第67話 オリオンや言葉を選ぶ川の道

 

 

 

 

 それはまことに奇妙なデートでした。


 冬のイルミネーションを映す川の岸に携帯ラジオを持ちこみ、ハンカチを敷いたベンチにフウカを座らせ、彼が尊敬してやまないという文学者の講座を聴く……。


 繁華街から洩れ伝わる喧噪や電波の雑音も手伝い、フウカにはほとんど聴きとれませんでしたが、彼が如何にその作家に心酔しているかは痛いほどわかりました。

 

 

               📻

 

 

 一木造りのカウンターのバーで、マティーニやソルティドッグなどのカクテルを数杯かさねたあと、送って行くと言って聞かない彼と川沿いの道を歩いて行くと、行く手の中空にオリオン星座が傾き、あたり一面に青い月光が降りそそいで……。

 

 ――ほら、今夜のきみがあんまり魅力的だから、月が川面に散らばっている。

 

 半年前に文芸サークルで知り合った彼は臆面もなくそんなことをつぶやくので、素朴なフウカは返す言葉に困ってしまい、足どりまでギクシャクしたりして……。

 

 

               👢

 

 

 それからほどなく通信社勤めの彼は北陸へ転勤し、恋人未満の仲は自然消滅したのですが、ごくふつうの人と結婚したフウカはいまもときどき思ってみるのです。

 

 ――あの人、行く先々の赴任地で、同じ言葉を囁いていたんじゃないかしら。

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