第58話 秋空を押し返したる鶏頭花
教習所の上の空は真っ青で、事務所の前の花壇に咲く鶏頭は真っ赤で。
分厚く盛り上がった花々が、ヨイショと空を持ち上げているみたいで。
――よおし、がんばって一発合格するぞ!
外のベンチで教習の順番を待つレイナは「押忍!」と気合いを入れました。
☀
金髪のポニーテールにダブダブのつなぎ、一見元ヤン姐さんに見えがちなレイナですが、根は至って気のいい女子なので、教習所でもたちまち仲間ができまして。
普通二種、大型、大型二種の教習日には、さまざまな人生経験を積んで来た老若男女が集まって来るので、ふだんは普通一種取得の若者が大半の教習所内は、少々毛色の変わった雰囲気になり、教官にもケースバイケースの対応が求められます。
薩摩焼酎のオンザロックが大好物とだれにでも豪語するレイナは、年下の愛しい夫(父ちゃん)のために大型二種免を取り、夫婦で産業廃棄物の工場を経営したいというでっかい夢を実現させるために、幼い子どもを姑に預けて通所しています。
🌺
バスの運転手志望という初老の男性が、緊張した面持ちで降りて来ました。
つぎはレイナの番です。
――押忍!
圧倒的な迫力で咲き誇る鶏頭の花を見ながらもう一度気合いを入れたレイナは、コースの発着場で待つ練習用のトラックに向かって、ドスドスと歩いて行きます。
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