第34話 切り取りて一眼レフの良夜かな

 

 

 

 

 東山の上からぽんと飛び出した満月は、見る見るうちに空を昇って行きます。

 地上の人たちは「うわあ、きれいだね、最高だね」みんなで見とれています。

 満月は照れくさそうに「やあやあ」と言って、一刻も早く高みを目指します。

 

 なぜって、満月はああ見えて知る人ぞ知る名カメラマンでありまして、地上がすっかり寝静まると、顔のカメラで美しいカットを撮りたくて仕方がないのです。


 

 月光に照らされ、幻想的な大花野。

 畑に採り残されているミニトマト。

 白、紅、紫が宙に浮いている秋桜。

 あるかなきかの風に靡いている薄。

 畔を埋め尽くしているゑのころ草。


 

 高原の牧場の厩舎に眠る馬の親子。

 里へ降りた母熊を待つ熊の子ども。

 月夜に浮かれ出た仔狸を叱る母狸。


  

 犬小屋から毛布が半分はみ出ている。

 ネオンの消えた路地を忍び歩く黒猫。

 ピカッと光ったのは中学生の自転車。

 


 

        📷

 


 

 ほら、あなたにも聞こえてきませんか、

 

 ――カシャッカシャッ、カシャカシャッ!

 

 満月が顔のカメラのシャッターを押す音。

 

 明日もきっといい天気ですよ!!(*^▽^*)

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