもりですが、どちらが正解だったかはいまだにわかりません……。
経営者と従業員、教師と生徒などと同じく、拠って来る立場が真逆の親子の思いがすれちがうのは当然で、人間社会の永遠のテーマなのかもしれない。
葉がなくなった桜並木を歩きながら、キヨシはそんなことを考えています。
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