第59話 スィングして震へるジャズや星月夜




 

 

 新型コロナの流行で、大声を出すことはもちろん、マイクを持って歌うこと自体が諸悪の根源と見なされ、翅をもがれた蝶の如く打ちひしがれていたキララです。


 つい去年までは、年に何度か市立芸術館の大舞台に立ち、ビーズやスパンコールをいっぱい付けたピンクや赤、ブルーなど派手なステージ衣装をまとって、練習を積んだ楽曲を披露する数分が、30代半ばのアマチュア歌手・キララの生き甲斐でしたが、エンターテインメントが全否定されてからは、身の置き所がなくて……。

 

 

                🎤

 

 

 でも、澄みきった空から無数の星が降る今宵、歌仲間たちと一緒に、市街地から車で1時間ほどの高原の野外ステージに立つと、自然に身体がリズムに乗り出し、諳んじているジャズヴォーカルが、毛糸をほぐすようにスルスルと出て来ました。忘れてしまったのでは? と案じていたキララの心配は杞憂に終わったようです。


 

 ――やっぱり歌はいいな、最高だな!!!!


 

 文学と音楽、どっちを取る? 

 歌と同様、小説や短詩型の創作も好きな身に二者択一を問われても困りますが、地元の商工会で「歌姫」と呼ばれているキララにとっての歌は、生きて行くうえで欠かすことができない糧のひとつであることをあらためて思い知らされたのです。

 

 

                🌟

 

 

 シャッター通りと化して久しい中央通り商店街で、母とふたり小さなブティックを経営しているキララには、ちょっと人には言えない、大それた目標があります。

 


 ――憧れの山崎育三郎さんと同じ舞台に立つ。



 相手役だなんて高望みは申しません。

 ミュージカルの脇役か、その他大勢。

 せめてバックコーラスでもいいので。


 はぁ? 絶対に無理、ですか。

 意地悪なことを言わないでよ。


 別にいいじゃないですか。

 どんな夢を見ようと、キララの勝手でしょ?(*‘∀‘)

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