第74話 ひと粒のなみだとなりて枯木星


 

 

 

 

 ちょっと意地っ張りなので、だれにも打ち明けられませんが、悲しみの芥子粒を胸の底に秘めているアリサは、うっかりすると、知らずに目が潤んでいるらしく、

 

 ――どうしたの、花粉症? ふふふ、まさかと思うけど、失恋だったりして。

 

 からかわれたりするので、人前では至極ポジティブなタイプを心がけています。


 その反動からか、ひとりになると、いきなり嗚咽がこみあげてくることもあり、それはそれで昂ぶった気持ちを鎮めるのに努力を強いられるので、なるべく芥子粒の存在を思い出さないようにしているのですが、そうもいかないときがあり……。

 

 

               ✬

 

 

 待っていてくれる人も、待つ人もいない暗い家への帰路、ふと見上げた宵の空に、裸の樹林の、裸の梢のあいだにはさまれ、ひと粒の青い星が瞬いていました。


 誘われたように、木枯しにさらされたアリサの頬にも、ぽつんと涙がひと粒。

 これ以上はご法度だよ、星だってひとりなんだから、と自分に言い聞かせて。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る