第26話 路地裏に幻燈ともす秋果かな



 

 

 城下町の蔵通り。

 秋の日が暮れると、人通りもまばらになります。

 その目立たない一画に小さな八百屋さんが一軒、

 

 ――ふかしいも、あります。

 

 ひらがなだけの張り紙を風になびかせて、遅い時間まで店を開けています。

 店の奥から引き出された裸電球が、温かなほおずき色の光を放っています。

 ほのかに照らされているのは、梨、葡萄、柿、林檎などの新鮮なくだもの。

 

 

                🍏

 

 

 骨ばった腰に藍色の前かけを巻いた老主人が、皺だらけの手を泳がせました。


 すると――。


 物かげにひそんでいた狸の子どもが、おっかなびっくり店に近づいて来ます。

 老主人はとりわけ美味しそうな葡萄を選んで、仔狸の手にのせてやりました。


 もじもじしていた仔狸はぴょこんと頭を下げると、暗闇に去って行きました。

 里山の巣穴には病気の母さん狸が、いまや遅しと仔狸の帰りを待っています。

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