第84話 卓の上に手袋かさね席立ちぬ


 

 

 

 

 コロナ感染予防も兼ねてという薄手の青い手袋を着用して現われた女友だちは、直後に掛かって来たスマホと店外で話していましたが、案外、時間がかかり……。


 所在なく待つテツオの前には、珈琲カップの横に重ねて置かれた1対の手袋。



                ☕



 それは、ついさっきまで入っていた、女友だちの手や指のかたちそのもので。


 いまにも動き出しそうな曲線の膨らみをそれとなく見やりながら、彼女に流れた歳月と自分に流れた歳月、重なった部分とそうでない部分をたどったりして……。

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