第49話 柳散る堀にアコギの弾き語り



 

 

 

 お城のお堀には、麗人の眉のような柳の葉がひっきりなしに舞い散っています。


 四季を通じて訪れる観光客の大半は外国の人たちで、何語か聞き取れない早口の言語でさかんに話しながら、土産物屋で買って来たおやきを頬張ったり、天守閣の威容を背景にスマホを構えたり、人力車に乗って公園内を巡ったりしています。


 

 

                ☁

 

 


 ギターを抱えて来た銀髪の男性がベンチにすわり、ポロンと弦を鳴らしました。


 近所の住人らしき犬連れの夫婦が足を止めると、同じく犬を抱いたり歩かせたりしていた人たちが集まり始め、もの慣れた様子で、弾き語りを遠巻きに囲みます。


 ギャラリーには目もくれず、男性は哀愁を帯びたメロディを奏で始めました。


 男の純情、丘を越えて、影を慕いて、酒は涙か溜息か、人生の並木道、無法松の一生、湯の町エレジー……ある程度の年輩者には懐かしい古賀メロディを次々に。

 


 

                🎸

 


 

 目をつむったり、小声で口ずさんだりしていたギャラリーが何度か入れ替わり、鋼色の天守から烏城の異名をとる城郭を夕日が照らすころ、堀端のギターリストは来たときと同様に黙ってギターを仕舞い、いずこへともなく立ち去って行きます。


 そのむかし、作家の小田実さんを中心に結成されたべ平連という社会活動団体がありましたが、ジーンズの男性は、そこの幹部のひとりだったとかなかったとか、ハラハラとひっきりなしに舞い散る柳の葉が、うわさをしているとかいないとか。

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