第38話 そろと出す猫の右手の寒露かな



 

 

 

 フユカ宅のお向かいの家の猫は、それはそれは可愛らしい猫さんです。

 猫は飼い主に似ると申しますが、お向かいさんは楚々とした美人さん。


 もしも猫の世界に大名家があったなら、金糸銀糸や色糸で仕立てられた絢爛豪華な小袖をまとい、ちんまりと道(?)に座っていそう、そんな猫さんなのです。


 

 

                🐈

 

 


 ある朝、フユカが外出のために玄関を開けると、その猫さんがちょこなんと。

 

 ――あら、おはよう。今朝は寒いのに、そんなところでなにをしているの?

 

 腰をかがめると、首に鈴をつけた黒猫はキュートに小首をかしげてみせます。

 試しに「お手」をさせてみると、犬でもないのに丸い手をちゃんと出します。

 

 ――けど、ごめんね。猫さんの好きそうな買い置きはないんだよねえ。

 

 思案しているところへお向かいの美人さんがやって来て、「ありがとうございました」丁寧にお礼を言うと、自分にそっくりの猫さんを抱いて帰って行きました。


 

 

                👩

 


 

 そのうしろ姿に、フユカは「やや、これは!」ちょっとだけ驚きました。

 美人さんのお尻から尻尾が伸び、歩くたびゆらゆら揺れていたからです。


 

 ――あらら、彼女って猫さんだったんだあ。それとも猫さんが人間だったとか?

だけど、どっちだってありかもね。なにしろわたし自身、自分が何者なのか、どこから来てどこへ行こうとしているのか、いまだにわかっていないんだものねえ。



 そう思い直したフユカは、ちょっと帽子を直して車のエンジンをかけました。


 

 

               🍵


 

 

         日々是好日。ちゃんちゃん。

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