第55話 バスの窓かすめる雑木紅葉かな


 

 

 

 大学生の息子が住むワンルームマンションは、京王線の主要駅から徒歩2分。

 駅の階段口に立てば、煉瓦造り風の8階建てのビルがすぐ目の前に見えます。


 頻繁な訪問が歓迎されないことは承知しているのですが、手塩にかけて育てた息子の初めてのひとり暮らしが心配で、サチエはたびたび上京せずにいられません。

 

 

                 🏢

 

 

 山梨を発った高速バスが終点の新宿に近づくと、紅葉まっさかりの街路樹が窓をかすめそうな近さまで迫って来て、サチエの期待感をいやが上にも掻き立てます。


 今回こそ屈託なく迎えてくれるかもしれない。

 親子だもの、うれしくないわけがない。

 いつもは照れくさそうにしているだけ。

 きっとそう、そういう年頃なのだ。


 そう思いたい胸をちらりと不安がかすめますが、さて、本日の首尾やいかに?

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